44.素直な気持ちを聞かせて。
「何だターレス…何しにきやがった?」
「別に、王子には関係ねぇよ」
「調度よかった」
「…え?」
「調度トレーニングの相手が欲しいと思っていたところだ。付き合え」
しれっと言い放つべジータさんの一言にターレスさんの表情が変わった。
茫然と見ていたあたしにもわかるくらい…明らかに。
「なっ…無茶言うんじゃねぇよ!俺を殺す気か!」
「何だと?貴様、それでも誇り高きサイヤ人か…いいから来い」
「ちょっ…!!!」
首根っこを掴まれてズルズル引きずられていくターレスさん。
…うん、力関係がうかがえます…これでもか!!っていうくらい、はっきりと…
「さっ、私たちはちょっとお茶でもしましょ」
「は、はい」
ポン、と肩を叩かれて、振り向くと笑顔のブルマさん。
小さく頷いて…あたしはその後ろ姿を追いかけた…
『見上げれば同じ空。<44>』
「孫くんと喧嘩でもしたの?」
「ぶっ…」
たぶん聞かれるだろうとは思っていたけど…
あまりにも直球だったもんだから、あたしは危うく吹きそうになった。
ブルマさんらしいです…とても。
「喧嘩、って訳じゃないんですけど…」
「でも、何かあったんでしょ?名前ってわかりやすいから、す〜ぐわかるのよね」
ふぅ、と小さく息を吐いたブルマさんにまたじっと見詰められる。
「そうね…私の勘が間違ってなかったら、この前の温泉で孫くんと一緒に散歩に行って帰ってきた辺りから…かしら」
「う…」
あまりにも図星すぎて、反論の余地も有りません。
…っていうか、あたしってそんなにわかりやすいんだろうか…と、別の意味でも凹んでくるのですが。
あたしの瞳をじっと見詰めながら、コーヒーに口を付けるブルマさん。
思わず俯いてしまうあたしは、膝の上で両手を握り締めていた。
「図星みたいね」
「…はぃ」
「まぁ、何があったのか知らないけど、気が済むまでココにいていいわよ?」
「え…?」
びっくりして顔を上げるあたしにブルマさんはにっこりと微笑んだ。
そして、「やっぱり、誘ってみてよかったわ」…と一言。
その瞬間、あたしは思った。
「もしかして…今回この仕事に声をかけてくれたのって…」
「まぁ、ね。でも、名前なら綺麗に仕上げてくれそうだったからっていうのも、もちろんあるのよ?」
ブルマさんの反応を見て、やっぱり…と 納得する。
あたしが悟空と気まずくなっていること、ブルマさんにはすぐにばれていたんだ。
こうしてゆっくり考える時間が出来るように…すぐに声をかけてくれたブルマさんはすごい。
そして、そこまで考えてくれていたブルマさんに心の底から感謝した。
「まぁ、話したくなったら、その時は話して」
「っ…」
そう言って、向かいのソファから立ち上がろうとするブルマさん。
あたしは思わず口を開いていた。
「あのっ…」
「え?」
「悟空と、喧嘩した訳じゃないんです…でも、あたし、悟空にすごく失礼なこと…しちゃ、って」
絞り出すようにそう言うあたし。
ブルマさんは静かにあたしの横に座り直すと、黙って頷きながら話を聞いてくれていた。
「あの日、悟空…好きだ、って、言ってくれたんです」
「えぇっ!!?」
そう話した時はさすがに驚いていたけど…
「あの孫くんがねぇ…信じられないわ」…って。
うん、あたしだってびっくりした。
あたしが知っているドラゴンボールの中の悟空には、少なくともそんなことを言うようなイメージは持っていなかったから。
「で、返事は?」
「それが…返事、出来なくって」
バツの悪さから俯いてしまうあたし。
「バッカねぇ」
「ぅ…」
わかってはいたものの、やはり直接そう言われてしまうと心にグサッとくるもので…
思わず言葉を詰まらせる。
そんなあたしをブルマさんは横に座ったまま肩を抱くように引き寄せて…あたしの頭はそのままブルマさんの肩へと凭れてしまう。
キョトンとしているあたしの頭がまた、優しく撫でられる。
「なるほどね…それで、孫くんの側では気まずそうにしていたってわけ」
「はい…」
「あはは、若いわねぇ」
「ブルマさん、笑い事じゃないんですけど…」
ぐすっと鼻を啜りながらそう言うと、ブルマさんは「ごめんごめん」と言いながら、また笑った。
「名前はどうして孫くんにすぐに返事が出来なかったの?」
「…それは…」
あたしは、思わず黙り込んでしまった。
“未来を変えるわけにはいかない”
そう答えたかったけど…言えるわけがない。
「よくわからないけど、難しく考えることないんじゃない?」
「え…?」
「そうやって泣いちゃうくらい…どうしたら良いのかわからなくなっちゃうくらい…名前だって、孫くんのこと好きなんでしょ?」
「っ…」
気が付くと、また瞳が潤んでいた。
どうしてもこれ以上泣きたくはなくて…涙が頬を伝う前に慌てて手の甲で拭った。
『名前、力んでも“気”は出ねぇぞ』
意外とスパルタで。
『名前から離れねぇと、おめぇをブッ飛ばす!!』
ちょっぴりヤキモチ焼きな一面があったことにはびっくりして。
『ははっ。おめぇ、顔がトマトみてぇになってんぞ〜』
でも笑った顔が太陽みたいで。
『これで、もう怖くねぇな?』
優しくて。
「…はい」
ブルマさんの深い蒼の瞳に見詰められて…あたしは頷いた。
「あたし…悟空のこと、大好きです」