物語の続きを

ショート王子と恋仲になって私達は姉たちに改めて報告しようと海に足を向けた。
姉たちになんて言われるんだろうか。と不安になったりしたが、ショート王子が横でずっと手を握って、俺がついている。と言ってくれていた。

「やっぱり怒られるんでしょうか」
「色々あったからな」
「お姉様たち怒ると少し怖くって…」

私が末っ子の所為もあり、よく姉たちに怒られて育ったものだ。
例えば、沈没船で人間が使っていたものを拾ってきては捨てなさいと怒られ、人間の暮らしているところを見たいと言えば危ないから止めなさいと怒られたものだ。

「愛されてんだな」
「…はい!」

何かと忙しいお父様に代わりお祖母様や姉たちが私の面倒を見てくれた。今となってはその有難みが身に染みるが、城を出ていった時の私にはそれが分からなかった。
だからと言って城に戻りたいなんてことはない。ショート王子とこうして思い合える今が私の幸せなのだから。

姉たちとの思い出を語りながら歩いていると、待ち合わせ場所の人目につかない浜辺には既に姉たちがいて、私たちの姿を見つけると手を振ってくれた。

「お姉様方お待たせしました」
「遅いよもー」

王族の人魚は一般的な人魚と違いヒレの色が鮮やかだ。ピンクや黄色にオレンジ、水色に紫色と色んな色がありそれはそらは王宮内では目立っていた。

ショート王子には少し離れた所に立ってもらい、私は姉たちの輪の中に入ると四方八方から腕が伸びてきて抱き締められた。

「もう!心配したんだから!」
「なんで勝手に出ていくのよ!」
「人になる事まで選んで!!」
「いなくなってびっくりしたんだからね!」

次々に出てくる姉たちの言葉に涙が零れそうになった。こんなにも私は愛されているんだと強く実感出来るから。でも、姉たちの心配は5人いれば5人通りのものがあるようで、あーだこーだとずっと言われ続けてる。

「けど名前が幸せならそれが1番よ」
「お姉様…」
「さぁ、私達に紹介して頂戴。貴方の1番大切な人を」
「えぇ、勿論よ!」

私たちが一斉にショート王子の方を見た所為か、王子は一瞬肩を揺らし普段のような無表情に近い笑みを見せた。
私はその表情を好ましく思っているのだが、姉たちは無表情なのね…。と呟いている。

「ショート王子!紹介します。私の姉達です」
「殿下1度戦場で合いまみれておりますが改めて。私達の可愛い妹がお世話になっております」
「そう畏まらなくてもいい」
「王子、姉たちはそれぞれ特徴があるんですよ!例えば1番上の姉は指先が器用なんです。2番目の姉は泳ぐのが速く、3番目は髪が絹のようで4番目は鱗がとても綺麗な色をしていて5番目は容姿が整っているんです!」

そう紹介すると1番上の姉が私の肩を抱き、嬉しそうに私の得意な事をショート王子に紹介してくれた。

「殿下名前は海一の歌声の持ち主なんですよ」
「確か人魚の歌声は漁師を惑わす程の美声だと聞いた事があるが、そうか、名前は海一美しいのか」

是非聞いてみたいものだな。なんて私を見て微笑むショート王子があまりにも格好よく見え私は赤くなった顔を隠すように俯いた。その行動でバレているようなものだが顔を見られるよりずっといい。

「しかし殿下も無茶をなさる」
「そうです。私達の偉大なる父の前にほぼ丸腰で現れるなんて…」
「私たちは名前に殿下を殺すように促した身でしたが、見ていて心臓が冷えました」
「…名前が大事だからな」

良かったわね。と私の肩を抱く1番上の姉が嬉しそうに私の耳元で言う。チラリとショート王子を見るとなんてことのないような顔で私を見ていて心臓が高鳴る。もしあの時父が怒りを抑えず力を奮ったらきっとショート王子は今頃無事ではなかったと思う。威圧感というのかそんな迫力があった。それでもショート王子は私の父に自分の気持ちを隠すことなく話してくれた。

「ショート王子…ありがとうございます」
「何がだ?」
「いいえ、こちらの話です」

なんてことのない話をしていると3番目の姉が両手を叩き注目を集めた。何かを閃いたような晴れやかな顔に首を傾げると姉は1つの物語を語ってくれた。

「深い海の底に暮らす人魚姫がいました。姫はとても人間に憧れており海上にあがり1人の青年と出会いました」

その話はどこか身近な話のように感じ、ショート王子と顔を見合わせ姉の方を見ると物語を聞かせてくれる姉はいたずらっ子のような顔して笑った。

「青年に恋に落ちた姫は魔女に美しい歌声と引換に立つと痛む人間の足を手に入れました。ちゃんとした人間の足を手に入れるには、人間に愛してる。と言われる必要があったのです。青年はその姫を親切にも拾い、自身の城の中で生活させたのです。図らずとも2人は恋に落ちましたが海の王は姫がいなくなったこと悲しみ取り戻すため進軍し、青年である王子と姫は真実の愛を自身の身体の変化によって示しました。王はそれを良く思い、約束をしました。もし、このまま姫が幸せに暮らすのであれば海は凪大地に揺れは起こさぬと。それから王子が治める大地には豊かに発展していきましたとさ」

どう?なんて聞く姉の顔は少し自信に満ちていた。

「なん、で…」
「これから生まれてくる子供達に伝えようと思うの。人間と私たちは分かり合える存在だって」
「だから貴方達はこのまま幸せになりなさいよ!」
「物語が真実と違ったら説得味がないもの」

涙声で大丈夫と伝えてもお姉様たちには上手く伝わらなくて、流れる涙をぐっと堪えて深く呼吸をした。するとショート王子が私の肩を抱き寄せ力強く宣言した。

「ありがとうございます。俺達ならきっとこの国をさらに豊かにしていけます。どうか見守っててください」
「私もショート王子と同じ気持ちです」

姉たちは安心したように笑って海の中に帰っていった。

この国が豊かになったのかは物語が証明してくれる。

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