21.たっぷり堪能しちゃいました




「お姉ちゃ〜ん、見て見て!でっかいトカゲさん!!」
「ひぃっ!連れてこなくていいから!返してきなさぁ〜い」
「何で〜?可愛いのに〜」

草むらからガサッと出てきた悟天が手にしている物体にビクッと体を強張らせている名前。何処か微笑ましくもあり、笑えもする光景。

「…なぁ、悟空」

クリリンはそんな2人をぼんやりと眺めながら呟いた。

「ん?何だ?」
「彼女、やっぱり神様には会わせておいた方がいいんじゃないか?」
「名前のことか?」
「あぁ、神様のことだからもう存在自体には気が付いていると思うけど」
「…そうだなぁ」

クリリンの横に並びながら、悟空も名前へと視線を向けた。今度は巨大なバッタを持ったまま駆け寄ろうとしている悟天からジリジリと距離を取っている。その姿に思わず笑ってしまう悟空だが、少し考えた後でクリリンの言葉にも頷いて見せた。

「まぁ、神様なら悪いようにはしねぇだろうしな」
「あぁ」
「お〜い、名前〜!ちょっとこっちに来てくれねぇか!」

悟空に声をかけられ、振り向いた名前は不思議そうに首を傾げた後、2人の元へと駆け寄ってきた。



『見上げれば同じ空。<21>』



「名前、大丈夫か?」
「う、うん…」

悟空とクリリンさんの話を聞いた時、最初は驚いた。
でも、だんだんと「そうだよね」って思えてきて…今、あたしは神様の神殿へと向かっています。

「おまえら、いつもそんな風に移動してんのか?」
「ああ。だって名前は空飛べねぇもんな」
「う、うん」

またしても悟空に抱っこされながら空を飛んでいるあたしはコクリと頷いた。正直慣れないけど。悟空の横顔が近すぎて、恥ずかしいけど!
そうも言ってられず、風の抵抗に耐えながらキュッと悟空の首へとしがみつく。その瞬間、ギュンッと体に今まで以上の重力がかかった。

「ぐぇっ…」
「これがカリン塔ってんだ!聞いてっか?名前」
「そ、そんな余裕ありませんっ」

知らなかった。
垂直に飛ぶのって、こんなに重力がかかるものなのっ!!?

「クリリン、ついでにカリン様んとこにも寄ってくか?」
「あぁ、そうだな」

必死にしがみつくあたしの耳に悟空のそんな声が届く。
カリン様って…あのカリン様??
キッとブレーキでもかけるように止まる悟空の体。反射的に胃の内容物が途中まであがってきそうになったのは、あたしの胸の中だけに留めておこう…

「さ、着いたぞ〜」
「ど、どうも…」

悟空の腕から降ろされたあたしはヨロヨロと建物の端へと歩いた。何て言うか…もう少し、外の空気に当たっていたい。そして柵に手をかけて、外へと目を向けたあたしは…

「…う…うわぁぁぁ…」

思わず感嘆の声を漏らしていた。
澄んだ景色がどこまでもどこまでも続いている。乗り物酔いにも似た気分の悪さがどんどん消えていくようだった。

「すごいすごい!!」
「何だ?オラ、名前は高ぇとこ苦手なんかと思ってたぞ」
「別に、そんなことはないんだけど…」

ただ、こっちに来た直後のトランクスくんと悟天くんの舞空術がちょっぴりトラウマになっているだけです…そして、ほんの少しだけ舞空術でスピードを出されるのが苦手なだけなんです。

「ここからの景色は夜も綺麗なんだ。星もすっげぇ見えるし、ものすげぇ遠くだけど街の明かりもちょっとだけ見えんだ」
「へぇ〜、綺麗だろうなぁ…よくココには来るの?」
「今はそうでもねぇけど、ガキの頃ココでずっと修行してたからな」

悟空の言葉に、あぁ、そういえば…なんて心の中で思ったあたしは小さく笑った。気持ち良すぎるくらいに澄んだ空気を大きく吸い込む。

「よく来たのぉ、悟空」

その時、ふいにそんな声が聞こえて振り向くとそこには体よりも大きな杖を持った…猫がいた。

「カリン様、おっす!」
「おっす、じゃないわい。いつ来るかいつ来るか、と首を長くしとったんじゃからな」
「何言ってんだ、カリン様。別に首の長さなら前と変わってねぇぞ?」
「……………」

ちょ、悟空…そういう意味じゃないよ。
言った当の本人も思いっきり絶句しているし…

「相変わらずだぎゃなぁ…孫のヤツは」
「おっ、ヤジロべーも元気そうだなぁ」
「ふん。しっかし、カリンから話には聞いちょったが…」

腕組みをしたヤジロべーさんの視線があたしへと向けられる。

「えりゃ〜べっぴんさんでねぇか」
「惚れるなよ?ヤジロべー」
「ばっ、馬鹿言うでねぇ、クリリン!!」

ぎゃあぎゃあ言い合いをしているクリリンさんとヤジロべーさん。カリン様も「やめんか!」とか言いながら、2人を止めようとしている。そんな様子をぼ〜っと見つめながら、あたしの思うことはただ一つ。

