波乱の入学式
「それではこれより、ナイトレイブンカレッジ”入学式”を行います。」
通常この学園の入学条件として”闇の鏡”と呼ばれる特殊な鏡によって、優秀な魔法士の資質を認められた者だけが入学できるのだという。”扉(ゲート)”という名の棺へ世界中から資質を持った学生たちが呼び寄せられるとか。
『(1年前にも見たけど、何度見ても慣れないなぁこの光景…)』
大勢の生徒が式典服といういかにも魔法使いの方な衣服に身を包み新入生を囲んでいる様はさしずめファンタジーものの映画でも見ているかのようだ。ヴィンネルはそんな事を考えながら式が順調に進んでいくのを眺めている。
「続いて、新入生の皆さんを各寮へと分ける”寮分け”を行います。」
クロウリーの指示で新入生が一人ずつ順番に闇の鏡の前に立ち、資質を見極められた後それぞれ相応しい寮へと組み分けられる。儀式は万事滞りなく行われていた、はずだったのだが…
「あぁなんということだ…!!」
『ん?』
誰かの嘆く声が聞こえ彼女は鏡の間の隅から辺りを見渡す。すると遠くに見えた学園長の異変に気づき不思議そうに足を進めた。
『学園長、どうかなさったんですか。』
「クレイモアさん!!大変です、一大事です!!」
『一大事?』
「いないんですよ!!今年の新入生が一人だけ!!」
『えぇっ!?』
その一言を聞いて思わず目を見開く。
「ようやく最後の一人を扉から目覚めさせるつもりで来たんですが、すでにもぬけの殻になっていて…このとおり。」
彼が見せた棺の中には誰の姿もなく、少し蓋の周りが焦げたような跡が。
『でもたしか、この棺って特別な鍵を使わないと開かないんじゃ…』
「そうなんです!!棺の状態を見る限り無理やりこじ開けた可能性は十分にありますが…今はそんな流暢なことを言っている暇はありません。一刻も早く新入生を探さなくては!!まだそこまで遠くには行っていないはず…」
『じゃあ恐らく学園内にはいるってことですね、私も探します!!』
「お願いします!!」
そう言うと二人はいなくなった新入生を探すべく式場を出た。式の途中で抜け出したとはいえ、このナイトレイブンカレッジの敷地は随分と広い。ましてや初めて来る人間ならなおさら迷うはず。渡り廊下や教室など手当たり次第に探していき、行き着いた先は図書室だった。すると…
「ここは一体…本が、浮いてる…!?」
「フンッ、オレ様の鼻から逃げられると思ったか!!ニンゲンめ。」
「や、やめてください!!」
『この声、奥から…?』
声が聞こえた方へ向かってみると、そこには学園の制服を着た新入生らしき青年と猫のような姿をした生き物が浮遊しながら話している。
「さぁ、丸焼きにされたくなかったその服を『何してるの!!』
「っ!!」「ふなっ!?」
そう叫ぶとすかさずヴィンネルは生徒の前に行き、小動物の前へ立ちはだかった。
『君、大丈夫?』
「え、あ、はい…!!」
「なんだオメー!!オレ様の邪魔すんじゃねーんだゾ!!」
『それを聞きたいのはこっちの方!!何なのアンタは!!』
「オレ様は大魔法士になるグリム様なん…ふぎゃっ!?痛ぇゾ!!なんだこの紐!!」
「紐ではありません。愛の鞭です!!」
そこへクロウリーが駆けつけてグリムと名乗る生き物に鞭を振るう。
「あぁ、やっと見つけました…クレイモアさんもご苦労さまです。」
『学園長。』
「君、今年の新入生ですね?ダメじゃありませんか。勝手に扉(ゲート)から出るなんて!!それに、まだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ。」
「ゲート…使い魔…?なんですか、それ…」
『?』
怯えるように目を右往左往しながら困惑の表情を浮かべる彼に、彼女は少し違和感を感じた。
「離せぇ〜!!オレ様はこんな奴の使い魔じゃねぇんだゾ!!」
「はいはい。反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね。」
「っ!?」
グリムの口を手でふさぎながらクロウリーは言葉を続ける。
「まったく、勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生なんて前代未聞です!!はぁ…どれだけせっかちさんなんですか。さぁさぁとっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう。」
「新入生…僕が?」
「早くしないと入学式が終わってしまう。さぁ、行きますよ。」
「ま、待ってください!!その前に、ここは一体どこなんですか!?」
青年は本当に戸惑っているようにヴィンネルには見えた。
「おや?君、まだ意識がはっきりしていないんですか?空間転移魔法の影響で記憶が混乱しているんですかねぇ…まぁいいでしょう。よくあることです。では、歩きながら説明してさしあげます。私、優しいので!!」
『……』
先程から挙動不審の彼の反応には彼女にも覚えがある。というのも、それがまるで1年前この世界に飛ばされた自分を見ているかのようだったからだ。
◇ ◆ ◇
学園長の説明を受けながら彼らは再び式場である鏡の間へと戻ると、すでに寮分けが終わり各寮長が寮生たちを連れて自分の寮に戻ろうとしていた。
「それにしても、学園長はどこ行っちゃったのかしら。ヴィンネルも一緒に式の途中で飛び出して行っちゃったけど。」
「職務放棄…」
「2人して腹でも痛めたんじゃないか?」
「違いますよ!!」
鏡の間に入る前に聞こえてきた寮長たちの小言にツッコミを入れつつ彼らは再び式場に足を踏み入れる。
「新入生が1人足りないので探しに行っていたんです。さ、寮分けがまだなのは君だけですよ。狸くんは私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ。」
「あ…はい。」
不安そうな面持ちの中、青年は鏡の前へ立った。
《汝の名を告げよ。》
「えっと…ノア・ラウラートンです。」
《汝の魂のかたちは……》
鏡はそう言うとしばらくの沈黙が訪れる。
《………わからぬ。》
「なんですって?」『っ…!?』
《この者からは、魔力の波長が一切感じられない…色も、形も、一切の無である。よって、どの寮にもふさわしくない!!》
その言葉に言われた本人だけでなく周りにいた生徒たちもざわついていた。もちろん、ヴィンネルも。
「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてありえない!!生徒選定の手違いもこの100年ただの一度もなかったはず!!一体なぜ…?」
『(魔力を持っていない…もしかして、この子は…)』
全体が唖然とする中、突如として声が聞こえてくる。
「だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!!」
「あ、待ちなさい!!この狸!!」
それは学園長の隙をついて手を離れ飛び出したグリムの声だった。
「そこのニンゲンと違って、オレ様は魔法が使えるんだゾ!!だから代わりにオレ様を学校に入れろ!!」
『ちょっと何言ってんのアンタは…!!』
「魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!!」
「みんな、伏せて!!」
「ん゙な゙ぁああああああ!!!!!」
リドルの掛け声とともに全員がその場でしゃがみ込むと、グリムが唸りながら前足を広げ式場全体が青い炎に包まれる。
『あっつ…!!』
「このままでは学園が火の海です、誰かあの狸を捕まえてください!!」
「偉大なる大魔法士になる男・グリムとは、オレ様のことだゾ!!」
「威勢の良い小動物ですね。リドルさん、お願いできますか?」
「違反者は見逃せないからね。さっさと済ませるとしよう。」
そして想定外の追いかけっこが始まった。
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