「名前、お前昼飯半分も残したな」
「ごめんね、食べられなかったの」
「別に作ったの名前だし残すのは勝手だけど、健康に悪ぃし洗い物すんの俺なんだからな!」
「うん、ごめんね」
「代わりに風呂掃除してくれたら許す」
「うん、今日は私がやるよ」
家に着いて1番にしたことはお弁当箱を帝統に渡す、だった。最近は洗い物は帝統がやっている。夕飯後にまとめて洗ってしまえばいいのにと言ったことがあるが、それはどうやら嫌らしい。
私はそのまま風呂場へ向かって、スキニーと上着を脱いだ。脱いだそれをネットに入れて洗濯機に放り込む。上はTシャツ下は下着と、どうにも間抜けだけど風呂掃除をする格好なんてのはこんなものだ。
残り湯を洗濯機に取り込んでから、浴槽の栓を抜く。浴槽用の洗剤を手に取ってスプレーしていく。スポンジで浴槽内を洗いながら昨日の夜のことを考えた。
帝統を誘うなんて、私はどうかしてたんだ。私は帝統に甘えすぎていた。昨日の私の行動は誰だっていいと言っているようなもので、帝統にも失礼だった。
そう考えて、いつの間にか声が口から飛出ていた。
「帝統、ごめんね」
少し大きめな声はリビングにいたであろう帝統に聞こえていたらしく、どんどん近づいてくる足音で彼がこちらに来るのが分かった。
「呼んだか?……って、お前女の子なんだからパンツのまま男呼ぶなよ!」
「ごめん、忘れてた」
「で、どうした?」
ドアの外から顔を出している帝統は、こちらを見ないように訊く。
「ごめんね」
「あー、しょうがねぇよ。食えねぇ時は誰にだってあるしよ」
「違くて、昨日はごめんね」
「あっ、と、そうか。そっちか」
「失礼だったよね。甘えすぎてたよね。ちょっと大人気なかったなって、反省してる」
「べ、別に自分のこと大事にしてくれりゃ俺は構わねえから」
「私の事、きらい?」
「嫌いだったら抱き枕にしねぇよ」
「そっか、良かった」
会話が終わる頃には浴槽は洗い終わって後は流すだけだった。シャワーを取って蛇口をひねる。ひねるが水が出てこない。
「アレ?」
「名前、シャワーの持ち手にあるボタン押さなきゃでないぞ」
「あっそうだった、きゃっ」
蛇口をひねりすぎていたのか、ボタンを押したと同時にシャワーは私の手から抜け暴れだす。急いで蛇口を逆方向にひねったものの私はずぶ濡れになってしまった。
「名前、透けてるから」
「あっ、ごめん」
「本当に気をつけてくれって、これじゃ襲ってくれって言ってるようなもんだぜ?」
「襲って、なんちゃって」
帝統は私の言葉に返答せず、そのまま浴室内に入ってきた。浴槽をまたいで私の隣に来たと思えば、帝統は私の後頭部に手を添えて私を押し倒した。
「えっ、あっ、ごめん。冗談で、えっと」
私がそんな弁明をするのもお構い無しに彼は真剣な目で私を見つめる。顔が近づいてきたと思えば、唇同士が触れ合っていた。何度も何度も触れるだけのキスが繰り返される。
「ちょっ」
とまって、そう言おうと口を開いた瞬間、彼の舌が侵入してくる。手で帝統の胸を叩くも、彼はディープキスを辞めようとしない。とろけるようなキスに疼き出す身体。脳みそまでとろけそうで、いつの間にか私は彼の舌に絡ませるように舌を動かしていた。
「ふぅ…」
彼の舌が唇が離れ、やっとのことで空気を吸い込む。彼は私を支えたまま言う。
「昨日あんなこと言ったのに、こんなことして悪かった」
「う、受け入れちゃった私にも問題があると思う」
「全部俺のせいにしていいから、もう1回いいか?」
全部帝統のせいにという言葉に、私の心は揺らいで、こくりと縦に頷いて彼を受け入れた。
すると帝統はくくくと笑って私を小突く。
「バカ、そこは断らなきゃダメなところだろ?そのまま食われちまうぞ」