トラブルは突然に
「え?でもゴーストはもういないですけど…」
「ゴースト役は私がやりましょう。私、優しいので!!私に勝てたらツナ缶もあげますよ。では変身薬を…ごっくん!!」
そう言うと彼は変身薬を飲むと一瞬にしてゴーストの姿に変身した。
「えぇ〜めんどくせぇんだゾ…」
「でもここで勝てたら、学園に入れてもらえるかもしれないよ?」
「ぐぬ…これで最後だからな!!」
やる気のないグリムに対し協力的なノアの様子を見てヴィンネルは少し目を見開く。そしてゴーストに扮した学園長を2人は見事に撃退した。
「ぜぇ…はぁ…どうだぁ!!」
「なんと、まさかモンスターを従わせることができる人がいるなんて…」
『私も初めてみた…』
「あ、あの!!グリムも一緒に、この寮に置いてもらうことはできませんか!?」
『え?』
「なんですって、モンスターを?」
「僕は魔法を使えないけど、グリムは魔法が使えるし…何よりこの学園に入りたくて必死でここまでやって来たんです。このまま追い出すなんて僕にはできません…どうか、お願いします!!」
「お前…」
深々と頭を下げる彼を見てクロウリーとヴィンネルは顔を見合わせる。
「……ふぅ、仕方ありませんね。いいでしょう。」
『学園長…』
「ふなっ!?ほ、本当か!?」
「しかし、闇の鏡に選ばれなかった…しかもモンスターの入学を許可するわけにはいきません。君についても元の場所へ戻るまで居候させるわけにはいかない。」
「なんだぁ、ぬか喜びだゾ…」
「まぁ話は最後まで聞きなさい。ノアくん。あなたの魂を呼び寄せてしまったことに関しては闇の鏡を所有する学園にも責任の一端はある。」
「は、はい…」
「とりあえず、当面の宿についてはここを無料で提供します。ですが、衣食住については自分たちで支払っていただかねばなりません。手ぶらのあなたが差し出せるものと言ったら…ふふ、そうだ。クレイモアさん。」
『はい?』
不敵な笑みを浮かべる彼に彼女はすぐさま嫌な予感を察知した。
◇ ◆ ◇
翌日。ヴィンネルはノアとグリムを連れて学園内のメインストリートへとやって来る。
『で、ここが2人にやってもらうメインストリートね。学園の正門から図書室まで続く象徴的な道だから、常に綺麗に保つよう学園長から言われてるの。』
「なーんでオレ様が雑用なんかしなくちゃならないんだゾ…」
『仕方ないでしょ。"この学園に留まりたければ雑用をこなせ。"それが学園長の指示なんだから。』
学園の職員不足の要因もあり使えるものは何でも使えの精神なのか、2人は雑用をすれば学園にいてもいいという条件付きでこのナイトレイブンカレッジに留まることをクロウリーから許可された。それに準じて彼らの教育係として彼女が任命されてたというわけだ。
「けど、図書室で調べ物する許可ももらえたし…グリムもここにいられるならよかったでしょ?」
「オレ様もあのカッケー制服着て、生徒になりたいんだゾー!!」
『そんな甘っちょろいこと言ってるとまた追い出されるわよ?とりあえず、まずは地面に溜まってるゴミを掃き取って、それが終わったらここにある7つの石像を雑巾で拭き上げること。私は向こうの階段の掃き掃除をしてくるから、分からなかったり困ったことがあったらすぐに言ってね。』
「分かりました。」
『じゃあよろしく。』
そう言うとヴィンネルは箒とちりとりを持って校舎まで続く階段へと向かっていく。
『(置いてきちゃったけど、大丈夫かなぁ…)』
2人を残してその場を離れるのは少し不安ではあったが、自分の仕事もこなさないと終わらなくなってしまうのでそこは割り切って集中することにした。すると…
「ヴィンネルちゃん、おはおはー♪」
「おはようございます。」
そこへハーツラビュルの紋章を腕につけた軽いノリの生徒と、礼儀正しい眼鏡の生徒が彼女に声をかけてくる。
『あぁケーちゃん、トレイくんもおはよう。』
「聞いたよ〜?昨日入学式で騒ぎ起こしてたモンスターと新入生、ヴィンネルちゃんの下で働き始めたんだって?」
『さすがはケーちゃん、相変わらず耳が早いこって。』
「人手が足りないとは聞いてましたけど、そんな2人に任せて大丈夫なんですか?」
「一人はトラブルメーカーのモンスターだしねー」
『手懐けられるとは思ってないけど、学園の職員不足も結構深刻な問題だから…背に腹は代えられないって感じ?』
「ははっ、なるほど…おっと、そろそろ行かないと遅れるな。では俺たちはこれで。ケイト、急ぐぞ。」
「了解!!じゃあヴィンネルちゃん、またねー♪」
『はーいまたねー。』
