55.ギクシャクを乗り越えて。


「名前〜、もう怒んなって」
「怒ってない!」
「…怒ってんじゃねぇか」
「……………」

神殿の廊下をスタスタ歩くあたしの後ろを悟空がついてくる。
後ろから謝ってくる悟空だけど…今回ばかりはなかなか許せないあたし。
だって…ココは神様の神殿だよっ!
神聖な場所なんだよっ!!!
みんなもいるんだよっ!!!!?
まぁ…ちょっぴり流されちゃってたあたしも、確かに悪かったとは思う、けど…ブツブツ




『見上げれば同じ空。<55>』




「…あ。」
「あっ…」

不機嫌なまま、悟空を振り切って…
だけど、神殿を出た瞬間、今一番出会いたくない人と見事にばったり。
ゴジータさんも珍しくあたしと目が合って、戸惑った表情をしている。
…そりゃ、そうだよね。
思わずあたしの顔も一気に赤くなる。

「……………」
「……………」

明らかに気まずい沈黙が流れた。

「…その…」
「っ…」
「いや…わ、悪かったな…」
「え?」

ゴジータさんが小さくそう言ったのが聞こえて、あたしが顔を上げるとゴジータさんはもう明後日の方向を向いてしまっていた。
だけど、あの…耳まで真っ赤ですが。
…というか、真っ赤になりたいのはむしろあたしの方なのですがっ!!(涙)

「い、いえ…あたしの方こそ、すみませんでしたっ…」
「いや、明らかに俺が悪かった」
「あっ…でも!!!」

これだけはっ…
これだけはしっかりと誤解を解いておかないといけない!

「あたしっ、そのっ、してないですからね!!」
「…っ、なに?」
「そのっ、だってココ、神聖なる神殿じゃないですか!?そんな場所で、そんなことっ、決っっっしてっ!!!」
「そ、そうか…」

すごい剣幕でまくしたてるあたしに、ゴジータさんはちょっぴり引き気味だった。
それはそうか…
勢い余って、気が付くとゴジータさんに詰め寄り…ベストを掴み…ものすごい間近で訴えたんだから…

「あっ…すみません…」
「いや…」

その状況に気が付いて、パッと手を離す。

「…そう、か」
「………?」

“そうか”…と、何度もそう呟くゴジータさん。
何だろう…まるで、自分に言い聞かせているみたいな…
そしてその声音はどことなく、安堵しているようにも聞こえた。

まぁ、確かにそうか。
神聖な場所でコトに及んでいなかったってわかったら、安心するよね!
(↑違・笑)
ゴジータさんの心情をさほど疑問にも思わず、あたしは誤解が解けた安堵感で満たされていた。





「あっははははは」

そして今。
あたしは大爆笑するその人の前で「そんなに笑わなくても…」と唇を尖らせていた。

「あはは、ごめんごめん…それにしても…ぷっ」
「ブルマさん〜」

あれ以上、神殿にいることすら恥ずかしくなったあたしは、一人下界へと降りてきた。
もちろん、悟空は置いて(笑)
気を探ることのできる悟空にはとっくにあたしの行動はばれているだろうけど…
で、そのまま家に帰る気にもなれなかったあたしはちょっぴり寄り道。
カプセルコーポレーションにお邪魔している。

「まぁ、孫くんも男だったってわけね〜」
「ブルマさん、楽しんでませんか?」
「ごめんねぇ、すっごく楽しいわvv」
「……………」

…あたしは、寄り道先を間違えたのだろうか…
本当に楽しそうにしているブルマさんに、一瞬そう思った。

「だけど、よかったじゃない。それだけ愛されてるってことよ」
「…そうなんですか?」
「そうよ。好きな相手に触れたくない、って思う男なんていないわよ」

愛されてる…
そうだったら、すごく嬉しい…本当に。

「でも、時と場所くらい考えて欲し…」
「だ・か・ら!そんなことも考えられないくらい、孫くんには名前しか見えてなかったってことよ」
「……………」

ビシッと言い放つブルマさんの言葉にあたしはひたすらパチクリと瞬きをする。
…えっ、そうなの?
そういうことなの??

「………」
「名前ったら顔赤くしちゃって〜、ホンット可愛いんだからvv」
「ブッ、ブルマさんっ、くるしっ…」

ブルマさんとあたしの間には大きなテーブルがあったはずなのに…
気付けば、そのテーブルも飛び越えたブルマさんに猛烈な抱擁を浴びせられる。
苦しがりながら、笑うあたし。
ブルマさんは本当にすごい人…
だってほら、あたし…今、笑ってるもの。

「そんな顔してたら孫くんだけでなく、私まで惚れちゃうわよ〜?」
「も、もう…」

突然、普段とは全然違う“大人”の悟空を目の当たりにして…
もうどうしたらいいのか、正直わからなくて…
ただ怒って振舞うことで、心臓のざわつきを抑えようとして…
悟空の顔が、見られなくなって…

「こ〜ら」
「…え?」
「何百面相してんのよ…」

色々考えている内にみるみるテンションが下がっていくあたしの額をコツンと小突くブルマさん。
気持ちが上がったり下がったりするのはいつもの悪い癖なんだけど…今回は結構重症かもしれない。

「あたし…なんか、もうどんな顔して悟空の顔見たらいいのか…」

そんなあたしの渾身の悩みはブルマさんの「バッカねぇ」という一言で一蹴されてしまったけど…

「孫くんが一番好きなのは名前のどんな顔だと思う?」
「……………」
「ちゃんと仲直りしなさい」

ほら、と言ったブルマさんにそっと背中を押される。
キョトンとするあたしが顔を上げた先にいたのは…

「…よっ」

…悟空だった。
心なしか、いつもより元気のない笑顔を見せる悟空。
瞬間移動でココまで来たんだろうな…とはすぐに思ったけど、何だろう…
胸のところがぎゅっとなったのがわかった。

「おめぇ、帰ぇるなら一言言ってってくんねぇか」
「…ん、ごめん」
「…いや、まぁ、いいんだけどよ」
「……………」

言葉が続かない。
顔を上げていられない。
悟空の顔を見たくないんじゃない。

「……………」

元気のない悟空を見たくないんだ、あたし。
言葉は出てこない。
でも、ブルマさんに話を聞いてもらって、背中を押されて今なら近付けるような気がした。

「…名前?」

歩み寄って、そっと手を握ったあたしの行動に悟空は驚いたみたいだった。
今度はちゃんとその顔を見上げて言う。

「ごめんね…一緒に帰ろ?」
「ああ!」

いつもみたいに笑う悟空にホッとすると同時に、色んな想いが込み上げてくる。
悟空の笑顔がこんなにも大好き…
あたしの肩に手を置き、家へと瞬間移動の体勢に入る悟空。
振り向いた先ではブルマさんが「仲良くね〜」と笑顔で手を振っていた。