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開闢行動隊に成す術なく敗北。ブラドキング先生が通報していたみたいで…敵(ヴィラン)が去った15分後に救急や消防が到着した。生徒41名のうち敵のガスによって意識不明の重体15名。重軽傷者11名。無傷で済んだのは14名だった。そして…行方不明1名。プロヒーローは6名のうち1名が頭を強く打たれ重体。1名が大量の血痕を残し行方不明となっていた。一方敵側は3名の現行犯逮捕。彼らを残し他の敵は跡形もなく姿を消した。私達の楽しみにしていた林間合宿は最悪の形で幕を閉じた。

私達は相澤先生からその説明を受けている間、焦凍くんはずっと私の隣に立ち私の手をきつく握っていた。まるで私を縛り付けるように、自分の傍から離れられないようにしているみたいだった。



翌日私は生徒代表として警察の事情聴衆を受けていた。そして警察と取引をしようと話を持ちかけた。

「私が話せるのはここまでです。そして私からお願いがあります。無茶を承知ですがでもどうか聞いてください」
「佐倉どうした」

目の前で爆豪くんが連れて行かれるあの様が頭に焼きついて離れない。助けられたかもしれないのに、私がもう少し後ろを警戒していたらあんな事にはならなかったのに。いろんな後悔が押し寄せて混ざり合って気持ち悪い。

「私に爆豪くん奪還の協力をさせてください!職場体験のようにプロヒーローの下につきます!」
「……駄目だね。危なすぎるし警察やプロヒーローのメリットがない」
「百…八百万さんが敵の一人に発信器を取り付けたのは知ってます。でも敵のアジトが1箇所とは限らない!私なら確実に爆豪くんがいる場所まで案内できます!今警察が必要なのは敵に悟られない正確な位置情報じゃないんですか?」
「…佐倉お前の気持ちもわかるが却下だ」

やっぱりそうだよね…わかってた。だから私が欲しいのは先生に伝えたという事実だ。

「…わかりました。エンデヴァーさんに直談判します。私を連れて行くとお得ですってこの能力を売ってきます。まさか2ヒーローを連れて行かないわけないないですもんね?」
「お前だんだん狡賢くなってきたな」
「なんとでも。私はただ助けたいんです」

エンデヴァーさんは基本的に私の能力を買ってくれている。普段の生活でも職場体験の時もそれは感じていた。だからこっちも賭けだが勝率はまだ高い。

「私は避難誘導、被災者の救助、許可があれば戦闘も何でもできる能力に爆豪くんのいる処までの正確な案内まで出来るんです。お得だと思いませんか?」
「……イレイザー、君の所の生徒は強かだね」
「こんな子供じゃなかったんだけどな…」

相澤先生は深い溜息を吐いて私の頭に手刀を入れた。脳の中まで衝撃を与えるほどの痛みで涙目になる。いきなり何をするんだと文句を言おうとしたら、先生の鋭い視線が私を射抜く。普段とは全く違うその視線に動けないでいるともう一度溜息を吐き、塚内刑事に頭を下げた。

せ、先生…?

「無茶を承知でお願いします」
「先生…!」
「……イレイザーヘッド君がそこまで言うなら、もう何も言うまい」

許しが出た…。私は先生と塚内刑事に頭を下げて何度もお礼を言うと2人から色んな注意事項を言われた。プロヒーローの言う事を聞くこと、出来るだけ戦闘に参加しないこと、民間人の避難誘導を最優先すること等だ。中々制限をかけられたがそれでも参加できるなら文句はない。

「わかりました。許可を頂いてありがとうございます」
「…本当は許可なんか出したくないがな。だがお前は確かに利用価値はあるからな……死ぬなよ」
「はい。必ず生きてまた先生の授業を受けます」

警察の方が自宅まで送ってくれるというのでお言葉に甘えて久しぶりにも感じる轟家に帰ってきた。冬美さんは泣きそうになりながら出迎えてくれたが焦凍くんは思いつめたような表情をしていて、どうしたのか気にはなったがそれよりも、と炎司さんに話をする為に彼の仕事場である一室を訪ねた。