2人を笑顔で見送ると彼女は掃き掃除を再開しようとするが、
「あはっ、シロイルカちゃん見ぃーっけ♪」
『っ!?』
近くから聞き覚えのある声が聞こえ勢いよく振り返ると、ほぼ同じ顔と姿をした長身の2人が立っていた。それを見た彼女は思わず眉をひそめる。
『うわ出た…!!』
「何その俺らに会いたくなかったみたいな言い方ー」
『学園にいる時はなるだけアンタたちの顔見たくないの。』
「それはまた随分と酷なことをおっしゃいますね。」
『…で?何か用?』
「アズールから伝言を預かっています。"新人研修で忙しいかとは思いますが、こちらの仕事に支障をきたさぬよう注意するように"とのことです。」
「まぁアズールなりの気遣いってやつ?」
『気遣われてる気がしないんだけど…』
「とにかくお伝えしましたので我々はこれで。行きましょうフロイド。」
「はーい、じゃあまた後でね。シロイルカちゃん♪」
彼らはジェイドとフロイド。周りにはリーチ兄弟と呼ばれ、オクタヴィネルの寮長であるアズールの側近として行動をともにしている。彼ら3人と彼女は学園の生徒と職員としてだけではなく、"ビジネスパートナー"としての関係性もあり今や何かと一筋縄ではいかない間柄になってしまっている。
『(昨日の今日で情報回るの早すぎでしょ…さては早速学園長に聞いたなあのタコメガネ…)』
用を済ませすぐ立ち去った2人の背中を見つめながら少し考え込んでいると…
「ボンジュール!!ロア・ドゥ・ソノリテ(音色の君)!!」
『おわぁっ!?』
突然背後から現れた生徒の大きな声に驚き思わず体勢を前のめりに崩し階段から落ちそうになったところを、声の主が片腕で受け止めた。
「おっと失礼、また驚かせてしまったかい?」
『る、ルークくん…死角から現れるのは心臓に悪いからやめてって、いつも言ってるよね…?』
「オーララ…それは配慮がなっていなかった。愚かな私をどうか許しておくれ…」
そう言うと突如立膝をついて頭を下げる彼にヴィンネルは焦りだす。
『あぁいやそんな、何もそこまでしてほしいわけじゃないから!!顔上げて!!』
「そうなのかい?」
『うん、次からは正面から来てもらえると助かる…かな?』
「君の笑顔が見られるならもちろんお安い御用さ!!」
『あはは、それは良かった「ところでまた我がポムフィオーレでの演奏をお願いできないだろうか!!」
『え?』
ルークはヴィルが寮長をつとめるポムフィオーレ寮の副寮長で、以前彼らの茶会で彼女がハープの演奏を披露してからいつしか"ロア・ドゥ・ソノリテ(音色の君)"と呼ぶようになった。
「演奏する君の可憐な姿と奏でるハープの音色に、僕の心はすっかり鷲掴みにされてしまったようでね。ヴィルも気に入っていたようだし…あぁ何も無理にというわけではなく、時間に余裕があるときで構わないんだ。」
『あぁ…じゃあ、考えてみる…』
「じっくり検討してみてくれたまえ。良い返事を期待しているよ!!」
そう言うと彼は颯爽とその場を去っていく。
『(どうもルークくんの圧には弱いんだよなぁ…ああいうタイプ向こうにはいなかったし。)』
「おや、早朝から浮かない顔をしておるのう。」
『あ、リリアちゃん。』
ゆっくりと近づく渋い声に気づき、姿を見つけては声を上げた。
「お嬢の愛々しい顔が台無しじゃぞ?」
『毎度毎度のお世辞をありがと。』
「お世辞のつもりはないのじゃがな。」
リリアはディアソムニア寮の副寮長で、可愛らしい少女のような見た目でありながら声や口調から醸し出される貫禄との差があり学園内でも謎多き人物として知れ渡っている。
「して、昨日の騒ぎを起こしておった小童どもがおぬしの下で働き始めたと聞いたが。」
『やっぱり、リリアちゃんも聞いてるんだ。』
「向こうに立ち込めるあの煙は、彼奴らの仕業ではないのじゃろうな?」
『……え?』
彼の視線の先を目で追うと、先ほどノアとグリムに掃除を任せたメインストリートの方で黒い煙が立ち上っていた。
『ちょっと…嘘でしょっ!?』
彼女は持っていた箒とちりとりを捨て、慌ててそちらの方へと駆けていくとそこには彼らともう一人の生徒が立ち込める煙を見て焦りの表情を浮かべているのが見てとれる。
「あーーー!!やっべぇ!!ハートの女王の石像が黒焦げに!?」
「お前が風で炎の向きを変えるからだゾ!!大人しく燃やされろ!!」
「そう言われて燃やされるやつがいるかっての!!」
『何やってんのアンタたちはぁああああ!!!!!』
青い炎が燃え盛る場所に彼女の怒号が轟いた。
- 8 -PREV | BACK | NEXTNothing