嫉妬したヒーロー轟焦凍と事務員
私には密かに想いを寄せているヒーローがいる。彼は実力も人気もありこの事務所内でもそれは同じで、彼の名前を聞かない日はないほどだった。
ヒーロー名はショート。彼の父が経営しているヒーロー事務所に私達は同期入社し彼はヒーローとして世に名を馳せ、私はしがない事務員として事務所で働いている。
そんな私達にも一応話す機会というのがあり、それは彼が捕獲した敵(ヴィラン)の数や場所など事細かな事を国に提出しないといけないので、その資料作成時の僅かな時間だ。事務所の先輩や後輩が羨ましがり何度も代わってとお願いされるが、ショートさんの方からお断りしているらしく、この役目を他の誰かと代わった事はない。
「名字この件なんだが」
「今日の事件ですね」
「…いつも言っているが同い年だろ、敬語じゃなくていい」
「でも私ただの事務員ですし」
ショートさんは同い年なのだから敬語はいらない。そう言っているだけなのにどこかで期待してしまっている自分がいる。彼と敬語を抜きで話すにはこの淡い期待ごとどこかに捨てて、私なんかに望みはないんだと言い聞かせてからじゃないと到底喋れそうにもない。
「俺はお前と普通に話がしたい」
「…それでも立場が違いますし、それにっ」
「ショートさん!この後一緒にご飯食べませんか?美味しいイタリアンがこの辺にあって!」
私の声を遮るように、ショートさんに事務所内でも可愛いと評判の受付嬢が話しかける。ショートさんが一瞬私の顔を見るのでにっこりと笑い彼に仕事は大丈夫だと伝えると、受付嬢がショートさんの腕を掴んで食事に行くように促す。
「悪いが仕事があるんだ」
「ショートさん、本当に大丈夫ですから。頂いた資料で作れますし」
「この子もそう言っているんだし行きましょう?」
花が咲いたように微笑む彼女に押される形でショートさんが席を立ち、焦った顔して私の方を見る。それを見なかったことにして送り出す。ショートさんは少しだけ悲しそうに顔を歪めた。
女の人相手に強く断れないショートさんの背中を見送って、深い溜息を吐いた。彼と私だけの僅かな時間がなくなったことは辛いが、でも既に定時を超えて今や残業時間に突入してる。日々疲れているのに私になんかに付き合って、残業する事もない。それにあんなに可愛い人とご飯を食べれるんだ。その方がいいだろう。
「さて、頑張りますか」
ショートさんが置いていった資料はいつも事細かに書かれていて、寧ろそれを提出した方がいいんではないかと思う。今回のも丁寧だと感心しながら提出用の資料を作成していると、1部抜けている事に気が付き、どこかに落ちてないかとデスクの上や足元、剰え引き出しの中まで見たのに何処にも落ちてない。
「何処だろう…ショートさんのデスクに置いてあるかな?」
いつの間にか他に残っていた人達も帰宅したようで、今はフロアに私しかいない。一抹の寂しさと誰もいないという不安に駆られながらもショートさんのデスクがある部屋まで移動する。ここの事務所は各部署で部屋が分かれており、私達事務員の部屋の前がヒーロー達が使用してる部屋になっている。
薄暗い廊下を通過して目の前の扉を開けると明かりが付いていて驚くと、パソコンの隙間から見知ったヒーローが顔を出し私の名前を呼んだ。
「あれ?名前ちゃん残業なのかい?」
「はい、えっとウォールさんは当直ですか」
「そうなんだ!名前ちゃんはどうしたの?」
「今日の事件の詳細を知りたくて、ショートさんのデスクを知りたくて」
ウォールさんは水を使う個性でヒーロー名の由来を聞いたら、水(ウォーター)を使う個性で自分の名前とかけて、ウォールになったと言っていた。そのウォールさんは世話好きでよく私を気にかけてくれるとてもいい人だ。
ウォールさんに案内されてショートさんのデスクを見ると、綺麗に整理整頓されていて、紙一枚も置かれていなかった。どうしようかと途方に暮れそうになっているとウォールさんが見つかったかい?と声をかけてくれた。
「それがなくて…」
「今日の事件の事なら俺も現場にいたから教えてあげられるかも」
「本当ですか?」
ウォールさんが現場にいたという言葉に甘えて、ショートさんの資料を探すのを諦めて、提出用の資料を2人で作成していく。
「それにしても珍しいな。名前ちゃんが1人で残ってるなんて」
「そう…言われてみれば、そうかもしれないですね」
普段はショートさんが最後まで付き合ってくれて、こんな時間に1人になる事は事務所に入った時以来だ。
「ショートくんは用事なのかい?」
「受付の綺麗なお姉さんとお食事に出かけました」
「あいつが?!……信じられないな」
そうでしょうか?その言葉は大きな音をたてて開いたドアに遮られた。その音に驚き出入り口を見ると肩で息をするショートさんが、鋭い眼光でウォールさんを睨みつけている。吐き出される息が短く、どこからかここまで走って来たんだろう。でもどうしてかが分からない。
私は席を立ちあがってショートさんに近づこうと動き出すと、ショートさんは肩で息をしたまま私の方に歩いてくる。依然として表情は見たこともない位に怖くて思わず足が竦んだ。
「し、ショートさん…?」
「名前行くぞ」
「え、待ってください!書類がまだ…!」
「いいから行くぞ!!」
