異端なふたり
『君、ノアくん…だっけ。ケガはない?』
「はい。大丈夫です…けど…」
『……』
「あちちちっ!!だ、誰か!!いい加減俺の尻についた火消してくれてもよくねっ!?」
『あ、カリムく…!!』
尻に火がつき慌てているカリムの姿を見て咄嗟に立ち上がるが、
「そう慌てるなカリム。俺が今消してやるから。」
長い髪を結った青年が彼に近づき水の魔法を唱えて火を消した。
「助かったぜジャミル!!ありがとな!!」
「これくらい従者として当然だ…というか、俺がいなくともお前の魔法で消せただろ?」
「ん?…あ、そっか。そうだな!!すっかり忘れてたぜ!!あっはは!!」
「忘れるなよ…」
『(ふぅ、良かった…)』
従者であるジャミルに助けられた様子を見て安心していたのも束の間…
「クソ〜しつこい奴らなんだゾ…こうなったら!!」
鏡の間を一周してきたのかグリムがこっちにやってきたかと思うと彼はヴィンネルの後ろに隠れた。そしてグリムを追いかけてきたリドルやアズールと鉢合わせることになってしまう。
『な、何っ!?』
「ほう、よりにもよって防衛魔法の力が宿ったアクセサリーをつけている彼女を盾にするとは…君にしてはなかなか考えましたね。」
「ここはやむを得ないか…ヴィンネルさん、伏せて!!」
『あ、はい!!』
「首をはねろ(オフ・ウィズ・ユア・ヘッド)!!」
勢いよくその場にしゃがむとその隙にリドルがグリムに対し魔法を唱えてその首元にハート型の首輪がかけられた。
「ふぎゃっ!?なんじゃこりゃ!!」
「ハートの女王の法律・第23条"祭典の場に猫を連れ込んではならない"。猫であるキミの乱入は重大な法律(ルール)違反だ。即刻退場してもらおうか。」
「オレ様は猫でもねぇ〜!!こんな首輪すぐに燃やして…あ、あれ?炎が出ねぇんだゾ!?」
「フンッ、僕がその首輪を外すまでキミは魔法を使えない。ただの猫同然さ。」
「どうにかしてください!!あなたの使い魔でしょう!?」
「えぇっ!?僕ですか!?」
クロウリーの一言で周囲の視線がノアの方へと向けられる。
「しっかりと躾を「ち、違います…僕の使い魔なんかじゃありません!!」
「え?あなたのじゃない?」
「だから、さっきから何度もそう言ってるじゃないですか!!」
「そ、そうでしたっけ…ごほんっ!!では学園外に放りだしておきましょう。鍋にしたりはしません。私、優しいので!!ヴィンネルさん。お願いできますか。」
『また私ですか?』
「またあなたですよ。これも用務員の仕事の内です。」
『あぁ…はいはい分かりました。じゃあ行くよ猫ちゃん。』
「ぎにゃー!!離すんだゾ!!」
彼女は首輪ごとグリムをつまみあげると、鏡の間を出て学園の門の前まで彼を連れて行った。
「はぁーなぁーせぇー!!オレ様は…絶対、絶対!!大魔法士になってやるんだゾォーーー!!!!」
『諦めなって。第一ここの生徒に選ばれてない時点でアウトだし、そもそもアンタみたいなちっこいモンスターが大魔法士って…』
「うるせぇー!!そういうオメーこそ制服着てないくせに!!」
『私はここの生徒じゃなくて職員、雇われてんの。アンタとは立場が違う。ほら、さっさと森にでもなんでも帰んなよ。ここには二度と来ないこと。』
「ふなぁっ!!」
そう言うとヴィンネルはグリムを置いて門の中へと入っていく。
「お、オイ待て、待つんだゾ!!」
『(こんな夜中にほっぽり出すのは気の毒だけど…まぁうまくやりなよ。)』
彼の声に耳を貸さず、彼女は鏡舎の方へ歩いていった。すると遠くからクロウリーとノアが2人で歩いてくるのが見える。
「あぁクレイモアさん。先程の狸は?」
『ご指示通り、学園の外に出しました。』
「そうですか…それでですが、こちらの新入生になるはず"だった"彼を君の暮らしている寮へ案内するところでしてね。」
『この子をうちの寮にですか?っていうか、"だった"って…』
「それについてはまた歩きながら説明しましょう。」
俯いている彼を案じつつも、ヴィンネルは彼らとともにオンボロ寮へと足を進めた。
「実は皆が寮へと帰った後、彼を元の場所へ送るべく闇の鏡にたずねたところ…この国に彼の戻る場所はないと言われてしまいましてね。」
『っ…!!』
「図書室で調べてもラウラートンくんの住んでいた場所に関することを記載した本はどこにもない…この感じ、どことなくあなたの時と似ていませんか?」
「あなたの、時…?」
するとノアは不思議そうに顔を上げ彼女の方を見つめる。
『…えぇ、似ていますね。』
「どういうことですか?」
「彼女は君と同じように、この世界に存在しない異世界からこのツイステッドワンダーランドへやって来た人間の一人なのです。」
「えっ…!?」
『…それで、これから彼をどうするつもりですか?』
「ひとまず今日はあなたのところの寮に寝泊まりしてもらうこととして、今後のことはまた日を改めて…」
『あー…そうですね。学園長はそうやって問題を先延ばしにするのお好きですもんねぇ〜「な、何を言い出すんですか急に!!人聞きが悪いですよ!!」
「あ、あの…寮ってもしかしてここですか?」
話し込んでいるうちに彼らはオンボロ寮の前までやって来ていた。
「えぇ。ここが先程お伝えした、今晩あなたが泊まる寮ですよ。」
「これはまた、なんというか『趣があっていいでしょ?』
「えっと、あ、はい…」
「そうでしょうそうでしょう。さぁ、中へどうぞ。」
