release Extra edition




 この話は私たちがまだ寮で暮らすようになる前の話。
 期末テストも終わり夏休みに入る直前私と焦凍くんは炎司さんに呼び出され、招待状を受け取った。

「何だ」
「I・エキスポのレセプレーションパーティ?」
「俺は日本を離れるわけにはいかん。だからお前達に代理として行ってもらう。話は以上だ」

 炎司さんのなんの説明にもなってない説明を聞いて黙って従う焦凍くんではない。隣に立つ焦凍くんは目の前で腕を組んで立っている炎司さんを睨みつけている。

「なんで俺がお前の代わりに行かなきゃなんねぇんだ!」
「まぁまぁ焦凍くん!私たちI・エキスポの招待はされてるんだからいいじゃない」
「…パーティには正装で行け」

 話は以上だと言わんばかりに炎司さんは私たちに背中を向けてどこかに行ってしまった。隣で未だに炎司さんを睨み続けている焦凍くんの前に立ち、意識を私の方に向けると焦凍くんは、ハッとしたように一瞬目を大きく開き視線を逸らした。

「悪ぃ」
「何が?」
「なんとなく」

 何に対する謝罪なのか分からないが謝られたので、気にしてないよと伝わるように笑うと焦凍くんはホッとしたように薄く笑ってくれた。

 それにしてもどうしようか。
 炎司さんの代理で招待されたからちゃんとしないといけないし。なんて悩んでいるうちに出発の日が来てしまった。正装は冬美さんが選んでくれたものを持って行くことになり、焦凍くんの正装は冬美さんと相談して決めさせてもらった。正直試着した焦凍くんを見た時、余りにも似合っていたのでこれは焦凍くんの為に作られたものではないか……?と馬鹿な事を考えてしまったものだ。

 空港まで炎司さんの事務所の方が送ってくれて私は初めての旅行に心が踊った。パスポートも炎司さんが用意してくれていたみたいで空港に入ってからも困ることなく貸切の機内の中に入ることが出来た。

「出発までバタバタしちゃって大変だったけど楽しみだね!」
「そうだな」

 窓側に座る私の隣の席に座る焦凍くんは頬杖をつきながら窓の外の景色ではなく機内の景色を見ている。なんで外の景色を見ないんだろうと、じっと焦凍くんを見ていると私の視線に気が付いた焦凍くんが私よりも大きいその手で私の視界を暗くさせた。

「あんまこっち見ないでくれ」
「え、なんで?」

 なんで視界を遮られているのかがわからなくて、首を傾げるが焦凍くんは私の視界を掌で奪ったまま何も言わない。もしかして高所恐怖症で実は飛行機嫌いなのかな……?とか閉所恐怖症で狭い場所が苦手なのかな……?と考えたが普段の生活を見ている限りそんな素振りを1度も見せたことがない。だからこの推測は間違っているのだろう。

「ごめんね、もう見ないよ」
「……それも困る」
「えー……」

 難しいなぁ。と苦笑いしていると唇に柔らかくて暖かい何かが一瞬だけ触れた。
 私は視界を遮っている焦凍くんの手を握って、ゆっくりと持ち上げると彼は何の抵抗もなく瞼の上から手を退かしてくれた。真っ暗だった視界に光が差し込み、緩く瞼を上げると思ったよりも焦凍くんの顔がすぐ近くにあった。驚き目を大きくさせると、焦凍くんは気まずそうに目を逸らしてまた私を見た。
 その熱っぽい視線は私の心臓の鼓動を早鐘の様に鳴らす。今度は自分から目を瞑ると確りと唇が触れ合う。

「……ん、」

 触れた時と同じようにゆっくりと唇が名残惜しそうに離れていく。お互いの額が触れ合うと、焦凍くんは深い溜息を吐いた。なんでいきなり溜息を吐いているのか、と首を傾げると、焦凍くんの絹糸のような髪の毛先が目尻に掠って擽ったい。するりと焦凍くんの頭が傾れ肩口に持たれかかる。どうしていいのかがわからなくて、取り敢えず紅白のツートーンカラーの頭を撫でると、焦凍くんは頭を撫でている私の手を掴んで、下から覗き込むように私を見上げた。
 垂れた前髪の隙間から見える色違いの目に視線が奪われた。

「貸し切りも考えもんだな」
「……うん?」

 焦凍くんはもう1度溜息を吐いて、背凭れに確りと背中をつけて座り直した。捕まれた手はそのまま繋がれていつの間にか恋人繋ぎになっている。肘掛の上で繋がっている手に意識が集中してしまって、飛行機の窓の外に広がる景色を見ている筈なのに、目に映っているだけで頭の中に入って来ない。初めて旅客機に乗ったのに勿体ない……。

「そう言えば、柚華さんにとって愛って何だ?」
「え?」
「柚華さんにとって愛って何だ?」

 哲学か何かを問われているのだろうか?
 例えばこれが恋する友達からの恋愛相談だったら頷けるが、焦凍くんからの質問だと考えるとそういった相談とは思えない。

「えっと……?」

 返答に困っていると焦凍くんが昨日あった授業のことをポツリ、ポツリと語り出した。オールマイト先生が銀行強盗役で、銀行に突入すると強盗は血を流して倒れておりその場には店員のセメントス先生と客役のプレゼント・マイク先生とミッドナイト先生がいたらしく、緑谷くんの推理で強盗を刺したのはミッドナイト先生だと分かった。動機はミッドナイト先生は強盗と恋人同士でこれ以上罪を重ねて欲しくないから、と犯行に及んだと。

「……えっと」
「銀行強盗は俺たちがミッドナイト先生に夢中になっている間に宝石を持って逃げたんだ」
「えっ……生きてたの?!」
「あぁ。なんであの強盗は恋人の話を聞いてなお犯罪を重ねたんだろうな」

 成程。それで愛って何だ?と言う突然の質問に納得がいった。確かに銀行強盗の行動には首を傾げるしかない。だから焦凍くんだってその質問を私にぶつけたのだろう。
 なんて回答すればいいのか……悩ましいが、私は恥を忍んで口を開いた。

「真心だと、思うな」
「真心?」
「愛って漢字の真ん中には心って文字があるじゃない?真心を持って相手に寄り添うのが愛なんじゃないかなぁ」

 恥ずかしくて焦凍くんと繋がっている手を強く握ると、彼も握り返してくれた。正面を見ていたが視線だけ横にずらすと焦凍くんは僅かにだが穏やかに笑っていた。

 その後何気ない会話をしつつ、I・アイランドの旅行冊子を見て何処に行くか焦凍くんと相談していると機内アナウンスが入った。後30分で着陸するらしく私たちは戦闘服(コスチューム)に着替えることにした。制服じゃなくて戦闘服で入国なんて珍しいがヒーローサポートアイテムを開発している島なのだから、当たり前と言えば当たり前なんだろう……か。

「さて、着いたら何をしようか」
「ん、飯食いてェ」
「そうだね!何処かでご飯にしようか」

 此処には最先端の研究を勉強しに来たのに、デートみたいだなんて浮かれてしまう。
 ちょっとくらいなら浮かれてもいいよね。なんて思いつつ焦凍くんを見ると彼は少し目を細めて笑ってくれた。
 
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