「…ねぇ…」

横にいた悟空の袖をくいっ、と引きながら声をかける。

「何だ?名前」
「…触っても、いいかなぁ」
「へ?」

ふるふる、とゆっくりと指し示されたあたしの人差し指は、しっかりとカリン様の後頭部に向けられている。悟空の返答を待ちながら彼を見上げると、少し考えてから一言。

「あ〜…まぁ、いいんじゃねぇかな」

…やった!!
ソロリソロリと近付いて、まだ言い合っているカリン様の後ろからそっと頭を撫でてみる。ほわっとした手触りに…ごめんなさい、我慢できなくなりました。

「いやぁぁぁ!ふわふわぁぁぁ〜」
「なっ…何じゃ、娘!!」

思わず抱きついたあたしの腕の中でジタバタもがくカリン様。

「あたしっ、猫ちゃん大好きなの〜」
「わ、わしは仙人じゃぞ!」
「でも、正確には仙“猫”様…ですよね!よ〜しよし」
「……………」

喉を触ると微かに聞こえるゴロゴロという音。
気持ちがいいのか…カリン様は途端に大人しくなった。

「鼻の下伸ばして…みっともねぇぞ」
「だっ、黙れ、ヤジロべー!それにしてもこの娘…やはり只者ではないわい。こうも簡単にわしの背後を取るとはな…」
「カリン様、顔赤くしながら言われても説得力ないっすよ」
「…う、うるさいっ」
「ははっ、やっぱすげぇなぁ名前」

4人それぞれ…色んなことを言っているのが聞こえてはいたけど。

「うふふふふ、しあわせ〜〜〜」

そんなのは気にせず。
それから十数分…あたしはカリン様の手触りを思いっきり堪能したのでした。


「さて、じゃそろそろ神様んとこ行っか」
「え、もう…?」

悟空の言葉に思わずそんなことを言ってしまったけど、「目的は神様に会うことだっただろ」なんて言われてしまったら何も言えなくなってしまう。もう一度、ぎゅっと抱きしめてカリン様との別れを惜しんだ。
ちなみに…カリン様は今、あたしの膝の上にいます。

「カリン様…」
「な、なんじゃ?」
「また…来てもいいですか?」
「…む…」

抱き締めた腕の力を緩めながらそう聞くと、カリン様はポリポリと頬を掻いている。何だか、照れているようにも見えて…ますます可愛い。あぁ、また抱きつきたい…

「…う、うむ…まぁ、たまにはな」
「やったぁ!じゃあ、また悟空に連れてきてもらいます!」
「おぬし…少しはわしを敬う気持ちも…」
「え?」
「…な、何でもないわい」

ふい、と顔を背けてしまったカリン様をもう一度抱き締めて…あたしはすでに神殿の端で今にも飛びあがらんとしている悟空へと駆け寄った。

「じゃ、行くぞ名前」
「…う、うん」

手を差し伸べてくる悟空。
神様の神殿って…ここよりもっともっと上だった、よね?
…となると、ここに来た時みたいに垂直に空を飛ばなきゃダメ、ってこと…よね??

「どした?」
「あ、いやぁ、別に…」
「もしかして名前ちゃん…舞空術苦手なのか?」
「え、そうなんか?」

クリリンさんに図星をつかれて、思わず言葉に詰まる。

「で、でも、空を飛ぶのがイヤなんじゃないんだよ!なんていうか、すごいスピードだったり、垂直に飛ぶとすごい重力がかかるのがちょっと苦手なだけで」
「なんだぁ、そうだったんか〜」

それならもっと早く言ってくれればよかったのに、と悟空に言われたけど…言える訳がない。悟空だって悪気があってやってることじゃないんだし。
目の前にいる悟空はさっきから「どうすっかなぁ」と腕組みしながら考えている。

「だ、大丈夫だよ!あとちょっとで着くんでしょ?それくらいなら…」
「そうだ!良い考えがあっぞ!」
「…え?」

何か閃いたらしい悟空に首を傾げる。

「名前、オラの首に腕回すんだ」
「…へっ?」

突然の提案に思わず絶句。
何ですか、そのあまりにも恥ずかしい行為はっ!!
考えただけでも顔から火が出そうなのですが…

「ほら、早く」
「う、うん」

きっと何か考えがあるはず…そう信じて言われた通りに悟空へと近付くと、少し背伸びをして彼の首に腕を回した。
次の瞬間。
あたしの腰に回された悟空の腕によってぎゅっと引き寄せられて…そのまま悟空の胸へと体を密着させられる。

「わわっ」
「このまま飛んだ方が体にかかる抵抗は少なくできっからな!」
「で、でも…」
「大丈夫だ、落っことしたりしねぇから」
「…うん」

そういう心配をしているんじゃないんだけどなぁ…
赤くなった頬を隠すように、あたしは頷きながら下を向いた。神殿まであと少し。頑張れ、あたしの心臓!!