19.そういえば、サイヤ人…
全世界のドラゴンボールファンの皆さま。
今まさに!!
あたしの目の前には、衝撃の光景が繰り広げられています…
『見上げれば同じ空。<19>』
あたしが悟空の捕ってくるであろう食材の数々に白旗をあげてから、数十分後…
「わ〜い、おじいちゃんだぁ!」
「おう」
あたしの目の前には衝撃的な光景が…
「こんにちは、お久し振りでしたね」
「あ?そうでもねぇだろ」
「ねぇねぇ、今日はゆっくりしていくんでしょ〜?」
「って、あぶねぇぞ、悟天。あぁ、飯は食ってく」
「わ〜い」
あのバーダックが…………おじいちゃんしてるのです!!
帰ってきた悟飯くんと悟天くんにはさっきみたいな鋭い目付きなんてしてないし…膝に乗ってきた悟天くんにも好きにさせているし…何より、その姿が意外にも様になっていて、びっくり…
「どうしたんです、名前さん??」
「へっ?」
ふと声をかけられて顔をあげると、すぐ近くに悟飯くんが立っていた。
「何かポカンとしてましたけど」
「あっ、ううん、何でもないの」
あはは、と笑いながら誤魔化すあたし。だって、言える訳ないじゃない…バーダックさんがおじいちゃんしてる姿が意外としっくり来てて見入ってた…なんて。
あたしだって、まだ命は惜しい。
「悟飯、オラ腹減ったぞ」
「はは、僕もです。すぐに支度しますね」
初めてこの世界に来た時から何となく感じていたことだったけど、チチさんがいないこの孫家では、やっぱり悟飯くんが家事全般を担っているみたいだった。
確かに悟空や悟天くんに家事をやらせるのは結構至難の業かもしれない…想像しただけで、そう思ってしまう。
でも悟飯くん、学校もあるのに大変だろうな…
「悟飯くん!」
あたしでも、ほんのちょっとでも悟飯くんの負担を減らすことが出来たなら。
「あたしも一緒に手伝うよ」
「え…でも」
あたしの申し出に、悟飯くんは一瞬驚いた顔をした。
何となくわかる…悟飯くんが次に言おうとしている言葉。
「お客さんにそんなことさせられません、なんて今更そんなこと言わないでよね」
「あ、はは」
「図星でしょ?」
「まぁ…」
「お世話になってるのはあたしの方なんだから」
「えっと…じゃあ、お願いしちゃおうかな」
悟飯くんのその言葉を聞いて、あたしも何故か安心した。
あたし…頑張って孫家の家事を覚えよう!小さく微笑むと、悟飯くんの後を追ってキッチンに向かう…その時だった。
「はっ!!」
あたしは思わず足を止めた。バーダックさんの服装は、テレビで見たサイヤ人の戦闘服ではなくて、普通のズボンに普通の黒いランニングシャツのようなもの。
そこまでは至って普通なのに、椅子に座っているバーダックさんの後ろを通ろうとした時…あたしの目にとんでもないものが飛び込んできた。
こっ、この人っ!尻尾があるっ!!!
当然といえば、当然なんだけど…悟空にも、悟飯くんにも、悟天くんにも、べジータさんにも、トランクスくんにも…あたしがこの世界に来てから会ったことがあるサイヤ人には、みんな尻尾がなかった。
なので、あたしが実際に尻尾を目撃したのはこの時が初めてだった訳で…
…さ、触ってみたい…
そんな欲求がモリモリと大きくなっていく。
ウエストのところで綺麗にクルンと巻かれている尻尾。どんな手触りなんだろう…あぁ、ダメだ…やっぱり触りたい。
チラリと視線を戻してみると、あたしが背後でそんなことを悶々と考えてるなんて知る由もなく…バーダックさんは膝に乗っている悟天くんの相手をしているようだった。今なら…ちょっとだけなら、大丈夫かなぁ…
「名前、どしたんだ?怖ぇ顔して」
「……………」
隣に立っていた悟空がふとそんなことを言っていたような気がしたけど…ごめんね悟空…今はそれどころじゃないの。
ゴクッと小さく喉を鳴らしながら、そ〜っと手を伸ばしてみる。
…さわっ…
「っ!!」
触った!!あたし、サイヤ人の尻尾に触ったっ!!
思っていたより、なめらかで、柔らかい毛だと思った。
もう一度、ちょい…と触ってみる。うんうん、やっぱり結構気持ちのいい毛並み…その上、何だかものすごい達成感まで感じてしまう。
「おい」
だけど、振り向きもしないバーダックさんから言葉が発せられて思わずビクッとした。
「何しやがる、くすぐってぇだろうが」
「ひっ、悟空〜〜」
「わわっ、何だよ!」
まっ、また睨まれてしまった…!!
とっさに側にいた悟空の後ろに隠れるあたし…睨みを利かせていたバーダックさんは「けっ」と言いながら、再び視線を戻した。
「ご、ごめんなさい」
「…ふん、別に謝る程のことじゃねぇだろうが」
「う〜…」
でも、今のは明らかにあたしが悪かったわけで…しかもバーダックさんは“くすぐったい”と言っていたけど、確か尻尾はサイヤ人の弱点だったわけで…目の前の欲求に抗えなかった自分が情けなくなってくる。
「名前、そんなビクビクしなくても大丈夫だぞ」
「わ、わかってるよ〜」
「でもおじいちゃん、確かに目付き悪いもんね〜」
「…てめぇな…」
膝の上の悟天くんにそんなことを言われて、小さく舌打ちをしたバーダックさんだけど、本気で怒っていないのはすぐにわかった。悟天くんの額を小さく小突く姿は、本当に普通のおじいちゃん。悟天くんが懐いているのが何となくわかる気がする。
目付きの悪いバーダックさんだけど、悟空とは違った優しさが見え隠れしているような…そんな気がした。