53.見えない火花
「そういえば悟空」
「ん?何だ?」
食後の片付けを済ませてリビングに戻った時にふと思いついた。
「今日ね、ゴジータさんとベジットさん、あとゴテンクスくんに会ったよ〜」
「そうなんか!」
「うん、知ってるでしょ?」
「あぁ、もちろん知ってるさ〜…へぇ、あいつら来てんのか」
心なしか、あたしの話を聞いた悟空が嬉しそうにしている…
…ような気がする。
何て言うのかな…目がキラキラしていて、まるで新しい玩具を見付けた子供みたい。
だけど…
「…え?何だろ?」
何となく胸騒ぎがして、思わず首を傾げながら苦笑いのあたしでした。
『見上げれば同じ空。<53>』
そして翌日。
「おっす!!」
「ど、どうも…またお邪魔します…」
あたしは、またしても天界に降り立った。
今度は悟空に連れられて…
「あれ?珍しいですね〜、昨日に続いて今日も来てくれるなんて!」
「悟空がどうしてもってね…邪魔じゃなかったかな?」
「ええ、貴女たちでしたら大歓迎ですよ」
そう言って、にこやかに出迎えてくれるデンデくんに「ありがとう」と笑いかけた。
天界は好きだけど、こうして連日訪れるのは今回が初めてかもしれない。
神様ってやることがいっぱいあって大変みたいだけど、嫌な顔一つしないで迎えてくれるデンデくんの存在は本当にありがたい。
そして、当の悟空は…
気が付くとすでに目的の人物の姿を見付けたようで、振り向いた頃にはもうその場にはいなかった。
ふと目を凝らすと神殿からちょうど出てきたゴジータさんやベジットさんに話しかけているみたい。
「…もう〜…」
「悟空さん、ゴジータさんたちに会いに?」
「うん、どうしてもって…本当なら昨日の夜、すぐにでも来たかったみたいなんだけど、さすがにそれは迷惑になるからって説得してね」
「あ、あはは…」
ふぅ、とため息をつきながらもう一度悟空へと目を向ける。
昨日も思ったけど…本当に嬉しそうな顔するんだから。
何だか、悟空のその顔を見たら…さっきまで呆れていた気持ちも何だかどうでもよくなってきた。
「仕方ないなぁ…」
そして、気が付くとあたし…また笑ってる。
「名前さん、よかったら中でお茶でも飲みませんか?」
「え、いいの?」
「えぇ、もしよければ」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
きっと、悟空はお茶どころじゃないだろうしね。
しばらく邪魔しないように静かにしているとしますか!
そう思って、あたしはデンデくんの申し出に笑顔で頷いた。
それから、どのくらいたったか…
それはそれは不思議なお茶タイムだった。
時折響いてくる轟音と爆音をBGMにしたお茶だなんて…まさに初体験。
「…ねぇ、ココ、壊れたりしないの?」
「神殿自体は地上の建物とは比べ物にならないくらい頑丈に作られているので、大丈夫…とは思うのですが」
そう答えるデンデくんもさすがに苦笑いをしている。
そりゃあ、そうだよね!
だって、この轟音ははっきり言って普通じゃない。
どんなことになっているのかちょっぴり気になって…神殿の窓からヒョコッと顔を出すあたし。
「…へっ?」
そして、思わず絶句した。
悟空と組手中なのはゴジータさん…のようだ。
悟空も全力で戦っている。
昨日、ゴジータさんとベジットさんに会ったことを話した途端「今から行かねぇか!あいつら強ぇからワクワクしちまうんだよな〜!」なんて嬉しそうに話していたくらいだし…当然と言えば当然。
だけど…
「あ、あれ…?どうして…?」
ちょっと悟空さん?