有無を言わさず二人は中へと彼をすすめた。
「私は調べものに戻りますので、適当に過ごしていてください。学園内はウロウロしないように!!では♪」
談話室につくとクロウリーは早々に寮を出ていき、残ったのはノアとヴィンネルだけ。
『あぁえっと…じゃあ改めまして。私はヴィンネル・クレイモア。よろしく。』
「ノア・ラウラートンです。」
『急にいろんな事が起きて戸惑ってるよね、きっと。』
「はい…あの、さっき学園長さんが言ってましたけど…あなたも僕と同じように、別の世界からここへ来たんですか?」
『うん……念の為、君に聞いておきたいんだけど。』
そう言うと彼女は自分が住んでいた世界の地名を彼に教える。するとノアは驚いたように目を見開く。
『この国のこと知ってる?』
「はい。テレビで見たりニュースで聞いたことはあります。僕の住んでいるところからはかなり離れているので、行ったことはありませんが…」
『そっか…じゃあやっぱりそういうことになるのか。』
「そういうこと?」
『ノアくんのいた世界と私がいた世界は同じ。つまりは2人とも、同じ世界からこのツイステッドワンダーランドへ飛ばされた。』
「一体どうして…」
『それが分かればいいんだけどねぇ…分からないまま、もう1年も経っちゃった。』
「1年!?もう1年も向こうに帰れてないってことですか!?」
『…ごめん。君からしてみれば絶望的なことかもしれない。』
困惑した表情で俯くノアに、ヴィンネルはゆっくりと歩み寄った。
『でも諦めたわけじゃないの。一応学園長も元の世界に戻る方法を調べてくれてはいるし、私も私なりに調べたりはしてる。この世界に飛ばされたってことは、きっと元の世界と繋がる場所があって、その場所と転移する方法を見つければ帰れるんじゃないかって。』
「……」
『1年は経っちゃったけど、希望が潰えたわけじゃない。むしろ来てくれたことで、可能性がちょっとだけ見えてきた気もしてるんだ。』
「僕が来たことで…ですか?」
『そう…まぁこんなこと急に言われてもすぐには理解し難いよね。この話はまた後にしよ!!今日はさすがに疲れたでしょ?今お風呂入れてくるからそこで待ってて。後で部屋にも案内するから。』
そう言うと彼女はその場を離れ浴室の方へと向かっていく。
『(どうして彼も、私も…この世界に飛ばされなきゃいけなかったんだろう。)』
自分のみならず他の人間までこの世界の同じ場所に理由もなく飛ばされているはずはない。その理由がこのツイステッドワンダーランドに、はたまたナイトレイブンカレッジにあるとするならば…
『戻る方法は、ここにあるってこと…なのかな。』
未だ晴れない靄の中にノアという存在が放たれたことで、彼女は少し希望を見出していた。そして浴槽にお湯を溜め終わった途端…
「「ギャーーーーー!!!!お化けぇえええええ!!!!!!」」
『っ!?』
突如として聞こえた叫び声にヴィンネルは慌てて浴室から廊下へと出る。すると寮に住み着いているゴーストたちがノアの前に立ちはだかっている光景が飛び込んできた。
『ノアくん!!どうしたの!?』
「あ、ヴィンネルさん!!それがその…」
「オイお前!!ちゃんと指示出さないとアイツらに炎が当たらねぇーんだゾ!!」
『その声、グリム!?』
彼女がそう言うと、ゴーストたちの隙間からグリムが振り返る。
「あぁーーー!!!!お前はさっき、オレ様をほっぽり出した女!!」
『なんでアンタがここに!?』
「へへっ!!オレ様の手にかかればもう一度学園に忍び込むことくらいチョロいんだゾ!!」
「ヒッヒッヒ、どうしたどうした!!」
「よそ見なんかしてる場合か?」
「もっとワシらと遊ぼうじゃないか。」
ゴーストたちの楽しそうな声を聞き、ヴィンネルは呆れながらノアたちの前に立って腕を組んだ。
『ゴーちゃん、ゴーくん、ゴーさん。ここで何してるの。』
「ゲッ!!ヴィンネル!!」
『ゲッ!!じゃないわよ。人を驚かすのは禁止って言ったはずでしょ?』
「いやぁ久々にお前さん以外のニンゲンが来たから、つい嬉しくなっちまって…」
「すまんのう…」
『自分たちの住処に戻りなさい。』
彼女が言いくるめられると彼らは仕方がないように肩を落として姿を消し去っていく。
『まったく…人間に飢え過ぎでしょ。』
「お知り合いなんですか?」
『彼らはこの寮に住み着いてるゴースト。もう1年くらいの付き合いになるかな。でも大丈夫、そんなに悪い人…悪いゴーストじゃないから。』
「こんばんはー、優しい私が夕食をお持ちしましたよー…って、それは先程入学式で暴れたモンスター!!」
すると今度は玄関から夕食を持ってきたクロウリーが現れ、グリムの姿を見て驚いて声を上げた。
「追い出したはずなのに、何故ここに!?」
「フンッ!!オレ様があのお化けたちを退治したも同然なんだゾ。」
「ん?どういうことです?」
「突然ゴーストたちが出てきたんで、僕がグリムに指示を出して炎で追い払っていたんです。」
「オイお前!!自分だけの手柄みたいに言うんじゃねぇー!!」
「なるほど、あなたたち2人で協力してゴーストを追い払ってしまうとは。ふぅむ…おふたりさん、ゴースト退治もう一度見せてもらえます?」
彼のその言葉に3人は同時に首を傾げた。
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