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ドスンッという音で目が覚める。
どうやら名前はベッドから落ちたようだった。天井はいつもと同じ白だが、間取りが違う。回らない頭で思考を巡らし、首を動かして辺りを見回す。そこにあるものは男性が使うような物ばかりで名前は全てを理解した。

ああ、ここは安室さんの部屋だ。

そういえば昨日は少し飲みすぎていたな、などと思い出せば部屋にノック音が響いた。

「名前さん、起きられましたか?」

扉の向こうから安室の声がした。名前はだる重い体を起こし扉に駆け寄りノブに手をかけて手前へと引いた。

「はい!」
「おっと、昨日の飲酒量にしては元気ですね」
「ええ、二日酔いしないタイプなんです。それで、ええと…」
「とりあえずお昼にしましょうか」
「は、はい…!」

名前は歩く安室の後を追う。リビングのテーブルの上にはオムレツとサラダと食パンとスープが2人分置かれていた。
名前にとっては久々になる豪華な食事だった。
早速チェアに腰掛けてフォークを手に取る。いただきます、と呟いて料理を口に運ぶ。もぐもぐと口を動かすと名前は黙ったまま俯いた。

「名前さん、いかがしました?」

少しおかしい名前の様子に安室は尋ねる。それから間もなく名前は顔を上げた。

「美味しくて、温かくて、心がほかほかします」

涙声で名前は安室にそう伝えると、安室は驚き目を見開いた。
料理は得意な安室だが涙が出る程でないのは分かっている。それなのになぜ、と思案し始める。少しして合点がいったような顔つきで安室は口を開く。

「こちらでホステスを始めてからまともな料理を食べてこなかったんですね?」

名前は小さく頷いた。そしてまたオムレツやサラダを食べ始める。泣きながら食べる姿を見た安室は内心可哀想に、と思った。加えて、昨日の話は疑える所こそあれど大体は本当の話なのだろうことも十分に理解した。

やはり家に連れ帰ってきて正解だった、そう安室は安堵して、そして、なぜ自分はここまで彼女の為に尽くそうとしているのだろうか、そう疑問に思った。
どうにも納得がいかない自分と、彼女との共同生活を楽しみにしている自分が反発しあってどこか気持ち悪い。
安室はそこで考えるのをやめて、自身も料理を口に運んだ。