1.「変なヤツだな、おめぇ」


…夢を見ていました…

まわりは真っ暗闇。
あたしのいるところにだけ、照明があたっているような…そんな感じ。
でも、不思議と怖さは感じないの。
だって、わかってるから。
ココにいるのはあたしだけじゃない。
貴方もいるってこと、わかってるから。

「あっ、いたいた!お〜いっ!!」

ほら、やっぱりね。
向こうのほうからあたしと同じくそこだけ明かりが当たっているように照らされながら、小さな少年が手を振っている。

また、会えた。

あたしもにっこり笑って、手を振り返す。




『見上げれば同じ空。<1>』




「…と、いう訳なのよ」

真剣そのものに熱を入れて話すあたしを、同僚・奈々は黙って見つめていた。
そしてあたしの熱弁が終わるのを待っていたかのように、一言。

「アンタ、それ相当キてるわ」

はい、否定はしません。
でも…

「な、何も即答しなくても」

思わず苦笑いのあたし。

「名前がドラゴンボールが大好きなのは今に始まったことじゃないし、わかってるわよ?」
「うんうん」
「でもね…毎日、夢の中であの主人公に会うなんて、相当キてるっ!!!」
「……………」

グッと拳を作りかねない勢いでそう言い放つ奈々に、あたしも思わず無言になってしまう。
そう…
ここ最近、あたしは毎日夢の中で彼に会う。
大好きな、ドラゴンボールの孫悟空に。
漫画を読んで、あたしの憧れの存在になった。
明るくて、強くて、いつも元気にさせてくれる…
そして、誰よりも優しい彼。
現実にこんな人がいたらどんなにいいか。
正直、何度となくそう思ったこともある。

「名前、現実を見なさい」
「見てるよ」
「い〜や、見てないわね。だったらドラゴンボールのことは置いといて、彼氏の一人でも作ってみなさい。アンタがその気になれば、すぐでしょ?」
「う…そ、そんなことないもん…」

言葉に詰まるあたしの肩に、奈々がポンと手を置いてきた。
そして、同情の眼差し…
あ…あたしだってね!
悟空みたいな人がいたなら、すぐにでも自分からお付き合い申し込むわよ!!(爆)
そんなあたしの叫びは奈々には届かず、あたしの心の中に小さく響いた。



その日の夜。

…あ、またこの夢。
あたしはまた、真っ暗闇の夢の中にいた。
夢なのに起きてもしっかりと覚えているし、何より“これは夢だ”って夢を見ながら思っているんだから、不思議。

「おっす!」
「あ、こんばんは」

自然と歩み寄って、向かい合って立つあたしたち。
いつもそうなの…あたしたちの間には透明の壁みたいなものがあって、見えない何かで遮られている。
彼はすぐその存在に気がついたみたいだったけど、あたしはわからなくて…
初めての時、思いっきり頭を強打したっけ。

「おめぇ」
「ん?」

そんなことを思っていると、ふと彼に話しかけられた。
心なしか、彼の表情がいつもと違う。

「随分久し振りだったじゃねぇか…オラ、もうどっか行っちまったんかと思ってたぞ」
「え?何言ってんの?」

彼の言ってることがわからなくて、首を傾げる。

「昨日も、会ったじゃない」

そう言うと、今度は彼が首を傾げた。

「んなことねぇぞ。前に会ったの、もう何年も前じゃねぇか」
「…へ?」

うそだ…そんなことない。
だって、あたしは昨日の夢でもこの人に会った。
そんなことをグルグルと考えているとき、ふと気がついた。
彼の目線が、少し高くなってる…?

「あれ…背、ちょっと伸びた?」
「そうか?よくわかんねぇ」

彼の頭の高さと自分の頭の高さを比べてみる。
うん…絶対伸びてる。
まだ、あたしのほうがちょっとだけ高いけど、一日でこんなに伸びるって事は…ないわよねぇ…
前に会った時はあたしの方が断然高かったのに。

「不思議だね…まぁ、夢だから何でもありか」
「ははっ。変なヤツだな、おめぇ」
「ふふっ、悟空に言われたくないわ」

真っ暗闇の何もない空間。
貴方がいるだけで、こんなにも暖かい。

「ねぇねぇ、それより聞かせて。また強くなったんじゃないの?」
「ああ!ばっちり修行してっかんな!」
「さすがだなぁ」
「名前にもオラが修行つけてやっか?」
「いっ、いいよ〜。悟空に修行なんか付けられたら、一日で死んじゃうわ、あたし」

あたしの言葉に笑う貴方の顔が好き。
夢だってわかっていても、何故か胸が暖かくなった…