ドーナツの輪の真ん中から考える

※長編主



それは私達がまだ寮生活をする前の話。
いつも通りに焦凍くんと登校してる最中に転んで怪我をした小さな男の子を助けてお礼に可愛い唇で私の頬にキスをしてくれたことから始まった。

「焦凍くん…そんな顔しなくても」
「俺の精神衛生上あんま良くねえ」

小さな男の子のお礼か気に食わなかったらしく、焦凍くんは道中ずっと顔を顰めていた。でもそれはヒーロー科の訓練が始まると元に戻り、いつも通りの焦凍くんになってくれた。ただ私がその時いつもと違う事になってしまったのだ。

ボムっと白い煙が女子更衣室に充満して、視界が晴れるといつもより少しばかし皆の身長が低くなっている事に気がついた。

「あれ?皆縮んだ?」
「いや、あんた…誰?」
「え?名前だよ?佐倉名前」

何でそんな事を聞くのかと首を傾げると百ちゃんがとても言いづらそうに頬を赤らめながら視線を逸らし信じられない事を言った。

「名前さん、男性になっています」
「は?」
「名前ちゃんって男子になると中性的な顔立ちになるのね」
「ただのイケメンになっとる」

男の子になってる?え?理解ができない。

そこで私は自分の身体に手を当てて漸く自分が男子になっている事がわかった。心做しか声も低くなっているし、胸もなければ無駄な贅肉もない、引き締まった身体をしている。

「百ちゃん取り敢えず、着るもの作ってくれるかな?制服と適当でいいから戦闘服も」
「分かりましたわ!今すぐお創りますね!」

異様に張り切ってくれる百ちゃんに感謝しつつ、梅雨ちゃんに先生に遅れると伝えておいてとお願いすると、ケロッと頷いてくれた。その仕草が可愛くて頭を撫でると梅雨ちゃんはかぁっと頬を赤く染めて恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。

「梅雨ちゃんだけずーるい!」
「私も撫でられたい!」

三奈ちゃんと透ちゃんが羨ましいと抗議してきたので、人差し指を立てて唇に当て、後でね。と言うとただのイケメンかよ!と叫びながら更衣室から出て行ってしまった。


百ちゃんに作ってもらった服を来て遅れなが実習場に着くと女の子達からの黄色い声援を浴び、男子は私の顔を見て愕然としていた。露骨に酷かったのは焦凍くんだ。幽霊を見たみたいな顔をして私のことを見ていた。

「佐倉、蛙吹達から事情は聞いた」
「あ、はい」
「原因は分かってるのか?」

原因というかいつもと違うのは今朝の男の子の事だけだからあのちゅーが原因なんだろう。その事を先生に伝えるとやる気のない顔でわかったと頷いてくれた。

「マジで佐倉が男になってる…」
「こいつ男になるとこんなにイケメンなのか」
「轟レベルじゃねえか?」

鏡で顔を見てないからわかんなかったが、今の私は焦凍くんレベルのイケメンなのか。それはすごい。
それに今は男子なんだから1度でもいいからやってみたかった事が出来るかもしれない。

「夢が叶うかも…」
「夢?佐倉さん夢って何かな?」

緑谷くんにそう聞かれ私はうきうきと心踊らせながら答えた。

「1度でもいいから女の子を口説いてみたかったんだよね」
「…は?」
「女の子を口説いてみたかったんだよね」
「何で2回も言ったの?!」

この体になってみて分かったが、女の子が頬を赤らめている姿や恥ずかしがっている姿はめちゃくちゃ可愛い。きゅんきゅんする。これはやるしかない。

「なんの話をしてるん?」
「んー?お茶子ちゃんみたいに頑張ってる女の子って可愛いよねって話だよ」
「はわわわ…」

お茶子ちゃんの髪を掬い、耳にかけながら答えると、お茶子ちゃんは顔を真っ赤にしてぷしゅーと音をたてながら下を向いてしまった。その様子を見た緑谷くんは口に手を当てガタガタと震えていた。



