45.貴方のことが好きだから…
ようやく、ちゃんと『好き』って自覚出来ました。
だけど…ね。
『見上げれば同じ空。<45>』
すでに十数分。
あたしは…電話の前で立ち尽くしている。
片手には受話器。
そして、もう片手にはブルマさんに渡された電話番号のかかれた小さなメモを握り締めて。
「そ、そうだよね…悟空の家にだって電話、あったもんね」
番号…今まで知らなかったよ。
受話器を握り締めながら、ブルマさんの言葉を思い出す。
『気持ちが決まった時に、もうすっきりしちゃった方がいいんじゃない?名前のことだから、時間を置いたらまた余計なこと考えだすわよ、きっと』
…うぅ、ブルマさん、本当によくおわかりで…
片手に握っているのはブルマさんに「孫くんに電話をしてみたら?」と渡されたメモ。
でも…ですよ!!!
電話して何て言おう…
気が付けば、もう数日間悟空と一言も話していない。
こんなこと、こっちの世界に来てから一度もなかったなぁ…
「あ〜…ダメだ…」
ため息をつきながら、受話器を置くあたし。
一度、心を落ち着けよう…
言いたいこともちゃんと頭の中でまとめておこう!
うん、そのほうが絶対良いっ!!
…なんて思って、一人グッと拳を作った…まさにその時。
「…っ…!!?」
突然電話が鳴り始める。
盛大にびっくりしてしまったあたし。
思わず…
「はっ、はい!もしもしっ!!!」
そう、思わず…出ちゃいましたぁぁぁぁっ!!
出てどうするの、あたし!!
はい、カプセルコーポレーションです…とか言えばいいのっ!!?
「え、えと…」
『あり?』
ワタワタするあたしだったけど…
「…え?」
聞こえてきた声に、一瞬幻聴かとすら思ってしまった。
だって…だって…
『名前、か?』
「悟…悟、空…?」
受話器の向こうから聞こえてきたのは間違いない。
ずっと聞きたかった…貴方の声だ。
『ははっ、驚ぇたぁ…何か、久しぶりだな』
「う、うん…そうだね」
『元気にしてっか?』
「ん、元気だよ」
何だか、変な感じ。
悟空と電話でこんなやり取りをしているなんて、何だか不思議で、ふわふわする。
悟空でも、電話をかけることなんてあるんだね…
慣れない手つきで一生懸命ダイヤルする悟空の姿が何となく頭に浮かんで、思わず小さく笑ってしまった。
『ん?何だ、何笑ってんだ?』
「ううん、何でもない。ブルマさんに用事?ちょっと待ってね、今呼んで」
『いや、いいんだ。オラ、名前の声が聞きたかっただけだかんな』
「…へ?」
あた、し…?
受話器越しにキョトンとするあたしに悟空は続けた。
『ブルマが出たらオラ、どやされちまうトコだったぞ』
「…?どういう意味??」
思わず首を傾げるあたしに、悟空は受話器の向こうで笑った。
『そっちから連絡するまで、オラからは何もするなってブルマに言われてたんだ』
「そ、そうだったの?」
『あぁ!だからブルマが出るんじゃねぇかってヒヤヒヤしたぞ〜』
「あはは」
これもブルマさんの気遣いだったんだ…って即座に思った。
こんなにも色々考えてくれているブルマさんに、ちゃんとお礼を言わないといけないな。
そう思うと同時に、すごく心の中が暖かくなる。
『名前、ブルマに頼まれた仕事っちゅうんはどんな感じだ?』
「うん、頑張ってるよ。ブルマさんに手際が良いし、丁寧だって褒めてもらっちゃった」
『…そっか』
気のせいだろうか。
今、一瞬悟空の声のトーンが落ちたような気がした。
「どしたの?」
『いや…おめぇ、いつんなったら帰ぇってくんだ?』
「えっ…」
悟空の言葉に受話器を持つ手が震えた。
無意識だけど、自分でもはっきりとわかった。
目の前に悟空はいないのに、何度も何度も瞬きをしてしまうあたし。
絶句したままのあたしに悟空が続ける。
『おめぇがいなかったら悟飯もなんか元気ねぇし、悟天なんか毎日いつ名前が帰ってくるんだって泣きそうになってるしよ』
「……………」
『まだ、帰って来れそうにねぇんか?オラ、手伝いに行ってやろうか?』
何の返答も出来ないまま、受話器を握り締めた。
そういうことじゃないんだよ、悟空…
「あ、ははっ…悟空に手伝ってもらえるようなことは、ないよ…ありがとう」
何とか笑いながらそう口にしたあたしの声は自分でもびっくりするくらい震えていた。
目の前にある電話機がみるみる歪んでいく。
「…悟空…」
『なぁ名前…もう、帰ぇってきてくれねぇか?』
…もう、嘘をつきたくないって思った。
悟空にも…自分の気持ちにも…
『やっぱよ、鼻歌歌いながら食器洗いしてる名前の後ろ姿が見れねぇのは…オラも寂しいぞ…』
「…ご、くっ…」
『何だ?』
「ごめんね、ちゃんと言わなくってごめんね…」
未来が変わってしまうかもしれない…
その大きな責任があたしの背中に圧し掛かったら…今のあたしには耐えられるかどうか、正直わからない。
でもね…それ以上に…
「あたし…悟空のことが、好き…っ…」
もう、隠せないくらいに悟空への気持ちが大きくなっているから。
「…ふ、ぅ…」
一気に言い切って…また溢れてしまった涙を慌てて拭う。
その時。
受話器の向こうからは悟空の声ではなく、ガチャン、という無機質な音だけが聞こえてきて。
…え?と思うとほぼ同時…あたしの体は後ろからギュッと抱き締められていた。
「ずりぃぞ、名前」
「っ…」
まだ応答のない受話器を耳にあてたまま固まる。
背中からの温もり。
優しい匂い。
「…っ悟…悟、空…っ…?」
ゆっくりと後ろを向くと、あたしを抱き締めたまま太陽のような笑顔を見せる悟空がいた。
あぁ…瞬間移動を使ったのかぁ…なんて、人事のように思ってしまう。
「おめぇ、電話越しに言うなんてずりぃじゃねぇか」
「だ、だって…」
驚いているあたしに対して、悟空は悪戯っ子のように笑って…
そして、抱き締める腕に力を込めて、あたしの肩に額を預けた。
「…なぁ、もう一回」
「え?」
「もう一回、言ってくれねぇか」
パチパチと何度も瞬きをしていたあたしだったけど…悟空の優しい温もりにそっと目を閉じた。
「悟空のことが…好き」
「あぁ…オラも大ぇ好きだ」
「悟…わわっ!!」
後ろから抱き締められていた悟空にクルッと向きを変えられたと思った瞬間。
あたしの体は浮いていた。
両手で高く持ち上げられているような体制で、茫然と悟空のことを見下ろすあたし。
悟空の目がこれ以上ないくらい、キラキラしている。
「ありがとな!オラ、すっげぇ嬉しいぞ」
「悟っ、悟くっ…回さないで〜〜〜!!!?」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」
「よ…酔う…」
グロッキーになりかけるあたし。
そのままストン、と下におろされて、また抱き締められる。
何だか可笑しさが込み上げて、悟空の胸に顔を埋めて笑ってしまった。
だって…悟空らしすぎるんだもん。
ねぇ、悟空?
交わるはずのない世界が交わって…
出会うはずのないあたしたちが出会って…
これには、きっと何か意味があったんだって思いたい。
太陽のような貴方を見て、心の底でそんなことを考えていた…