22.神様の神殿にて…



カリン塔はあたしの中での絶景スポット。
神様の神殿は…



『見上げれば同じ空。<22>』



「う、うわわわ…」

床があるギリギリのところまでやってきて、下を覗き込んで…はっきり言って、言葉が出てこなかった。
何て言うか…別世界。これが本当に同じ地球なの!?眼下には見渡す限りの雲…雲…雲…

「…天国、にでもいるみたい…」

四つん這いになったまま下界を覗き込んでいるあたしの精いっぱいの感想がそれ。もちろん、天国になんて行ったことはないけれど…イメージとしてはこんな感じだなぁ…

「名前、さっきから何やってんだ?」
「え?」
「面白ぇもんでも見えんのか?あんまり端っこまで行ったら落ちっぞ」
「そっ、それはヤダ…まだ死にたくない」
「ははっ、万が一落ちてもオラが助けっから、死にゃしねぇけどよ」
「……………」

いや、助けてはくれると思うけど…ダイブの途中で心停止する自信がめちゃめちゃあるのですが…そうなってたまるか、と四つん這いのままズリズリと後退したあたしは安全と思われる場所でようやく立ち上がる。

「それにしても不思議。本当にこんな大きなものが浮いてるなんて」
「そうだなぁ、俺も初めて見たときビビったもんな」

神様の神殿…それは漫画で見るよりもずっとずっと大きく、壮大なものに感じられた。共感してくれたクリリンさんに、うんうん、と頷きつつ改めてぐるっと一周ゆっくりと辺りを見回している私の視界に…

「…うわっ!!?」

突然、黒い物体が舞い込んできた。
いや、物体…とか言っちゃったけど、びっくりして跳ねあがった心臓を落ちつけてちゃんと見ると…人だ。

「お、ミスターポポじゃねぇか」
「……………」

悟空に声を掛けられてもその人は無反応…
ピクリとも動かないまま、じっとあたしのことを見ている。
ち、ちょっと怖い…

「こいつ、名前ってんだ」
「知ってる。神様、話してくれた」
「神様はやっぱ知ってたんか〜、クリリンの言う通りだったな」
「当たり前。神様、下界のこと何でも知ってる」

さすがだな〜、なんて笑っている悟空だけど…まだじっと見られたままのあたしは正直居心地が悪くて仕方がない。

「来い。お前が来るの、神様ずっと待っていた」
「…へ?」

ふいにクルリと体を反転させたポポさん。
キョトンとするばかりのあたしだけど、背中をポン、と押されて反射的に顔を上げると悟空と目が合った。

「行くぞ、名前。そのために来たんだかんなぁ」
「うん」

小さく頷いて、悟空の横に並んで歩く。神様というと、たぶんデンデ…だろうと思う。わかっているのに緊張するのはやっぱり“神様”に会うから…かな。
それも、あたしはどう考えても、この世界にとっては異端な存在だと思うから。


ものすごい緊張の中、神様デンデとの初対面を済ませた。
本当にすっごい緊張だったんだけど…それも、長くは続かなかった。

「あはははっ、デンデくんそれ本当!?」
「ええ、一応神眼ですから。笑っちゃいけないとは思ったんですが、さすがに…」
「ひどいなぁ…見てたんなら助けてくれればよかったのに…」
「はは、すみません」

申し訳なさそうに言ったデンデくんと笑い合う。
はい…すっかり意気投合しちゃいました!デンデくんは、やっぱりあたしがこの世界にやってきた直後からあたしの姿を追っていたらしい。まぁ…その時は“監視”の名目が大きかったみたいだけど。

思いっきり見られていたらしいですよ…必死になって喰われまいとサーベルタイガーを手持ちのお弁当で餌付している姿とか…トランクスくんたちと出会い、初めての舞空術に大絶叫していた姿とか…
神殿入り口の階段に座って色々な話をしているあたしたちだったけど、突然声をかけられて振り返る。

「デンデ、名前ってやっぱ異世界っちゅうとこから来たんか?」

神殿奥から出てきた悟空にクリリンさん。
その後ろにはピッコロさんまで控えていた。
はじめまして…の意味を込めて、ペコリと小さく頭を下げたけど…あぁピッコロさん、無視ですか…

「ええ、その可能性が高いと思います。この世界とは本質そのものが違うように思いますので」
「やっぱり不思議だよなぁ…見た目は俺たちとどこも違わないのにな…」
「あ、はは…」

クリリンさんにじっと見られ、あたしは頬をポリポリと掻きながら笑うしかない。あたしからしてみたら、ここはあの『ドラゴンボール』の世界だもんね…

「で?貴様の目的は?」
「…え?」
「何のためにこの世界に来た?」

ふいにピッコロさんの鋭い視線があたしへと向けられた。

「何のため…なんて、そんな」
「目的もなく、わざわざこんな遠くの世界まで来たというのか」
「…それは」
「デンデ、お前も和んでるんじゃない。少しは神らしくしろ」
「は、はいっ!」

