ギャップ

私は人類誰でもギャップに弱い生き物だと思ってるの。さっきまでツンとしてたのにふとした拍子にデレたりされるとキュンと来ない?
少なくとも私はそういうタイプなの。
なかなか懐かなかった猫が懐いてくれたりしたらさらに可愛く見えるし、ツンツンしてた人が甘えてきたりするともうダメなの。

何が言いたいかと言うと、私は私の彼氏のギャップに弱いって話。

「名前こっち来い」
「なーに?」
「早く」

2人掛けソファに深く座った勝己は1人分座れるスペースあるそこを叩いて私に座るように促した。私はそれに大人しく従いソファに腰を掛けると、勝己が私の鎖骨辺りに額を擦らせる。猫みたいなその仕草に胸がきゅっと締め付けられる。勝己の綺麗な金髪の髪を抱きしめると背中に勝己の腕が回った。

「どうしたの?疲れた?」
「んなわけあるか」
「そっかー」

覇気のない勝己の言葉に心底勝己が疲れているんだと思い何度か彼の頭を撫でると、私の背中に回っていた勝己の腕が頭の後ろに回り引き寄せられ私は目を瞑る。
噛みつくように繰り返されるキスに頭がくらくらする。無遠慮にされるキスはまるで自分の欲だけを満たせればそれでいいと言われているみたいで切なくもなるが何故か愛おしく感じる。
だって勝己は私で癒されようとしているんでしょう?あのプライドエベレストで誰かに頼るのが嫌いでなんでも1人でこなすあの勝己が私に今弱みを見せいる。

「…ん、」
「名前」
「っ、ふ…」

上手く息が吸えなくて酸素が回らなくなり、勝己の肩を押し返すとすんなり彼は離れて行ったが今度は私の肩や首といろんな所を甘噛みし始めた。時折噛み痕が付くんじゃないかって思うほど強く噛まれて小さく声を上げるが、勝己は聞こえているくせにわざと噛みついてくる。

「痛いよ」
「うるせェ」
「んん」

普段だったらこんな甘え方はしない。どちらかというと私の事を甘やかしてくれる。例えば落ち込んでいる日や次の日には私の好きな甘いものを買ってきてくれたりしてるし、美味しいご飯に連れて行ってくれたり、気分転換に夜にドライブにも連れていってくれる。

その時は決まって、誰がテメェの為に動くか!勘違いすんな!って怒鳴るんだが、勝己甘いものより辛いものの方が好きだし、あまり遅い時間まで起きてないよね。

「天邪鬼め」
「あぁ?」
「なんでもないよ。それよりも喉渇かない?」

私の腕の中で頷く勝己の為に立ち上がってキッチンに行くと何故か勝己も一緒に移動して来た。と言うより、私のお腹に巻き付いている手が離れなくて、ケトルにお水を入れている今も後ろから抱き締められて離れない。

「コーヒー?紅茶?」

勝己は私の後頭部に額を擦り付けるだけで返事をしてくれない。
こういう時は何を言っても答えないから聞くだけ無駄だ。だから私の飲みたいものを作ろうとマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯が沸くのを待つ。この間後ろから勝己の手が伸びて私の指を絡めながら握る。

普段とのギャップがたまらない。

にやける顔を必死に隠して心臓を落ち着かせる為に何度か深呼吸して、マグカップにお湯を入れようとケトルに手を伸ばすと、勝己がケトルを持ち上げ無言でマグカップの中にお湯を注いだ。

「ありがとう」

そう言うも相も変わらず無言のままだ。
マグカップを2つ持ってもう1度ソファに座り隣に座る勝己に1つを渡すと彼はそれをソファの前にあるローテーブルの上に置き、私の取り上げて今置いたマグカップの隣に並べた。
余談だがこのマグカップは色違いのお揃いで、勝己に内緒で買ってきたものだ。最初こそ恥ずかしがって使ってくれなかったが今となってはどのマグカップよりも使ってくれる。

手持ち無沙汰となった私の手を勝己が握る。そして私に勝己の太股を跨るように促した。

「今日はいつになく甘えたさんだね」
「うるせェ」

やっと会話をしたと思ったらただの文句で思わず笑いが混み上がってくる。私は大人しく勝己を跨ぎ向かい合って勝己の首に腕を回す。

「どうしたの?…疲れたなら寝る?」

私を抱き締める勝己からの反応は何も無い。なんの反応もないことをいい事に少しだけ揶揄うと突然勝己が頭を上げて噛み付くようなキスをした。

一瞬だけ目が合った彼の目はさっきまで疲れていた人の目ではなく、飢えた獣のようなギラついた眼だった。

「ふ、…ン」
「人が大人しくしてりゃおちょくりやがって」
「あ、!」

視界が一気に変わり勝己の顔と少しの天井しか今は見えない。

揶揄い過ぎた…。と反省したところでもう遅い。私はこの飢えた獣に今から食べられてしまう。

「気絶すんじゃねェぞ」

捕食者がご馳走を目の前にして、味わう前の儀式のように口の端を赤い舌で舐める。
勝気に笑う勝己はもう既に疲れなんか吹っ飛んでいるようで、今夜は眠れそうにない。折角淹れたコーヒーも食事が終わった頃にはすっかり冷め切っているに違いない。

「ンん…まっ…!」
「誰が待つかよ」
「かつ、…きぃ」

ねぇ勝己。君は私がギャップに弱いって知ってるのかな?なかなか懐かなかった猫が懐いてくれたりしたら嬉しかったりするじゃない?普段から完璧な人が弱っているところを見せてくれたりしたらときめいちゃうじゃない?
それって逆も然りだと思うのよ。
さっきまで弱々しくしてたのに急に男の人の表情をするなんて狡いと思わない?

「何笑ってんだ」
「んんー、勝己はもしかしたら天才なのかも」

私を貴方に虜にさせる天才なのかもしれないね。

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