99




9月もいつの間にか終わり、10月を迎え夏の気配はすっかり消え去り、寒暖の差も激しく感じるようになった。

インターン組のお疲れ様会に私の慰労会も兼ねてくれてたらしく、私と轟くんが出かけている間にお菓子を砂藤くんが作ってくれていた。皆私の事を心配してくれているみたいで、何度も大丈夫かと聞かれた。

このクラスの人達はみんな優しい。
それが身に染みて感じた。
だからこそ私もこのクラスの人達に優しくしたい。貰った優しさを大きくして返したい。

とはいえ、周り情況は目まぐるしく変わっていくのが学生生活の常というものなのか、いつの間にか緑谷くんと青山くんが仲良くなっていたりしていた。いや、元々仲が悪いってわけではなかったのだが。

そんなこんなでいつもの様に学校生活を送っていたある日の事だった。美奈ちゃんがブレイクダンスを披露して盛り上がり、即席ダンス教室で緑谷くんと青山くんが、美奈ちゃんの指導の下ツーステップの練習をしている中、緑谷くんがブツブツと何かを言いながらいつもの様にクラスの人たちの特徴をノートにまとめている時に、個性と趣味についての話になった。三奈ちゃんや砂藤くんは趣味をヒーロー活動に生かせるのは強いと言う話で盛り上がっている。

趣味と言えばと言って、真っ先に思いがあるのはやっぱり響香ちゃんの部屋の事だろう。彼女の部屋は楽器だらけで、自身の個性も音に纏わる事だから。

上鳴くんもそう思ったようで響香ちゃんに話しかけたが、響香ちゃんは恥ずかしそうに震え、最後はイヤフォンジャックで上鳴くんの動く口を止めさせた。

「なんかあったのか?」
「うーん、きっと大丈夫じゃないかな?」
「そうか?」
「うん」

私は響香ちゃんを見てる口田くんを見ながら焦凍くんの質問に答えると、焦凍くんは納得してくれたのか、この事についてこれ以上何も聞かなかった。

焦凍くんも随分変わったなぁ。なんてしみじみ思ってしまう。ちょっと前の焦凍くんならきっと今の空気にも気が付かないし、気付いたところできっとなんのアクションも起こさない。自分には関係ない、必要ない。そう思ってたに違いない。けど今は自分以外の人にも目を向けるようになった。
私は焦凍くんにバレないように小さく笑い、席に着いた。





「文化祭があります」
「ガッポォォオイ!!」

ガッポイ…?

あまり耳に馴染みのない歓声に首を傾げると、インターンシップで敵(ヴィラン)と戦ってきた切島くんが、そんな悠長なことやっててもいいのか?と盛り上がっている雰囲気に水を差した。

「切島…変わっちまったな」
「でもそーだろ敵(ヴィラン)優勢のこの時世に!!」

切島くんの意見をもっともだ。と認めた上で相澤先生は文化祭の必要性について寝袋を着ながら説明してくれた。

体育祭はヒーロー科が晴れ舞台だが、文化祭は他科が主役で、ヒーロー科中心の雄英の動きにストレスを溜めている生徒も少なくないと言う。
確かに寮なりなんなりとヒーロー科の生徒が被害に遭った所為で雄英が解決策を作ったものだ。
それに対してつまらなく思ったり、ストレスを感じるのは当たり前だとは思う。
だからと言って私たちにだってストレスが溜まっているわけだけど。

しんみりとした空気の中、相澤先生は寝袋に包まれたまま隅の方に移動つつ説明を続けた。

「主役じゃないとは言ったが、決まりとして1クラス1つの出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう」

成程、だから相澤先生は寝袋にくるまっているのか。これからの司会は委員長の飯田くんと副委員長の百ちゃんが行うのだろう。2人とも立ち上がり、黒板の前に立った。

「まずは候補を挙げていこう!希望のあるものは挙手を!」

そう飯田くんが言うや否や一斉に大体の人が、ハイハイハイハイ!!と言いながら挙手をし始めた。その様子を1番後ろから見てる私としては、さっきまでのしんみりとした雰囲気は一体どこに吹き飛んだのだろうと思う程だ。
腕相撲大会やビックリハウス、クレープ屋やダンスと沢山の案が出てきて、中には爆豪くんの提案した殺し合い(デスマッチ)なるものや峰田くんの提案したオッパブや常闇くんの暗黒学徒の宴や青山くんの僕のキラメキショーなるものまで出ており、百ちゃんは一刀両断で黒板に書かれたアイデアを消していた。
砂藤くんの提案したクレープ屋と焦凍くんが提案した手打ちそば屋は1纏めに出来ないか?とか皆が白熱している間にチャイムが鳴ってしまい、文化祭で何の出し物をするかをこの時間で決めることはできなかった。

いつの間にか寝袋から抜け出した相澤先生がゆらっと立ち上がった。

「実に非合理的な時間だった。明日の朝までに決めておけ。決まらなかった場合…公開座学にする」

公開座学…!
それ見て楽しむ人はいないんじゃないかな?なんて思うものだが相澤先生的には授業も進むしで合理的なんだろう。
私個人としては皆の意見に従うし、特別やりたいこともないから何も言わないけど公開座学だけは嫌だなぁ。
なんて呑気に構えていると、放課後相澤先生に呼び出された。

「時間を取らせて悪いな」
「いえ、この後も特に用事は入れてないので」
「お前の使える能力について詳しく聞きたい」

オールマイト先生が相澤先生からエリちゃんの事について相澤先生から話があるかもしれない。と教えてくれたが相澤先生が知りたがっているカードの事もそれに繋がるのだろう。

私の話を聞いてエリちゃんの事を合理的に判断するってところかな。何も出来ないかも知れないのに話だけ知ってるなんてもどかしさが募るだけだもんね。

「…一応緑谷くんから相談を受けました。返事は保留にしてありますが」
「ったく、アイツは…」
「あと少し早く着いていればって、言ってましたよ」

緑谷くんと通形さんには悪いが、なるべくしてなったものなんだろう。

“この世に偶然なんてない。あるのは必然だけよ”そう言った侑子さんの言葉が胸を締め付けた。

- 100 -
(Top)