口から放たれた言葉はもう一旦外に出てしまえば戻ってくることは二度となく、"ついに言ってしまった"という自覚が沸騰するような熱とともに頭の中を駆け巡った。時間がスローモーションのようにゆっくりと感ぜられて、この一瞬だけ世界の時間が止まっているような感覚に襲われる。生まれてから一度も経験したことのないような速さで波打つ心臓。遠くで蝉の鳴き声が聞こえる。顎を伝った汗は、暑さと緊張、どちらによるものなのか、分からなかった。


 「…じゃあ、」


 その首筋に掛かる黒髪が、先輩のチャームポイントであるほくろにかかっている。第二ボタンまで開けられた白いシャツから見えた肌に、私と同じように汗が滲んでいるのが見えた。


 「俺と、付き合ってみるか?」




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