今まで尻尾なんてなかったはずなのに…
貴方、一体どうして超サイヤ人4になんてなっちゃってるんですか!!?(爆)
近くまで行ってみようと思って、デンデくんに「ごちそうさま」と告げると神殿を降りる。
すると神殿の入り口の階段のところにベジットさんとゴテンクスくんが座っていた。
「あれ?姉ちゃんも来てたんだ?」
「う、うん」
あたしに気付いたゴテンクスくんは、立ち上がると側の柱へと背中を凭れ掛けさせた。
「どうしたよ?デンデと一緒じゃなかったのか?」
「ん、お茶してたんだけど、すごい音だから…ちょっと気になって」
座ったままのベジットさんの隣まで行って、あたしも空を見上げた。
やっぱり金色のゴジータさんに対して、真っ赤な悟空。
「…こんなところにも原作との違いが…」
「あ?何だって?」
「えっ、あ、ううん、何でもないのっ!」
訝しげに眉を寄せたベジットさんだったけど、それ以上は何も突っ込んでこなかったから…助かった。
ぼんやりと2人の戦いを眺めてみるけど…
どっちが優勢かとか、そういうのはわからない。
正直、2人の動きを追うのでやっとの状態。
「…悟空が貴方たちに猛烈に会いたがった理由、今ものすごく納得出来たわ」
「あ?まぁ、俺たちサイヤ人だしな!」
「あははっ、そんなのわかってますよ〜」
隣にいるベジットさんがあたしのことを見下ろしてくる。
「戦うのが大好きなんですよね?」と笑いながら声をかけると、ベジットさんが鼻でふっと笑った。
「へぇ…よくわかってるじゃねぇか」
「まぁ、それなりに」
漫画ドラゴンボールが大好きですから!!
…とは言えないので誤魔化しつつ、笑って見せるあたし。
その時、ベジットさんがまたにんまりと笑った。
「お前、笑うとますます可愛いな」
「…へっ?な、何言って…」
いきなりの言葉に思わず真っ赤になるあたしの頬。
そんなあたしを見て、ベジットさんはますます笑みを深くした。
「何真っ赤になってんだよ?悟空は言ってくれねぇのか?可愛いって」
「そっ、そんなことは、ないですけ、ど…」
「ふぅん…」
「っ…」
ゆっくりとした動作でベジットさんが立ち上がるのを見て、あたしは何故か反射的に一歩後ろへ下がる。
「あ、あの…?」
「ん〜?」
目の前にベジットさんが来て。
あたしがまた一歩下がって。
…その繰り返し。
「…あっ」
そんなことをしていれば当然終わりは来る訳で…
背中に感じた冷たさに驚いて振り返ると、そこには大きな柱があって。
慌てて顔を前方に戻したのと、ベジットさんがあたしを囲むように柱に両手をついたのは、ほぼ同時だったように思う。
「ちょ…ベジットさん、近…」
「あぁ、まぁ別にいいじゃねぇか」
「いや、よくな、い、です…」
真っ赤になって俯くしか出来ないあたしの髪を、ベジットさんが一房手に取ったのがわかった。
「俺なら毎日、名前が喜ぶ言葉をかけてやるぜ?」
「あ、あの…」
「なぁ、そんなに悟空のヤツがいいのか?」
「……………」
あたしは、今何を言われているんだろう。
からかわれているのだろうか。
色んなことが頭の中を回って、グルグルする…
困ったように俯いたまま何も言えないでいるあたしの髪をベジットさんが優しい手付きでそっと耳にかけた。
「名前、俺はマジなんだ」
「え?」
「だから名前もマジで考えてくれねぇか?」
「な、何を…」
やっとの思いで顔を上げると真剣なベジットさんの瞳が真っ直ぐにあたしのことを見ていて…
またしても真っ赤になる頬。
ベジットさんの後ろでゴテンクスくんが「そんなことして…またゴジータに怒られるぞ?」と呆れたように言っているのが聞こえたような気がしたけど、ベジットさんはそれに対しても「黙ってろ」と一言返しただけだった。
「なぁ名前、俺のとこに来…うぉっ!!!」
「っえ…?」
その時だった。
いきなりベジットさんが離れて行ったというか、引っ張られたというか…
びっくりして顔を上げるとベジットさんの後ろに赤い影。
「…おめぇ、何やってんだ?」
見ると、悟空が背後からベジットさんの首根っこを掴むかのように道着を引っ張っていた。
「なっ…離せよ、悟空」
「ダメだ。名前はオラんだぞ。なのにおめぇ、名前に近付き過ぎだ」
