帝統と共生しだして1週間がたった。
初日は生活用具の買い足しなどで色んな店を渡り歩いた。色違いの歯ブラシやイニシャルのついたマグカップなどを購入している姿は、傍からすれば同棲を始めるカップルに見えただろう。
ただ帝統が面倒くさがって私が買うものと同じシリーズを買っただけ。全く同じだと識別がつかないから分かりやすく色を変えたりアルファベットを変えたりしただけのことだった。
オーブンレンジや冷蔵庫やベッド等はらむだ君が最初から用意してくれていたみたいで買う必要はなかった。
とても助かるが彼がどうしてそこまでしてくれるのかが謎で、悪い頭をフル活用して思考してみたが答えは分からなかった。
「名字さん、もう上がった方がいいですよ」
同僚が言う。
流石に1週間も休んではいられなかったので、私は部屋に住む準備が終わった昨日から出勤している。
ぶり返すといけないからと昨日も早く上がらせてもらっていた私は、流石に悪いですよ、と同僚に返す。同僚は私に任せて彼氏さんの待ってるお家へ早く帰った方がいいですよ、とニヤニヤしながら言う。
そう言われてしまうと茶化されたくない気持ちが罪悪感を打ち消してしまいそうになる。今日は真面目に働いて数日分の欠勤の罪を償いたいと思っていたのだが。
それなのにあまりにも同僚の彼氏さんについての質問責めがうるさくて、結局私は帝統が待っている部屋へと帰ったのだった。
「ただいま」
「おー、おかえりー」
「今日、すっごい帝統のこと聞かれたんだけど」
「一体どうして俺の話になったんだ?」
バッグを床に置き、テーブルを間に帝統の対面に座る。もちろん椅子を買うお金は無かったので座布団だ。
「この前欠勤の連絡を帝統が入れたでしょ?それのせいで、彼氏さんどんな人なんですか!どこの人?前まで違う人と付き合ってませんでした?声カッコよかったです!とか、うるさかったんだから」
「俺の声がカッコイイとは見る目あるな!いや、聞く耳あるな!」
「聞く耳じゃ別の意味になっちゃうでしょーが…」
はぁ、とため息をつけば、帝統は大きな手で私の頭をガシガシと撫でる。コイツは力の加減が分からないのだろうか。フルパワーである。
「久々の出勤で疲れたのか?撫でてやるから元気だせって」
「もう撫でてるし、いや、これ撫でてるの?割と力強いんだけど」
「でも元気出るだろ?」
「こんなんじゃ出ないけど…」
「じゃあこっちだな」
そう言うと帝統は膝をついて私の隣まで移動する。近づいてきた帝統にドキッとしてしまうが、平静を装って、何?と言いながら彼の顔を覗き込む。
まさかキスしようだなんて思ってないよななんて思った瞬間、帝統の両腕が私の脇の下をくぐり抜け背中へ回った。帝統はそのまま、私を膝の上に乗せた。対面座位に似た体勢になってしまい、思わず焦りが顔に出てしまった。
「えっえっ」
帝統は私をそのまま抱きしめる。すぐ真横にあるであろう顔は、角度的に見ることは出来ない。彼はどんな顔で私を抱きしめているのだろう。少なくとも私は冷静じゃないし、顔は真っ赤になっている筈だ。
「だ、帝統さん…?」
「なんかよー、人の温もりを感じるとストレスって軽減するらしいぜ」
「へぇー…?」
「どうした?」
「こういうのって恋人同士でするもんじゃないの?」
「俺より年上なのに随分ウブなんだな」
「関係ないから、ダメだから、付き合ってないのにこんなの」
「俺だって誰にだってするわけじゃねぇし、黙ってストレス軽減しとけって」
「は、はい…」
距離が近くて恥ずかしい。全身で全身を触れられてもどかしい。様々な感情が混ざりあって自分が自分でないような気さえした。ストレスが減っているどころか増えているのではないかと思うくらいだ。
結局帝統は夕食の準備をする時間になるまで私を離してくれないのだった。
――――――――
突然だがこの家には部屋は一部屋しかない。そしてベッドも1つ。この1週間は帝統と一日交代でリビングの床と部屋のベッドを使っていた。
今日は私が床で寝る番だったのだが、どうにも体の疲れが取れずに風呂を出てからベッドに直行してしまった。
帝統は今シャワーを浴びているところだが、なんと言って交渉しようか迷ってしまう。
「金積むから…じゃ、ちょっとな…」
「なにがだ?」
突然の声にひゃっと声が出た。女の子らしい声が出てしまって恥ずかしい。
「いやベッドが…」
「ベッドで寝たいのか?」
「結論から言うとそう、体が疲れてるから」
「じゃあ一緒に寝るか」
思わず声も出なかった。
何も言わないことを了承ととったのか帝統は部屋の電気を消して、ベッドに入る。寝るぞと言う声と共に体を引っ張られてベッドの中に引きずり込まれた。
「帝統さんや」
「どうした」
「いや、あの…男女が同じ布団で寝るのは間違いが起きてしまうのでは…」
「ラブホの時も一緒に寝てただろ?」
「あれは不可抗力で…!」
「これも不可抗力ってことで」
「ええー…」
なんでこんな状況になっているのか必死で頭を回す。帝統は何が目的なのか。
「もしかして1人じゃ寝れないとか…?」
「昨日は床で寝てたろ?」
「えーと、寂しくなっちゃったとか?」
「それは名前の方だろ?」
は、はい…とこたえると帝統は私を抱き寄せる。抵抗するまもなく距離はゼロになった。
「名前は断れないタイプだよな」
「えっ、いや、断れるよ」
「このまま俺がキスしてもいいか?ってきいても断れなさそう、その先もなし崩しに許容しそうだし」
「違うってば、断れるってば」
「本当、危なっかしい」
ぐりぐりと頭を撫でられる。どういう意味なのかも分からないまま、おやすみと言われおやすみと返す。呆然としていると間もなく帝統は寝息をたてはじめた。
意味も分からないまま私はなかなか寝付けないのだった。