ワンルームの楽園
※ボツ個性主
私には大切な幼馴染がいる。性格はサバサバしてて姉御肌的な感じなのに、女の子らしさも持っていて個性まで強いときたもんだ。最強なのかな?って割と真面目に考えちゃう。
私はそんな彼女が大好きで、彼女も私の事を妹みたいに可愛がってくれている。同じ年なのにね。
「きょーかちゃん、お菓子ちょーだい」
「あんたさっきまでなんか食べてなかった?」
「んー。でもなんか食べたくなっちゃったー」
昼休みにA組にいる幼馴染に会いに普通科から足を運んだ。少し離れているのに態々ここまで来るのには2つの目的がある。1つ目は響香ちゃんに会うこと、もう1つは。
あ、いた。轟くん…。
「名前あーん」
「あーん」
私は轟くんに向けていた視線を、お菓子を持っている響香ちゃんに戻して、お菓子を銜えた。咀嚼して飲み込むと響香ちゃんは次のお菓子を手に取り口を開けるように促した。
「はい、あーん」
「あー、ん?」
「どうし…げ、轟」
口を開けた時に響香ちゃんの後ろに轟くんが立っていたことに気が付き首を傾げると、それを見た響香ちゃんか後ろを振り向き嫌そうな声を出した。
「どーしたの?」
「俺もしてみてえ」
「は?食べたいじゃなくて?」
私と響香ちゃんがそろって首を傾げていると、轟くんがお菓子の袋から中身を取り出して私の前に差し出した。口を開けるように促しながら。
「苗字口を開けろ」
「ふぁ?!え、いいの?」
「いやなのか?」
いやいやいや、一目惚れですけど私あなたの事好きなんですよ。好意を抱いてるんですよ。その人からあーん、なんてされたらご褒美以外の何ものでもないんだけど。
首を横に振り、震える口を開けてお菓子を銜える。さっきまでと同じお菓子なのに味が違うように感じる。まさに轟くんマジック。
「美味いか?」
「うん。おいしーよ」
そうか、なんて言って口角を上げる轟くんの顔はイケメン過ぎて頬の熱が急上昇した。
なにこれ幸せすぎる。
「ちょっと轟、ウチの娘になにすんのさ」
「…餌付けか?」
「名前はウチのなんだからやめてよ」
響香ちゃんは私を軽く抱き寄せ轟くんに敵意剥き出しで睨みつけるが、轟くんは何とも思ってようで天然発言をかましていた。
「そしたら明日からは菓子は自分のを渡せばいいんだな」
「そういう訳じゃなくてさ…」
次の日から驚く事に轟くんは本当にお菓子を持ってきて私に食べさせるようになった。それは大体響香ちゃんがいない時だったり、廊下ですれ違う時だったりして、2人密会みたいに思えた。
そして放課後、響香ちゃんと帰る為に教室にい 行くと響香ちゃんが居らず、轟くんがいたので構ってもらうことにした。
「苗字」
「あーん」
慣れとは恐ろしいもので最初は戸惑っていたのに今では抵抗なくお菓子を頬に入れている。あの恥ずかしさは何処にいったのやらである。
「これ美味しーねー」
「そうなのか?」
「食べてないの?」
「お前が幸せそうに食ってんの見るのがいいから、俺は食ってねえ」
それは如何なものかと轟くんの指に摘まれているお菓子を取り、彼の口元に近づけた。最初はきょとんとしていたがずいずいと唇に軽く推し当てれば意味が通じたのか素直に口を開けてくれた。
「はい、あーん」
ぱくりと銜えて咀嚼する姿は大変可愛らしく、普段とのギャップもあり心臓が痛いほど音を立てた。
美味いな、これ。なんて言ってる轟くんが可愛すぎてつらい。
「名前こっちにおいで。私が美味しいお菓子あげるよ」
「わーい!お菓子ー!」
何処からか戻って来た響香ちゃんのお菓子という単語に釣られ行くと響香ちゃんは少しだけ眉間にしわを作り、私の後ろを見ていた。
「轟は呼んでないんだけど?」
成程。轟くんがいたのか。
「皆で食べたらもっと美味しーね」
「そうだな」
「それには同意見」
お行儀が悪いが座る所もないので立ちながらお菓子をつまんでいると大変なことに気がついてしまい、お菓子を床に落としてしまった。
「大丈夫?」