そう言い放ってベジットさんを離した悟空が今度はあたしの前に立った。
まるで、あたしとベジットさんとの間に立ちはだかるみたいに…
その時、腰に何か柔らかい感触を感じて「ん?」と視線を下に向けると…なんとびっくり。
真っ赤な尻尾があたしの腰に綺麗に巻き付いていた(爆)
「よそ見をしているなんて…随分余裕があるじゃないか、悟空」
その声に睨み合う2人の視線が一斉に金色を纏うゴジータさんへと向けられる。
ゴジータさんは腰に両手を当てて、やれやれと言った様子で2人のことを見ていた。
「だってよ〜、ゴジータ」
「問答無用だ。試合を途中放棄した、ということで今回は俺の勝ちだな」
「なっ…そりゃねぇだろ〜」
悟空の抗議にもゴジータさん…聞く耳持たず。
「ベジットも…そんなだからゴテンクスにまで軽いって言われるんだぞ。文句は言えないじゃないか」
「なっ…見境ない、みたいな言い方すんなよな!俺はなっ、名前だからこそっ…」
「いいからそこまでだ。彼女、困っているぞ?」
「っ…」
その時、ゴジータさんが小さくウィンクをしてきたから、びっくりした。
助けてくれたんだろうな…きっと…
この状況にどうしたらいいのかわからなくて、あたしはただ俯くことしか出来なかった…
あれからしばらくたったけど…
状況は対して改善せず。
みんなは神殿の中にそれぞれ入って行ったけど…あたしと悟空は今も階段に座っている。
いや…正しくは…
「悟空…恥ずかしいよ…」
階段に座っている悟空の胡坐の上に座らされ、後ろからすっぽりと抱き締められているあたし。
尻尾も相変わらず腰にしっかりと巻きつけられているし…
無言のまま、あたしのことを抱き締め続ける悟空。
「…ねぇ、悟空?」
しばらくは超サイヤ人4の毛並みを堪能してみたりもしていたけど、それももう飽きてしまって。
あたしはいよいよ困り果てていた。
何も言わない悟空に不安は大きくなるし…何だかあたしの対応に問題があったような気もして、強く拒絶も出来ない…
ゆっくりと顔を上げると普段とは違う金色の瞳がじっとあたしのことを見ていて、どうしても逸らしてしまう。
「ね、ねぇ悟空…汗かいてるよ?お風呂、入ってきたら?」
「……………」
「ねぇ…あがったら、パオズ山に帰ろうよ?」
ね?ともう一度念を押すように悟空に問いかける。
悟空はじっとあたしのことを見ていた瞳をため息とともに伏せると、今度はあたしの首筋へと顔を埋めてきた。
「汗だったら…名前もかいてんぞ」
「えっ…?」
あぁ、そういえばさっき、ベジットさんが近寄って来た時に困り果てて、冷や汗ダラダラだったからなぁ…
なんて思いつつ、悟空の次の言葉を待つあたしだったけど。
次に出てきたのは衝撃の一言だった。
「だったらよぉ、風呂一緒に入ぇろうぜ?」
「…は、はいっ???」
何故!?WHY!!?
どこがどうなったら、そうなっちゃうの!!?
慌てて体を捩るあたしをさらに強くぎゅっと抱き締める悟空の腕。
「名前も汗かいてるしよ…だいたいおめぇ、家の風呂じゃ一緒に入ぇるのは絶対嫌だって言わねぇか?」
「ん、ん〜…」
そりゃ、言いますよ。
だって…屋外&ドラム缶!!だしね!!!
それに、悟飯くんだって、悟天くんだっているわけだし…ブツブツブツ…
「それにな、オラ知ってんだぞ?」
「な、何を…?」
オドオドするあたしを見て、悟空が二ヤリと笑った。
「っ…!」
何、その顔!
普段はそんな大人の色気を感じさせるような表情なんてしないくせに!!
反則よぉぉぉぉ!!!
「付き合ぇ始めたら、男と女でも一緒に風呂に入ぇっていいんだってよ」
「なっ…」
あまりの一言に真っ赤になるあたし。
一方の悟空は勝ち誇ったかのような眩しい笑顔。
「じゃ、行くか!ココに風呂、広くて気持ち良いんだぞ〜」
「ちょっ、悟っ、悟空〜〜〜」
悟空に手を引かれ…
巻き付いた尻尾にもグイッと腰を引かれ…
わたくし、名前に…今、最大の危機が到来しています。
ちなみに…
「ちょっと待ってよ、悟空!そんなの誰に聞いたのっ!」
「ん?一緒に入ぇれるって話か?」
「そう!」
「あぁ、前にブルマが教えてくれたんだ」
「……………」
ブルマさんの攻撃第二段。
しかも、遠隔にて発動中…らしい…