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 第4試合は爆豪くんのチームプレイが輝き、A組の勝利に終わった。反省会も終わり第5試合も緑谷くんの個性が暴走するという事故があったもののA組の勝利で終わった、反省会では暴走した緑谷くんの個性に注目がいったが、彼自身何が起こったのかわからないようで、戸惑いの色を見せながら、右手を見つめていた。

 これで私以外の全員の試合が終わったという事は……。

「では、佐倉の対戦相手を発表する」

 その場にいた全員が相澤先生の口の動きに注目したであろう。否、していたのは私だけだったかもしれないが、周りの反応なんて気にする余裕がない程、私は相澤先生の口の動きに集中した。

「先ず耳郎、轟、瀬呂……緑谷、お前行けるか?」
「行けます!!」
「何で俺じゃねぇんだ!!!」

 相澤先生の采配に異議を唱えたのは、爆豪くんだった。正直あの試合展開の余裕さから、まだ体力が残っているであろう爆豪くんが選ばれるかと思っていたが、さっき個性を暴走させた緑谷くんが来るとは思わなかった。それに焦凍くんもだ。
 先生曰、爆豪くんのスピードに心操くんが付いていけない。という理由でそうなったらしいが、正直痛い所を突かれてきた。

 範囲攻撃が可能な焦凍くんに、純粋のパワー系の緑谷くん、中距離攻撃に拘束する事も出来る瀬呂くん、そして諜報が得意な響香ちゃん。
 これは……中々に厳しい戦いになりそうだ。

「ルールをもう1度説明する。佐倉、お前は相手チームを全員捕まえる事。緑谷たちは佐倉を捕まえる事。制限時間も今まで通りと変わらない」

 私はこの試合に進級をかけている。いち早くヒーローになって、困っている人に手を差し伸べたい。今まで四月一日くんたちと過ごしてきたように、小狼くんたちとの旅で出来ていた当たり前の事をしたい。人を助けるという当たり前の行動を、この世界でするには資格が必要で、だから私はそれを取りたい。

「佐倉わかってるな」
「はい」

 相澤先生が再度確認したのは、この試合に進級かどうかかかっている。という念押しみたいなものだろう。もう何度も自分の中で緊張感を保っていている。

 指定の場所に移動し私は深く深呼吸をした。やけに心臓が早く動いているのは予想外な人選だったからだろうか。それとも程よく保った緊張感が大きく膨らんでしまっているのだろうか。それとも……。

 考えるのは止めよう。緊張したってやらないといけない事に変わりはない。

「絶対、大丈夫だよ」

 試合開始の電子音が鳴り響き、私は首から下げている鍵を右掌に乗せ呪文を唱えた。

ときの力を秘めし鍵よ。真の姿を我に示せ、契約のもと柚華が命じる封印解除レリーズ!」

 光ながら回転する鍵は徐々に大きくなっていき、最後には両手で持てるサイズの杖になった。それを片手で持ち、スカートのポケットの中から1枚のカードを取り出し、空に向かって投げ呪文を唱える。

「最果てを我に知らせよ! ウッド!」

 恐らくだけど、私がいる場所と正反対の場所がA組のチームがいる所だ。となると、この訓練場γのフィールドの広さを知らなければならない。知っていれば生きてくるカードたちだってあるはずだ。カードの中からしなやかに枝葉が伸びそれが何処までも続いて行く。これは相当に広い……。これ以上出し続けらた敵に見つかってしまう。が、それはそれでいい。端まで行って逃げ場を失うよりはこちらに来てくれて何が何処にあるのか把握した状態で戦う方がずっといい。
 ……本当は試合会場の真ん中あたりで戦えたらいいんだけどね。

 伸び続けるウッドをそのままに、軽く辺りを見回した。隠れられそうな建物が幾つかあり空を見上げると視界を遮るように太い配管が張り巡らされている。これは空に逃げるのは難しそうだ。と考えていると視界の端、随分と遠くの方から枝葉が空に向かって伸びているのが見えた。

 画面で見てる時よりもずっとこの会場は大きい……これならどこで戦っていてもあまり関係の無い事かもしれない。

 ウッドをカードに戻しフィールドの中心に移動しようと歩き出すと、真横から瀬呂くんのテープが伸びてきた。私が手に持っている杖に向かって伸びてきたテープを紙一重で交わし、伸びてきた方向に体を向けると、張り巡らされた太い配管の上に瀬呂くんが立っている。
 地上からは2mといった高さで、距離もあるここからじゃ今すぐ瀬呂くんに対してどうこうする事は出来ないだろう。

「だったら!!」

 逃げるが勝ち! とばかりに私は瀬呂くんに背中を見せないよう走り出した。

「あっ、逃げるなんてアリかよ!!」
「十分にアリです!」

 第一私は瀬呂くんと相性が悪いのだ。
 攻撃の多様性があっても、テープでこの杖を取られたら元も子もない。遠中距離から杖やカードが入っている入れ物を取る事が出来る瀬呂くんとはなるべく対峙したくはない。

 追ってこない瀬呂くんをいい事に物陰に潜め壁に背をつけ呼吸を整えつつ周囲を見回し、ふとある事に気が付いた。

 どうして瀬呂くんは追って来ないのだろうか。
 いや、そもそもなんで瀬呂くんが単身で来たのだろう。攻撃力のある焦凍くんや緑谷くんなら分かるんだけど……。

 敵の狙いは何なのか。息を潜めて考えていると急に空気が熱くなったのを感じ、考えるよりも先に呪文を唱えた。

ウォーティ!」

 水で出来た女の子は大量の水を放出し、迫り来る炎を鎮火させたが、熱せられた水が水蒸気となり辺りの視界を曇らせる。霧の向こう側に黒い影があるが敵が誰なのかわかっている状態なのだから、対策のしようは幾つかある。

「流石だな」
「お喋りしている余裕なんてないよ」

 焦凍くんに相手にフリーズを使った所で意味がないし、なるべくこの場面で四大元素カードは使いたくはない。
 単純に、この場にある影を使って焦凍くんを拘束したところで、手足が地面についていれば彼は影も関係なく、挙句に予備動作なしで氷結を生み出す事が出来る。それだと却って私が不利になるだけだ。

「あぁ、もう。なんて面倒な相手チーム何だろう」

 この霧が晴れる前に攻撃を仕掛けないと私に勝機はない。
 
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