私が死んだのは、夏の日のことだった。熱い暑い、眩暈がするほど暑い夏の日だった。
その日、私はいつものように任務に出ていた。訪れた先の小さな村、そこで私は鬼と戦闘になった。複数いた鬼はなんとか一人ですべて倒し終えることができたものの、私も大きな怪我を負ってしまった。それが致命傷となり、私は地面に倒れこんでもう二度と起き上がれなかった。
漆黒の隊服に包まれた身体はじっとりと汗ばんでいて、倒れた先の地面から香る青々とした草の匂いが優しく鼻を擽った。懐かしい、嗅いだことのある匂いだと思った。
死ぬとき、私は夢を見た。しのぶと二人で買い物に出かけた遠い昔の日の夢を。
しのぶはあの頃はまだカナエさんの真似をしていなくて、短く着られた髪がまるで男の子のそれのようだった。人込みの中、私の手を引いて歩くしのぶは、大人たちにぶつからないように私を庇うようにしながら、少し先を歩いてくれた。
思えば、私はあのころから彼女のことが好きだったのかもしれない。
(しのぶ……)
身体から血が抜けていって、私はもう間もなく自分の命が尽きてしまうのを悟った。悔いは無かった。私も、いずれは死ぬだろうと心のどこかで思っていたのだ。鬼殺隊に入ってから、十三年。しのぶが死んでから、もう四年が過ぎようとしていた。
上弦の弐の鬼との戦闘でしのぶが亡くなったあの無限城での戦いで、私は死ななかった。あんなにたくさんの隊士が亡くなったのに、私は生き延びたのだ。そして、生き延びた私はそれからずっと鬼を斬り続けた。春がやって来て、夏が過ぎて、冬が来て。それから何度、彼女のことを夢に見ただろう。
今思い出しても、私のようなたいして強くもない隊士が死ななかったのはなぜなのか。毎日のように仲間は死んでいったのに、私はこの世に置いて行かれてしまった。しのぶが生きていた頃、ふたりで遊んだ丘や春の桜の前を通っては彼女のことを思い出す日々。しかし、それも今日で終わるのだ。
地面から仰いだ空は高かった。夏に相応しく、真っ白な入道雲が力強い青色の空にたくさん浮かんでいた。その空の中を、ひらひらと何かが舞っていた。
(あ…、)
それは死ぬ間際の私が見た幻かもしれないし、別の虫だったかもしれない。何せ、ほとんど意識が朦朧としていたので実際のところどうだったのかは分からないのだ。
だが、私はその虫へ向かって手を伸ばした。美しい極彩色の翅を羽ばたかせてやって来た蝶は、手の中へと落ちてきた。私はもうその蝶を離さなかった。
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