乖離、癒着


そこは普通のアパートのようだった。ワンルームの他に部屋が1つある。キッチンは廊下にこじんまりとあって、反対側の扉を開ければそこにはカーテンで仕切られた風呂とトイレがあった。プライバシーもクソもあるものか。そう思ったが、背に腹はかえられなかった。

「今日からここで生活してもらいまーす」

桜色の髪をした彼が言う。名前をなんというのかすらも分からないが帝統の友人だろうか。全く説明を受けずに、あれよあれよと言う間にこの狭苦しいアパートに来てしまった。

「乱数ありがとよ、頼みきいてくれて」
「本当に。ツケておくからね。前から目星つけてたここしか用意できなかったけど、こんなことになるならもっと広い部屋探しとけばよかったよねー」

らむだ君というらしい彼は肩を竦めながらそう言った。そしてこちらを見てニコリとはにかむと、うちの帝統が迷惑かけたみたいでごめんねっおねーさんっなどと言いだす。反応に困ってしまい薄ら笑いを浮かべながら、いえ…と返すのがやっとだった。
らむだ君にバレないように帝統に視線を送ると、思い出したかのように帝統は携帯の画面を指差し、そろそろ時間ヤバいんじゃねぇ?と、らむだ君に言う。
早くこの3人の空間から抜け出したい私からすれば、その言葉は早く出ていけとしか聞こえなかったが、そんなことを気にしない性格なのか、らむだ君はまぁ僕忙しいしね?じゃあねーと言いながら玄関から去っていった。バタンと扉が閉まる音がして、ほっと胸を撫で下ろす。

「ふぅ……」
「なんかまた疲れてねぇか?」
「そりゃ初対面の人だもん、疲れるでしょ?」
「俺との時とは大違いだな」
「それは…ほら…状況がさ」
「ふーん、そんなもんなんかね」
「にしてもいいの?ここ借りちゃって?」
「俺のせいで危うく一文無しになる所だったんだから気にするなよ、俺も住むところ探してたし」

その一言で息が詰まる。
勝手にかんちがいしていたが、もしかして帝統と同居するということであろうか。確かに明言はされていなかった。それに私一人だけが住む場所を無料で提供してもらえるなんて虫のいい話だ。勘違いしてしまった自分を恥じる。それにしたって住むところがなければ何も始まらないが、本当にいいのだろうか。この状況は。

「なにか不満なのか?」
「いや、別に不満はないけど」

ある。特にカーテンで仕切られたトイレと風呂には不満があるが、それとは別に気にしていることがあった。

「彼が…」
「乱数か?」
「違くて、私の…」
「ああ、フラれたんだったよな。じゃなきゃこうなってないもんな」
「私がフッたの。…まぁ、フラれたようなもんだけど。連絡もないし何も無いけど、でも、男の人と一緒に住むなんて…なんか、罪悪感が」

そう言えば、帝統は笑った。
先程のらむだ君のような笑みではなく、面白いものを見た時に出るような笑いだった。

「いい大人がそんなこと気にしててどーすんだよ?名前はそいつの家に帰りたくないんだろ?だから、行き詰まってんだろ?そんな時に、はいここに住んでくださいって場所を提供されたら、そりゃ誰だって住むぜ?」

だからいーんだよ、甘えろよ。
最後にはニカッと笑ってそう言った。私があまりに不安げな表情をしていたからか、帝統はその長い腕をのばし、男らしいが華奢でもある指で私の額を軽く小突いた。

「俺に賭けた自分の責任だ、とか思わないでいいぜ?俺に投資したと思えって。だからこれは恩返しみたいな、償いっていうか?そういうもんだよ」
「そっか」

分かったような分からなかったような、でも心はどこか落ち着きを取り戻していて、ほっと息をつく自分がいた。

「これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むぜ」

そんなこんなで奇妙な共同生活が幕を開けたのだった。