ふと気が付いた時はもう引き返せなくて、ただ前に進むしかないのだと俯き己の足に叱咤する。
 それが例え間違った道なのだとしても、進む先が己の意志を壊すものだとしても、暗闇に両足が取られたとしても、それでも歩みを止めることは決して許されない。

 ――あの日、一人の少女が犯した罪が、赤子に断罪されるその時まで。







 フクロウの鳴き声が森の中に木霊する茨の谷に聳える城が一つ。茨の谷と名乗るに相応しく城の外壁の一部が茨の蔓に覆われている。
 そこは北の塔と呼ばれ、たった一人の姫がそこに住んでいる。
 ホォーとフクロウが止まり木から飛び立つ時間。北の塔の窓から僅かな灯りが漏れていた。蝋燭の火が揺らめきに合わせて、窓から溢れる明かりも揺れている。

「……ぁ……くっ、……」
「もッ、そこっ……ぁあ、ぁ……だめ、ぁ!」

 肉棒がギリギリまで抜かれ容赦なく奥へ突き刺さる。擦れる肉壁とピストンの度にノックさせる子宮口が快楽を拾って背中が腰がびくりと震える。

「あッ、あッあッ! やぁん……だめっ、しるば、ひゃっあっ、また……ぁあんっ、イ、ちゃうっ!」
「ぐッ、姫……ん」
「ンんっ、ふ……ぁ、これ以上はッ、ぁあっ」

 女が――シャルロットが新しい悦を感じれば何度もシルバーの肉棒が敏感な部分を掠める。そうすればシャルロットの身体が快楽に震え、容赦なく与えられる快感から逃れたくてシーツを握り締めるも、内に篭もるばかりではしたなく甘い嬌声をあげ続けるばかりだ。
 抽挿に合わせてぐちゅぐちゅと淫液がシャルロットの耳を犯し波をうつシーツの色を変える。
 獣の交尾のように快楽を貪る影が一つ。シャルロットの甘い嬌声を零す淡い桃色で染まる唇に一瞬でもシルバーの唇を寄せることが出来れば、獣ではなく人の行為になるのだろうか。

「ひッ、め……!」
「シルバー……ァ、あっ」

 白魚のような肌をした小さな手がシルバーの頬に伸びてそっと触れる。武骨な手を上から重ね小さな掌に唇を寄せ頬擦りをして骨太の首に回せば、項にシャルロットの指先が触れ、生え際をきゅっと掴まれる。痛くはないが引っ張られるような感覚にシルバーはシャルロットが限界なのを察し、肉棒を更に奥へと鎮め込ませた。

 愛を囁ければどれだけ良かっただろうか。愛していると伝えられたらどれだけの幸せを感じることが出来るのだろうか。
 唇を噛んだのは、女だったのか男だったのか――。






 ――兄であるマレウスが茨の谷に齎した勝利を祝う凱旋式のパーティーでの出来事だった。
 領主としてまだ日に新しいマレウスは領民にも目覚しい活躍をした。城には入れない領民は茨の谷で一番栄えている広場で祭りを開催し、マレウスと共に戦った者は城の中でパーティを楽しんでいる晩。
 黒いベールで顔を隠し、その身を黒のドレスで彩る女が城の舞踏会場に現れたのは突然のことだった。

 茨の谷の音楽家は思わず指揮棒を落とし、明るい色で着飾っている女性が悲鳴をあげ、パートナーの男性に支えられている。

「白百合の君……」

 悲鳴と困惑の声が混じる中白百合の君と呼ばれた女――シャルロットは背筋を真っ直ぐと伸ばし、しっかりとした足取りでこの凱旋式の主催者であるマレウスに近付き、裾を摘んで持ち上げ頭を垂れた。

「茨の谷の誇り高き支配者であり妖精族の王。谷と威光に祝福があらんことを」
「シャルロット探したぞ。どこにいた」

 探していた?今マレウス様はあの白百合の君を探していたというのか?
 会場にいた大半の谷の者が思っただろう。
 シャルロットに触れられたものは間違いなくその生命に終わりを告げると言われている。
 寿命が長い種族であろうが、強靭な肉体を持っていようが関係ない。シャルロットが触れさえすれば、そこから肉体が腐り異臭を放ちながら死ぬ。
 そんな女をこの勝利の舞踏会に呼んでいたというのか……!

 領民たちの動揺を知ってか知らずか、シャルロットはマレウスの問に答えた。

「……北の塔に。最初は遠慮をしていたのてすが、お願いがありまして恥ずかしながら、こうして出て参りました」
「お願いだと? なんだ、言ってみろ」
「はい。私の騎士が欲しいのです」

 シャルロットの発言を受けて一部は安堵の息をつき、一部には緊張が走った。マレウスの傍に仕えている面々は顔面蒼白になり今にも倒れてしまいそうな程だ。

「……いいだろう。僕が選んでやろうか?」
「いいえ。私はもう決めております」

 どうか自分ではありませんように!
 ことの顛末を見守っている兵士が内心で五体投地し天に祈った。見掛けだけでも体勢を崩さなかったのは茨の谷の兵士としてのプライドだった。

 シャルロットがヒールの音を響かせて歩く。静まり返った舞踏会にかん高い音がよく聞こえ、ある者は自分のところに来ませんようにと祈り、ある者は洗礼されたある種芸術のようなシャルロットの動作に目を奪われ、ある者はあの白百合の君に呪われる不幸な者は誰だと目を輝かせた。

 黒いベールの向こうから覗くシャルロットの瞳に