ショートさんは手に持っていた紙を私のデスクに叩きつけ、その手で私の手首を掴む。手加減なく握られる手首が痛かったが文句を言える雰囲気じゃない。ウォールさんに何のお礼を言う暇もなく引きずられてるように事務室を出た。
大股で歩くショートさんの後ろを必死について行く。全く後ろを振り返らないショートさんは事務所内に設置されている宿泊室の扉を開けて、私を突き飛ばすように室内に入れて彼も中に入り扉が閉まる。カチャンと鍵がかかる音が聞こえた。
閉じ込められた…?と、言うかショートさんの様子がいつもと違って怖い。
雰囲気が鋭くて身体が震える。
「なんで、なんであいつといるんだよ」
「ショートさん?」
彼の声は驚くほどに小さくて、なんて言われているのかが分からない程だった。
でも、彼の握り拳が小刻みに震えていて恐怖心を持ちつつもショートさんに近づきその手に触れる。すると彼は私の手を掴み引き寄せる。一瞬にして彼の腕の中に納まっていてふわりと汗交じりのショートさんの匂いに大きく心臓が音を立てる。彼に触れている部分からショートさんの熱が伝わり、身体に熱が灯る。背中に回されている手が私の髪を掬い、晒された首に温かくて柔らかいのもが触れ、ピリッとした痛みがした。
「…ン」
「名前」
耳元で私の名前が擦れた声で呼ばれる。耳にかかる息が擽ったくて身を捩るとショートさんは動くなと言っているように腰に回している腕に力を入れる。痛いほどに抱き締めるショートさんが私の首に齧りつき、甘噛みとは決して言えない痛みを私に与える。
「ショー、ト…さん」
ショートさんの衣服をきつく握り、痛みに耐えていると彼の手が私の服の裾から侵入して素肌をするりと撫でる。触れられた場所が熱を持つ。腰やお腹、背中と徐々にショートさんの手が上がって行き下着の上から胸を触られる。
「んん……しょ、とさん、やぁ!」
好きな人が私に触っていると言うだけで恥ずかしいのに、そんなところを触られるなんて羞恥心で死んでしまいそうだ。離して欲しくて衣服を握っている手で彼を押すがビクともしない。それどころか彼は首だけではなく鎖骨にも歯を立てる。
こんなショートさんを知らない…。見たこともない。
「俺じゃだめなのか?だから俺に笑ってくれねえのか?」
「なん、の…話ですか?」
「そんなにあいつが、ウォールさんが良いのかよ」
全く話が読めないまま下着のホックが外され、着ていた衣服が脱がされ上半身の素肌が晒される。咄嗟に両腕で胸を隠そうとするもショートさんの手が私の腕を掴んで壁に押し付け両手を一纏めにし片手で押える。ショートさんの大きな手は簡単に私の両手を動けなくさせる。身動きが取れない私の胸の谷間にショートさんの顔が近づき赤い花を咲かす。彼の空いている手が私の胸を荒く揉みしだく。
「…ぁ、」
もう何分もの間何度も何度も、ショートさんは私の至る所に噛みついては歯形や鬱血痕を残す。時折私の胸の頂を口に含んでぬるりとした舌で舐めたり転がしたりして私の反応を見る。今まで感じたことのない刺激に吐息が漏れる。耳に入る声が自分でも知らない程に甘いもので聞きたくなくてきつく口を結ぶ。
「あいつにもそんな声を聞かせんのか?」
「っ、…聞かせな…い」
こんな恥ずかしい姿誰にも見せたことがない。こんなに乱れた姿を誰にも見せたことがない。
「ゃぁ…恥ずかし、ぃ」
「俺だけか?」
こんなにも恥ずかしいのに心臓が落ち着かなく鳴るのも、切なそうに歪められた表情に胸が痛むのも全部ショートさんだからだ。だから何度も首を縦に振ると彼は拘束している手を離し、私の身体を抱き上げ宿泊室に備えつけているベッドに降ろしてそっと押し倒す。火照る素肌にシーツが冷たく感じる。ショートさんの大きな手が私の指に絡まるように繋がり彼がポツリと声を漏らす。
「お前は俺の事を熱っぽい視線で見てくるくせに俺の前じゃ滅多に笑わねえ。なのにウォールさんにはよく笑う」
それが嫌で堪らなかった。と、ショートさんから吐露される気持ちに衝撃を隠せない。彼は私の事を何とも思ってないと思っていたし、私からの想いにも気が付いていないと思っていた。
「ショートさん、私貴方が好きなんです」
「…なんで俺には笑わねえんだ」
「だって声をかけられただけでも気を引き締めてないと嬉しくて緩んじゃうんです」
大好きな人だから。
そう言って微笑むと、ショートさんは私の耳元で囁いた。
「好きだ」
「私も好きです」
繋がれた手を強く握るとショートさんはくつくつと笑う。珍しく声を出して笑っている、と思って見ていると彼は急に眉間に皺を寄せて私に謝った。
「悪い、痛かったな」
「まあ、でもこの続きは優しくしてくださいね?私経験ないですし」
「あぁ、当たり前だ」
そう言ってショートさんの顔が近づき、私は目を閉じる。直後に自分の唇とショートさんのそれが重なり胸の奥が灯を燈す。想像もしていない幸福感に何もかもが満たされていくようで、彼も私と同じ想いをしていたらいいのにと思った。
後日ショートさんに資料について話を聞くと、1部抜けていたのは態とショートさんがあの場でスリ、それを理由に受付のお姉さんとの食事を断ったがしつこく粘られ、走って事務所まで戻ったがウォールさんといた為に嫉妬したらしい。この件でウォールさんには散々揶揄されてしまった。