三月。
窓の外に見えるグラウンドには誰もいなくて、たくさんの木々が偶に吹く冷たい春の風に揺れていた。暦の上では春だとはいえ、まだまだ外の空気は冬のそれのようだ。あと少しで訪れる眩しい春の到来を待ち望むように、学園に茂るたくさんの植物は未だ土の中で眠っている。
私は、廊下を急いでいた。
待ち合わせ場所の教室のドアを開けるとしのぶはもう先に来ていて、ドアを閉めた音と共に私を振り返った。
「ごめん、遅くなった?」
「いいえ、私も今来たところですよ」
しのぶはそう言って笑ったが、実際には早く着いていたんだろうなと思う。椅子から立ち上がったしのぶは、手にしていた書類をとんとんと纏めながら青いフォルダへしまった。
「それ、フェンシング部のやつ?」
「いえ、クラスの方です。今度の送別会の役員、私になったので」
ガラリとドアを開けて外へ出る。廊下は冷え切っていて、喋るたびに口から出てていく吐息が白く染まっていく。寒い。
「もう、卒業するんだよね私たち。早いなあ」
「そうですね」
「…しのぶ、あのさ、」
昇降口を出る寸前で私は足を止めた。
「嫌だったら、やっぱりやめてもいいんだよ?」
さあ、と風が吹いてもうほとんど残っていない木の葉っぱを散らしていく。風に吹きつけられて、私の頬も冷たい。しのぶの目を見て言った私に、彼女は微笑んだ。
「私は嫌ではないですよ」
そう言って、しのぶは昇降口の外へと脚を踏み出した。うん、と頷いて後から出てきた私の顔を見て、「頬、まっかになってる」と呟いた。
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