実習後の昼休み。私は女の子に囲まれながら食事をとっていた。偶に女の子達だけでご飯を取ることはあるけれど今は私は男の子だ。これがハーレムって奴なんだろう。

「やべーよ、佐倉の奴クラスの女子を手篭めにしやがった」
「なんだよあの羨ましい光景。そこ代わってくれよ!」
「もうなんと言うか圧倒的イケメン力…」

峰田くんのあの心底羨ましそうなあの怖い顔は見なかったことにして食事を皆で食べて教室に戻ると、扉の前で上鳴くんと峰田くんが仁王立ちして私を待ち構えていた。正直今の私の身長は百ちゃんよりも高いから2人共少し視線が下になる。これはこれで新鮮だ。

「どうかした?」
「佐倉!俺たちとお前どっちがイケメンか勝負しようぜ」
「何言ってんの?そんなの佐倉くん一択でしょ」
「佐倉、くん?!」

そうなのだ。折角男子になったから今まで読んでいた名前だと女の子みたいなので、相談したら名字にくん付けがいいんじゃないかという事で落ち着いたのだ。

「てかやる前から勝負分かりきってんだから、意味ないんじゃないの?」
「はっ、甘いな!俺達は最終兵器を手に入れたんだ!」
「最終兵器?」

最終兵器?なんだそれは?こんな下らないことに付き合うんだからお人好しの切島くんか、ノリのいい瀬呂くん位だ。どちらが最終兵器何だろうか。

「男子代表イケメン…その名も轟だ!!」
「え?!焦凍くん?」

2人が教室の扉を勢いよく開けるとそこには無表情て腕を組んで立っている轟くんがいた。なんで彼がこんな下らない事に巻き込まれているのだろうか。

「名前さん、いや佐倉。俺が勝ったら元のお前に戻ってくれ」
「…良いけど、こっちが勝ったら?」
「考えてねえ。俺はこの勝負に勝つつもりだからな」

うわっ、格好良い。普段の私だったら絶対にときめいていたに違いない。だけど今の私は軽く中身まで男子なのだ。売られた喧嘩は買う以外にない。

それにしても…。

「上鳴くん、端から自分じゃ勝負にならないって思ってたんやね」
「峰田くんを出したら満場一致でアウトだったけど、轟くんだったら勝負がどうなるかはわかんないね」
「お前ら言葉には気をつけろォ!!」

勝負内容というのは何なのだろうか。それを聞くより先にポンと軽い音を発して辺りが白くなった。これは更衣室で経験した奴だ。

「まさか、もう戻っちゃうの?!」

透ちゃんの叫び声が聞こえ、煙に包まれたまま身体をぺたぺたと触ると胸の膨らみも贅肉も確認できた。
これは戻ったのではないか?

「佐倉…?」
「なんか勝負の前に戻ったみたい。ごめんね」
「戻ったならいいんだ。名前さん、おかえり」
「はは、ただいま」

煙が晴れ、焦凍くんに指し伸ばされた手を掴み立ち上がると、目の前の焦凍くんはホッとしていて、男子2人は歓喜の声を上げ、女子の皆は落ち込んでいた。

「佐倉が戻ったァ!!」
「これで女子達が俺達を見てくれるかも知れない!」
「名前ちゃんが戻ったのは嬉しいけど、佐倉くんに会えないのはショックだよ!」
「ケロっ、佐倉くん格好よかったもの」

その光景を苦笑いしながら見ていると、安心したように笑った緑谷くんが話しかけてきた。

「轟くんよかったね」
「あぁ」
「男子の佐倉さん見て凄く落ち込んでた…と言うか死んだような顔してたよね」
「え?そうなの?」

隣に立つ焦凍くんの顔を見上げると、顔ごと逸らされたが、白い髪から覗く耳が真っ赤に染まっている。

「戻って嬉しい?」
「ん、」
「そっか」

こうして私は無事に元の姿を手に入れて、元の生活に戻ったが偶に女子達からまた男子の姿になって欲しいと言われるようになってしまった。

因みにイケメン勝負の内容はただの腕相撲でそれを知った女子達から上鳴くんと峰田くんは猛烈な批判を喰らっていた。

「それの何がイケメン勝負なんですの?」
「もう少しなんかあるでしょ、だからイケメンって言われないんじゃない?」
「本当に2人とも残念だよねー」