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かの有名な"名探偵"といえば、シャーロック・ホームズや金田一耕助など数多くの推理小説の主人公が上げられるが、単に血に塗れた難事件を次々に解決することだけが探偵の仕事ではない。浮気や不倫・ストーカーやいじめなどの様々な証拠を掴んだり、行方知れずになってしまった人やペットを探したり。他にもやることは多いがいずれにせよ決して小説やドラマなどで描かれるような華麗で派手な雰囲気はなく、その仕事ぶりは本来地道で地味なものだ。


『どうぞおかけください。今お飲み物を…あ、コーヒーとお茶どちらがいいで「っくしゅん!!」
『あれ。風邪ですか?』
「い、いえ…そんなことより、早く結果を教えてちょうだいよ探偵さん!!」
『あぁ、ですよね…』


彼女の名前は志津馬海音。数ヶ月前から犯罪都市と称される町、ここ米花町で新しく探偵事務所をかまえた新米の私立探偵である。


「それでどうなの。やっぱりうちの人、不倫してるのよね?」


今回の依頼人は、唐谷伸子という中年の女性。一ヶ月ほど前から夫の帰りが突然遅くなったのをきっかけに不倫を疑い始め、彼の後をつけて証拠を掴んでほしいと志津馬は調査依頼を頼まれた。


『では、調査結果からご報告します。ご依頼された唐谷さんのご主人、保夫さんの不倫についてですが…こちらで調査した結果、不倫の事実はない。との結果にいたりました。』
「そんな…嘘よ!?」
『再度確認ですが、保夫さんの働いている職場からご自宅までは電車を乗り継いで約30分ほどで着くんですよね?』
「えぇ、そうよ!!」
『しかし最近は家に帰ってくる時間がいつもより2時間近く遅くなっていた。』
「どう考えたっておかしいじゃない。他に女ができたって考えるほうが自然でしょ!?きっとホテルにでも連れ込んでたんだわ、汚らわしい…はっくしゅん!!」
『その線も視野に入れて、お聞きしていたご主人の職場から気づかれないよう尾行していたところ、たどり着いたのが…ここです。』


そう言って彼女がタブレットの画面から写した場所は…


「これは?」
『”にゃんにゃまるCAFE”と書いてありますが、いわゆる…猫カフェですね。』
「ねっ…!?」
『はい。猫カフェ。』


予想打にしていなかったであろうその回答に、唐谷は思わず口をあんぐりと開けて呆気にとられる。


「ど、どうして主人が猫カフェなんかに!?あの人、猫なんかにこれっぽっちも興味ないはずよ!!」
『やはり、そうなりますか。』
「何…どういうこと?」


困惑気味の依頼人に志津馬は静かに口を開いた。


『実は…私も客のふりをして猫カフェに入ってみたんです。ああいう場は初めてだったんでどうすればいいかオロオロしてたら、ご主人の方から声をかけてくださって。』
「主人が?」
『えぇ。それでしばらくお話を伺っているうちに、いくつか分かったことがありました。』


そう言うと彼女はまっすぐ唐谷の顔を見つめる。


『伸子さん。あなたもしかして…猫アレルギーではありませんか?』
「っ…!!」


その言葉を聞いた途端血相を変えた彼女の様子を見て志津馬は小さく頷いた。


『以前お二人がショッピングモールに買い物をしに行った際、ペットショップの窓越しに並んでいる猫たちを遠くから眺めていたあなたを見て保夫さんが入るか?と声をかけたそうですが、あなたは"猫は嫌いだから"と言って頑なにお店へ入ろうとはしなかった。』
「それがなんだって言うの。」
『それから数日後、近所の方が猫を連れて散歩しているのを見てあなたはこうも言っていた。』


ー猫を抱きかかえながら散歩だなんて、信じられない…ー


「だから言ってるでしょ、私は単に猫が嫌いなだけよ!!」
『でも、保夫さんは見ていたんですよ。いつもお風呂上がりにリビングへ向かうとソファであなたがスマホで猫の動画を眺めている姿を。』
「えっ…!?」
『それも毎日のように。あれだけ猫を忌み嫌っているように見えたあなたが熱心に猫動画を見ていることにご主人は違和感を感じ、"もしかしたら、好きだけど何か触れられない事情があるのかもしれない"と考えた。そして猫カフェに通い始め、その真相に保夫さんは気づいたんでしょう。私もついさっき気が付きました。』
「し、真相って…」
『くしゃみです。』


調査結果を報告する前やその間に、彼女は幾度かくしゃみをしていた。それだけならまだしも猫の話題をし始めるとしきりに目や体をこすったり落ち着かない素振りを見せていたことで志津馬の中でも確信へと変わる。


『今は5月半ば、飛んでいる花粉も次第に収まってくる頃です。猫に触れて帰ってきた保夫さんが家に入ると、あなたの症状は今よりもひどいものだったそうですね。』
「……」
『本当はあなたも…薄々感づいていたんじゃないですか?保夫さんが女性とではなく、猫と触れ合っていたことを。』
「馬鹿馬鹿しい…今日のところは帰らせてもらうわ!!」
『え?』
「こんなへなちょこ探偵に頼むんじゃなかった!!」
『へ、へなちょ…!?あ、ちょっと!!』


憤慨したように勢いよく立ち上がるとバタバタと音を立てながら唐谷は事務所のドアを開けて去っていった。


『うっそ…今月の生活費、とんだ…』


報酬を楽しみにしていた矢先のこの展開に、想定外のあまり彼女はその場でがっくりと項垂れた。


『何さ…せっかく夫婦喧嘩を取り持ってあげようと思ったのに。』


突然依頼人が帰ってしまったことで消えた報酬金の件について腹が立っていた志津馬だが、そうは言っても時刻はお昼時。自然の摂理により腹は減る一方なので少しでも何か口に入れるために最近見つけた安くてうまい弁当屋と足を向けていた。と、その時…


「誰かぁー!!ひったくりよぉー!!」
『っ!!』


大通りに面した道に出るとすぐ近くで女性の叫び声が聞こえ振り返るとそこには女性物のバッグを抱えた男性が集合住宅がある細い道へと消えていき、咄嗟に彼女はその後を追った。


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