18.訪問者




突然の来客に、まさかの事態…



『見上げれば同じ空。<18>』



「ははっ、や〜っぱ父ちゃんだったんか!」

突然の訪問者にびっくりのあたし。ええ、目が点…ってまさにこのこと。どうやら悟空は事前に“気”でわかっていたらしく…あぁ、それであたしを呼び止めようとしたのか…なんて今更ながら気が付いた。

「何だよ、悪ぃか」
「どうしたんだ?突然」

向かい合ってテーブルについて会話する悟空と…バーダック、さん。あたしは黙って、悟空の横に立ってその会話に耳を傾けていた。
口を開いたほうの顔をついつい見てしまう。
…っていうか、一体どうして?バーダックって、確か死んだんじゃなかったっけ??うん、だってテレビスペシャルで見たもの、あたし!涙無しには語れないあの名作を忘れるわけがないもの!!
悟空だって、生まれたばかりで物心なんてついてない頃に窓ガラス越しに会ったことがあるだけの父親なはずなのに…目の前の彼はこんなにも意気揚々と会話をしていて…
きっと今のあたし、頭の上に何個もハテナが浮かんでる。

「ラディッツが、飯作らねぇ、なんて言い出してよ」
「は?」

そのうえ、意外すぎるその一言に、思わず「は?」とか言ってしまった。う、うわっ、こっち見たっ!!

「…腹、減るじゃねぇか」
「何だよ、また喧嘩したんか?」
「けっ…」

しょうがねぇなぁ…なんて言いながら、悟空が頭を掻いている。
何?ラディッツって、あのラディッツ??
悟空のお兄さん…だったよね?あの人もいるの?ラディッツって、確か悪い人じゃなかったっけ!?
しかも悟空、「また喧嘩したのか」って…『また』って。
親子喧嘩、日常茶飯事なのっ!?
色んな疑問が浮かんでは、消えていく。
聞いてみたい!色んなこと聞いてみたい!!…でも怖い!!
だって…このバーダックっていう人、目付き悪いんだもん。

「オラんとこも今オラと名前していねぇかんなぁ…飯なんてねぇぞ」
「何だよ、悟飯はいねぇのか」
「悟飯はまだ学校だ」
「…まぁいい。それくらい待てるからよ」

どうやら、一瞬にして夕食をご一緒する流れになったようです。
それにしても…チラリと目配せするようにして、あたしは悟空とバーダックさんを見た。本当に、似てるなぁ…髪型も、背格好も、表情も、声まで。
いくらサイヤ人とはいえ、親子とはいえ、ここまでそっくりになるモンなんだなぁ…実際に並べて見ると圧巻。
だけどその時。

「で?」

ジロリ。
う…また睨まれた。
バーダックさんの鋭い視線から逃れるように、す〜っと顔を背けるあたし。前言撤回!やっぱり全然似てないっ!!悟空はこんなに怖い目付き絶対しないっ!!

「一体、コイツは何なんだ?」
「あぁ、名前ってんだ!今オラんちで一緒に住んでんだ。な!」
「うん…ど、どうも」

簡単すぎるくらいだけど、悟空らしい紹介だと思った。
合わせるようにペコリと頭を下げるあたし。
バーダックさんの鋭い視線は未だあたしから離れないけれど。

「別の世界から来たんだ。すげぇだろ」
「別の世界、だと?」
「ああ。変わってっけど、いいヤツなんだ!」
「悟空…それ、褒めてないよね」
「そっか?んなこたねぇぞ」

ニカッと笑う悟空にちょっぴり脱力した…

「まぁ、そういう訳なんです…どうも、はじめまして」
「おう」

あれ?ちゃんと返事、してくれるんだ。
意外に思って顔を上げると、バーダックさんはすでにそっぽをむいてしまっていた。何だか、変な感じ…こんなに似ているのに、話し方とか態度は全然違うから余計に調子が狂う。
…目付きの悪い悟空?
…ワイルドな悟空??
うん、そんな感じ。

「…何だよ?」
「っ…」

目を逸らすことが出来ずにいたら、また睨まれた。

「い、いえ…本当に悟空と似てるなぁ、って思って」
「は?くだらねぇ…親子なんだから仕方ねぇだろ」
「いや、親子っていうより双子でも通用する気がするのですが…」
「そっかぁ?そんなに似てっかなぁ、オラたち」

いや、そっくりの次元を超えてますよ!!
間髪入れずに思わず心の中で突っ込んだ。

「あ〜、それにしても腹減ったなぁ…なんかねぇんかな」

そう言いながら、悟空はキッチンに行ってしまった。
余程お腹が空いているんだなぁ…悟空の後姿を見送ったその時、ふと気が付いた。バーダックさんが、テーブルに頬杖をつきながらあたしのことをじっと見ている。今度は睨んでいる感じではなかったけど…

「な、何でしょう?」

ちょっぴり居心地悪く感じてしまうのも確かな訳で。

「いや?」

…だったら、何でそんなに見るのよ…あたし、そんなに珍しいのかな。なんて漠然と考えていたら、バーダックさんがニヤリと笑った。

「カカロットにも泣かせるような女がいたんだな、と感心しただけだ」
「…っ…」

余裕たっぷりのその一言にあたしは絶句。
何よ、悟空。全然“大丈夫”じゃないよ〜…バレバレじゃない!
ちょっぴり悔しくなって口を噤んだ。

「ダメだ〜、やっぱ料理しねぇで食えるモンは何にもねぇぞ」
「あ、あたし、何か作ってみようか?」

至極残念そうに戻ってくる悟空だけど、あたしにとっては救いだった。今のこの空気には耐えられない。だけど、すぐに後悔した。

「ホントかっ!じゃあオラ、魚でも取ってくっかな!」
「えっ!!」

すぐに思い浮かぶのは、よく漫画で悟空が取ってきていた人まで食べようとする歯の鋭いどでかい魚。
あ…あんなもの、どうやって捌けばいいのよぉ!!
思わず表情の変わるあたしの様子にさすがの悟空も気が付いたようで。

「何だ、肉の方がよかったか?」

とか、聞きなおしてくる。
また思い浮かぶのは、狼とか恐竜とか…
そんな肉、どうやって料理すればいいの〜!?

「ご、ごめんなさい…やっぱり無理、かも」
「んじゃ、やっぱ悟飯と悟天が帰ってくるの待つか」

…今度、悟飯くんにこの世界の料理のノウハウを簡単にでもいいから聞いておこう。あたしは人知れず、そんな決心を固めていたのでした。