「なんかあったのか?」
心配そうに顔を覗き込んでくる2人に申し訳ない気持ちが溢れだし、私は俯きながらこれから先お菓子を与えないでとお願いした。
「私2人みたいに日頃から身体動かしてるわけじゃないから…太る…肥える…メタボリック」
これは死活問題だ。このまま太って轟くんに嫌われでもしたら立ち直れない。もし響香ちゃんに捨てられたら生きてけない。そうだ、ダイエットしよう。身体を動かそう…出来れば楽して痩せたいが。
家に帰って調べなきゃと意気込んでいると、身体に浮遊感を感じて視界がぶれた。不安定になった軸に小さく悲鳴を漏らすと、すぐ近くから声が聞こえた。最近耳に馴染むようになった好きな人の声だ。
「悪い、けどお前言うほど重くねえぞ。寧ろちゃんと食ってんのか?って位軽い」
「轟くん…」
「あんた見た目通り細いんだから多少食べ過ぎても大丈夫でしょうが」
「きょーかちゃん…」
轟くんが私を横抱きに抱き上げ、2人揃って軽いと言ってくれた。それが嬉しくて轟くんの首に腕を巻きつけ、本当に?と聞くと轟くんが頷いた。
「このまま歩ける位には」
「それは轟くんが鍛えてても無理だよ」
「試してみるか?」
少し揺れるかも知れねえがと付足した轟くんの提案がとても魅力的で私は目を輝かせて頷いた。響香ちゃんは呆れたように溜息を吐いて、気を付けてよ。と言って鞄を持って教室を出た。
「それじゃあ、出発進行ー!」
「どこに行くんだ?」
目的地を決めてなかった。
何処がいいのだろうかと頭を働かせていると丁度いい場所を思い出した。ここからそんなに遠くはないしそこに行く事を提案すると、頷いてくれて進み出す。
「わわっ」
「やっぱり多少は揺れんな」
「首にしがみつくから大丈夫だよ」
ぎゅっと轟くんの首に巻き付けた腕に力を入れて落ちないようにしたら、微かに笑う声が聞こえた。
それは十中八九轟くんのもので恥ずかしくなり力を緩めると、轟くんの腕の力が抜けて慌てて自分の腕に力を入れた。
「怖い…」
「落とさねえから安心しろ」
その言葉を聞きさっきの行動はわざとだったのかと頬を膨らませる。どう仕返しをしようかと視線を色んなところにやると目的地である教室に辿り着いた。
マンモス校の雄英の校舎内でありながら人気のない数少ないスポットだ。鍵は私の個性で何度でもなる。私の個性は“解除”。なんでも解除できてしまうので鍵がかかっている扉があれば鍵がなくても解除できる。但し施錠は出来ない微妙な個性だ。
「よし、開いたよー」
「苗字の個性は凄いな」
「ヒーロー向きではないけどね」
扉を開けて中に入り教卓の上に降ろしてもらった。足の裏を地面につけるのは何だか久しぶりに感じてそれがとても可笑しかった。たった数分の間の出来事だったのに。
「轟くんありがとう。凄いねー、鍛えてるからかな?」
「それもあるだろうけど苗字が軽いんだろ」
そうだといいな。なんて教卓に座ったまま話していると不意に轟くんが私の顔を見上げるように上を向いた。 普段は私が見上げているから上から見る轟くんの顔は何だか新鮮で心踊った。
「なんか轟くん普段は格好良いのに、今は可愛く見える」
「…格好いいのか?」
「自覚ないの?モテるでしょ?」
「苗字以外興味ねえからわかんねえ」
「へ?」
今のなに?え?…え?
勘違いしそうになる台詞に顔が赤くなる。体全体が火照って熱い。何食わぬ顔で轟くんは私の顔を覗いてくるが今は構ってられない。
これって、勘違いしてもいいの?いいよね?告白するなら今しかないよね?!
「好きだ」
「好きです!」
同時に伝えた愛の告白は2人に衝撃を与えた。だけどそれも束の間でフッと息を吐き出し笑いが込みあがってくる。
「轟くん、だーい好き」
「ん、俺も好きだ」
オレンジ色に染まる教室に2人の影が伸びる。
轟くんは私の頭に手を回してゆっくりと引き寄せる。私はそれに抵抗せずゆっくりと瞳を閉じる。
長く伸びる影は重なった。
大好きだよ、轟くん!