はっきりとわかった…ピッコロさんの瞳から伝わってくるのは明らかな不信感。当然と言えば、当然かもしれないけど。

「あたし自身、どうしてココに来てしまったのかわからないから…目的なんて、何も」
「…ほお?」
「信じて、もらえないかもしれないですけど」

今のあたしにも、こうとしか言い様がなかった。
思わずピッコロさんの視線の鋭さに負けて、俯いてしまいそうになる。そんなあたしに助け船を出してくれたのは…

「まぁ、いいじゃねぇかピッコロ」

またしても、悟空だった。
見上げたそこにあった、いつもと変わらない笑顔にさっきまでの緊張がみるみる溶けていく。

「そんな悪ぃヤツには思えねぇしよ。前に言ったじゃねぇか、オラの夢に何度も出てきてたって」
「だから尚更怪しいと言っているんだ。得体が知れない」

2人の間で思わずオロオロしてしまうあたし。
2人とも、背が高いから迫力があるなんてもんじゃない…何か、言った方がいいだろうか…そんな風に思っているあたしの前に出てきてくれたのはクリリンさんだった。まるで、庇ってくれているみたいに…

「ピッコロ、その心配はないんじゃないかな」
「クリリンさん…」
「俺も最初は正直怪しいと思ってたけどさ…でもそういうんじゃないんだよ、彼女」

その時、あたしの顔をじっと見たクリリンさんが少しだけ笑ったような気がした。

「それに、悟空が側にいるんだ。悟空に預けておくのが一番の安全材料なんじゃないのか?彼女にとっても、俺たちにとってもさ」
「…ふん」

クリリンさんの言葉にどう思ったのかはわからないけど、ピッコロさんはそのままバサッとマントを翻して後ろを向いてしまった。思わず首を傾げるあたしに、ピッコロさんは肩越しにちら、と視線を向けてくる。

「わかった、いいだろう」
「え…」
「ただし、この天界から常に俺やデンデが見ているものと思え。おかしな行動をした時は、容赦しない」
「は、はい…」

おかしな行動なんてしようがないんだけどなぁ…
でも、この状況でそんな反論が出来るはずもない。

「なぁ、デンデ」
「何ですか、悟空さん?」
「デンデでも、やっぱ名前の元の世界のことなんてわからねぇもんか?」
「…え?」

突然の悟空の言葉にあたしは驚きを隠せなかった。
瞬きを繰り返しながら見上げていることに悟空も気が付いたのか、あたしへと目を合わせてくる。

「おめぇ、家族いんだろ?」
「う、うん…今は一緒に住んではいないけど」
「だったら尚更、自分が向こうでどうなってんのか気にしてんじゃねぇかと思ってよ」
「悟空…」

二カッと笑う悟空の笑顔を見て、あたしは思わず俯いた。悟空の言葉に思わず涙が溢れそうになった…なんて、恥ずかしくて言えないけど。


…本当に…どこまで優しい人なんだろう…


「すみません悟空さん。僕にも、そこまではわからないんです」
「そっかぁ…」
「でも、神龍に頼めば紅愛さんが元の世界に戻ることも可能だと思いますんで!」

あたしが落ち込んでいると思ったのか…
デンデくんはまるであたしのことを元気付けてくれているかのようだった。ありがとう、と小さく微笑むと少し照れたようにしていたデンデくん。
そして…今、思うことじゃないとは思うんだけど、ね…あたしにはさっきからずっと気になっていることがある。
デンデくんのおでこから生えてるコレ…触角、みたいなの…さっきからね、触ってみたくてたまらない。ピッコロさんにもあるんだよね…?今はターバンに隠れて見えないけど。
あ〜…この触角の先っぽをふにって摘まんでみたい…

「…やめろ…」
「え?」

誰も、何もしゃべっていないのに、突然のピッコロさんの一言。
視線を向けると呆れたような表情をしているピッコロさん。
まさかっ…!!?

「ピッコロさん!今!!」
「…ふん」

そうだった!
この人、心の中の声を読めるんだった!!!

「ぎゃぁぁぁぁ!!!心の中を読むなんて反則です!」
「き、貴様がくだらないことを考えているからだろう!」
「エッチ〜!!」
「誰がだっ!!!」

訳も分からないまま、とりあえず出てきたクリリンさんに取り押さえられているピッコロさんを横目で見つつ、あたしは思った。ピッコロさんの前では、迂闊なこと考えられない!!
ふぅ、と小さくため息をつきながら後ろに目を向けると悟空とデンデくんが談笑していた。この姿にさっきポポさんに言われたことを思いだす。


“神様、お前がこの世界に来た時からずっとお前のこと、ココから見てた”
“そ、そうなんですか?”
“そう。ずっと気にかけてた…今日の神様、嬉しそう”


気が付くとあたしも笑っていた。
神様の神殿は…
あたしにとって、暖かい場所になりそう…そんな気がした。