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 試合開始直前。俺たちは作戦会議を開いていた。
 作戦を立てたのは緑谷だ。

「まず佐倉さんの個性……もとい、能力だけど、僕が知っている限りでは無敵に近いと思う」
「そうだよなぁー。攻防一体だもんな」
「それに耳郎や障子程じゃねェが、索敵能力もある」
「基本1人で何でも出来るとかチートすぎじゃん」

 耳郎は自分で言った言葉に落ち込んだのか、右手で髪をわしゃわしゃと乱し、瀬呂は顎に指を当て眉間に皺を寄せ考え始め、緑谷は柚華さんの能力やそれに対抗する策をブツブツと言葉を漏らしながら考えている。
 そういや、此奴は知らないんだっけか。

「柚華さんは魔力が切れると動かなくなるぞ」
「マジかよ轟!!」
「え?! アニメにはそんな描写何処にもなかったけど……!」
「緑谷が知らねェって事はそうなんだろうな」

 と言う事はこの弱点は俺しか知らねェって事だが……どうしたもんか。正直あの時の柚華さんを見ている所為かあまり魔力切れ状態にはなって欲しくはねェが、この試合に勝つ為には敵の情報を仲間と共有するのは当たり前の行動だ。

 俺はチームの人間に柚華さんの持っているカードについて何処まで知っているのか確かめる為に口を開いた。

「柚華さんのカードについてだが、カードによって魔力の消費量が違うのは知っているか?」
「いや、初耳だけど……」
「俺もだ。緑谷お前は知ってたか?」
「僕も知らなかったよ。ネットで佐倉さんの事調べた時そんな記事はなかったから」

 流石の緑谷でも知らないか……。とこの場にいる全員が柚華さんのカードについて知らねェ事を知った俺は、順序立てて話せるように、先ず俺は2本の指を立てた。

「消耗が激しい順でいくと、第1配下カードの光(ライト)と闇(ダーク)。次に時間を操る時(タイム)、戻(リターン)。その次が4大元素カードの風(ウィンディ)、水(ウォーティ)、地(アーシー)、火(ファイアリー)。それ以外は皆同じ魔力量を消費且つ、消費量もそこまで多くはない……って聞いた事がある」
「なるほど……つまり、佐倉さんがよく使う盾(シールド)や剣(ソード)なんかは魔力の消費は激しくないから乱用出来る、と……となると佐倉さんには成るべく魔力の消耗が激しいカードを使ってもらいたいから、攻撃の要には炎と氷結を出せる轟くんが良いんだけど、それだと1人の負担が大きすぎる。もっと耳郎さんや瀬呂くんたちを上手く使って……」

 深く考え込む時の癖なんだろうが、緑谷は俯きまたブツブツと言葉を発しては、また俺たちの存在を忘れ深い所まで思考を落していく。おーい、緑谷ー帰って来ーい。と瀬呂に言われて漸く緑谷は顔を上げた。

「ヒットアンドアウェイはどうかな?!」
「は?」
「どういう事?」

 緑谷曰く、柚華さんとまともに対抗しても押し切れるかはわからない。最悪こちらの戦力を減らす事になる。そうなるよりも、順番に攻撃をした方が、柚華さんを誘い込めるし、深追いしない分こちらに害は少ない筈だ。と言う事で話は纏まり、試合開始のブザーが鳴った。
 先ずは耳郎の個性で柚華さんの居場所を突き止めようとしたが、柚華さん以外の音が聞こえるようで、一気に緊張感が高まったが、音は俺たちがいる方向にはやって来ず、先鋒として瀬呂が管から管へテープを巻きつけ柚華さんの所へ向かって行った。その間に俺たちはもう1つの作戦の実行に移した。

「佐倉さんの攻撃の主軸はあの剣だ。そしてあの翼で逃げられたらかっちゃんみたいに空中戦が得意な人間がいないこの状況ではあまりにも不利すぎる。だから、飛べないようにここにある配管で上を塞ぎ、ここは丸々綺麗な更地にしよう。その方が僕らも戦いやすいし、心理的にも閉塞感で翼を使用しなくなるはずだ」

 その緑谷の言葉通り、俺と緑谷は足元にある配管を片っ端から壊していく。これで麗日がいれば問題なく上に持って行けたんだろうが、ないものを強請ったって仕方がねェ。と俺は目の前の配管を只管壊していく。
 すると耳郎が俺に声をかけた。

「瀬呂が戻って来るよ!」
「わかった。次は俺だな」

 配管の音を鳴らし帰る事を合図すればそれが耳郎に伝わり、スムーズに入れ替わるという寸法だ。

「3時の方向から瀬呂が戻って来るから……」
「あぁ、そこに柚華さんがいる」

 俺はこの地形でいかせる瀬呂や飯田のような機動力がないから、走って行くしかない。足音でバレてしまわないように、俺の影が柚華さんに見つからないように、慎重に近づき視界に柚華さんを捕らえた。どうやらさっきまで交戦していた瀬呂の存在が気になるようで、俺の存在には気が付いていない。今がチャンスとばかりに炎を出せば、柚華さんは紙一重で4大元素カードである水(ウォーティ)で俺の炎を相殺する。
 高温の炎で水が蒸発し辺りに霧状の水蒸気となり視界を遮る。

「流石だな」

 これは本心だ。随分気配を殺して近づき、前の試合の反省点を生かしながら攻撃をしたが、柚華さんは相殺してしまった。今の咄嗟の動き、まさに反射と言っていいものだ。

「お喋りしている余裕なんてないよ」
「あぁ、そうだな」

 先ずは成るべく柚華さんにカードを使わせ魔力を消費させながら緑谷たちがいるスポットまで誘導する。それが今の俺の仕事だ。手加減は勿論しない。しようものなら即こちらがやられるのは考えなくともわかっている。
 俺は次の攻撃を繰り出すために右足に力を込めた。
 
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