「柚華です。今時間よろしいでしょうか」
「入れ」
「失礼します」

炎司さんは警察から貰ったんであろう敵の資料に目を通していたので丁度良かった。

「エンデヴァーさんにお願いがあって来ました」
「…なんだ」
「私に爆豪くん奪還のお手伝いをさせてください」
「却下だ」

わかってた。だからそこまでダメージはない。ここからだ、私と云う商品をエンデヴァーさんにプレゼンするんだ。

「そう言われると思っていました。ですが資料にあったように八百万さんが付けた発信器は本当に爆豪くんの所に案内してくれるでしょうか。警察の情報も一人の敵と姿の特徴が一致しただけでその建物に爆豪くんがいるいう保証はどこにもありません」
「……」
「ですが私なら爆豪くんが囚われている建物に正確に案内することが出来ます。さらに、私の魔法による周りの民間人の避難誘導やいざという時の保護、更に許していただければ民間人を守る為の戦闘も出来ます」

決してメインの爆豪くん奪還には手を出さない。そう言うとエンデヴァーさんは人より大きい手を炎を纏った顎に持ってき考えてくれた。すぐさま断らないという事は連れて行っても良いという価値が私にはあるという事だ。だけど素直に頷けないのは私が生徒だからという事と一度敵に狙われたという事だ。

「お願いです私を使ってください!悔しくて、こんな思いは嫌なんです!」
「雄英はなんて言っていた」
「許可は貰いましたが、エンデヴァーさんの意見を尊重すると」

エンデヴァーさんは少し考えて、条件付きで許してくれた。

「わかった。が、条件がある」
「はい」
「俺のいう事に逆らうな」

衝動的に動くな。そう意味だと考えそれに頷いた。それでもいい。悔しいから私は動きたいんだ。守れるものを守れない悔しさはもうこれだけで十分だ。
自ら死にに行くようなもんだってわかってる。相澤先生も死ぬなと言っていた。それでも助けたい。ヒーローに任せておけば大丈夫だってわかってるのにそれでもどこか一抹の不安を覚えてしまう。

きっと私は囚われたのが爆豪くんだったから今ここにいるんだと思う。これがもし焦凍くんだったら今頃敵アジトに一人で突っ込んで殺されている。そう考えると今は幾らか冷静だ。

「突入開始は明日の夜」
「はい」
「俺たちはその前に警察と作戦会議をする。アジトの場所もすでに目星はついている」
「はい。より正確な位置情報は現地に着いてからですね」

今日は明日に備えて寝ておけ。そう言われ私は妙な気分のまま床に入った。




翌日の朝、焦凍くんは緑谷くんのお見舞いに行くと言って家を後にしてたので、私の分もお願いすると首を傾げられたが頷いてくれた。

そして、私と炎司さん基エンデヴァーさんは今日の作戦会議の為警視庁に赴いた。プロヒーロー勢揃いで圧巻の光景で緑谷くんなんかが見ると興奮しかしないんじゃないかな、なんて思わずくだらないことを考えてしまう位に圧巻だ。

「さぁ、作戦会議を始めよう」
「その前に何故学生が?」
「申し遅れました。私は佐倉柚華という者です。雄英高校でヒーロー科を専攻しています。今回私の能力で皆さんの手伝いが出来ればと思い、参加させて頂きました」
「子供が遊び半分で来ていいような場所じゃないんだ」
「わかってます。それでもこの能力生かせるなら生かして爆豪くんを助けたいんです」

顔も知らないプロヒーローに子供がでしゃばるなと注意を受ける中思わぬ所から助け舟が来た。

「よく来たな」
「虎さん…」
「あんたの判断力とその能力は目を見張るものがるとピクシーボブやマンダレイが言ってたんだ。戦闘経験だけで言うならあの中で群を抜いているって」
「…ありがとうございます」
「精々死なないように頑張るんだな」

そこまで言うなら文句はないと渋々ながら納得してくれ、作戦会議が始まった。私の出番は爆豪くんの居場所の情報提供と避難誘導位だ。

「それじゃあ皆持ち場に着こう!」
「爆豪くんの所まで案内します」


さぁ、助けに行こう。

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