無神論者の嘆き

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甘い香りと白い眩しさに目を覚ませばそこは自宅のリビングであった。白いLED照明は燦燦と部屋を照らしている。どうやら丸井ブン太はいつの間にか居眠りをしていたようで、頬にくっきり残った跡がそれを物語っていた。「ふぁあ……」と欠伸をしながら、さて居眠りをこく前に作っていたケーキは冷蔵庫にしまっていただろうかと台所と冷蔵庫の中を確認すれば、然るべきところにケーキはしまってあった。

何故ケーキなのかと言えば、それは今夜やってくる恋人へのもてなしの一環なのであった。

どこか寝惚けていた頭は覚醒していき、ブン太はハッとして時計に目をやった。約束の時刻はとうに過ぎていて時計の針は九時十五分を指していた。慌ててスマホを確認すれば名前からの連絡はひとつも入っておらず思わず首を傾げる。かわりに知らない番号から着信が入っていたのだが、それを無視して名前に電話をかけた。数コールしたところで、電話は繋がった。

「もしもし、名前、なにかあったのか?」
「こちら××病院ですが、名字さんのご親族の方でいらっしゃいますか?」

思いもよらない声に思わずブン太は上ずった声で「はい、そうですが」と嘘をついた。不吉な予感に心臓は早鐘を打つ。

電話越しの相手は名前が事故に遭い、意識不明であることと至急病院に来て欲しい旨を淡々と述べた。ブン太は震える手で手近にあった紙とペンをとり、相手が言う住所を書きとめた。「急いで向かいます」とだけ言って電話を切ったブン太は上着を羽織り、今度は別のアドレスにダイヤルした。

「……悪ぃんだけど、車出してくれねぇか!至急!」

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