爆豪先輩からメッセージが届いたのは3日後のことだった。最後に会った時顔を真っ赤にしてたが風邪でもひいたんだろうか。
“体調は大丈夫ですか?あの時顔真っ赤でしたけど”
“忘れろ。それよりも明日は雄英の身分証持ってこいよ”
忘れろって言われても…。文を見る感じ大丈夫そうだからいっか。なんて思いつつ次の待ち合わせの日のことを考えた。
爆豪先輩は私に遅れんなよ。と釘は刺してこなかった。
1年生のうちに取れる単位は取っておこうと比較的に授業に出ている私だが、今日くらいは爆豪先輩を優先してもいいだろう。
と、言ってもサボるのは最後の一コマだけなんだが。
待ち合わせ場所は前回の本が読めるカフェではなく、何故かお互いの出身校である雄英高校だった。
なんでこんな所に?なんて首を傾げながら目的地まで歩くと門の前に既に爆豪先輩は立っていて、私を見つけてニヤリと笑った。
「遅ぇぞ!」
「待ち合わせ時間はまだ先ですよ」
「俺より遅くに来たんだから遅刻だろ」
なんだその暴君は。なんて言ったところで爆豪先輩は鼻で笑うだけだから何も言わないでおこう。それよりもなんで雄英高校に待ち合わせだったのだろうか。そもそも校舎に入れない筈だから来たって意味ないだろうに。
「…懐かしいような、懐かしくないような」
「お前はそうだろうな」
「ふふっ、卒業したのは去年でしたからね」
3年間制服を着て過ごした学校は何も変わらずにそこに佇んでいる。雄英の普通科に入って両親の下を離れて寮で暮らしたあの3年間は何にも変えられない大切なものを教えてもらった気がする。きっと何かと話題に欠けなかった爆豪先輩は私なんかよりも濃い3年間を過ごしたに違いない。
そう言えば私爆豪先輩の名前は知ってたけど顔は知らなかったんだよなぁ。
基本的に雄英の体育祭は教室で友達と教室で駄弁ってたし、画像とかも持ってなかったし直接話しかける勇気もなかったから手紙を書いたわけだし。
とても怖いと噂の先輩があの青い表紙の本を読んだことがあるという事を知って話をしたくなったんだっけ。
この高校で過ごした時間の事を考えていると爆豪先輩は私の手を繋ぎ、空いているもう片方の手でどこかに電話をかけた。手が触れた瞬間心臓が大きく跳ねた。頬に熱が集まって熱い。
手を握り返してもいいのかな。と考えているうちに爆豪先輩は私の手を離して電話の向こうの相手に向かってお礼を言った。
「苗字お前学生時代の身分証明書持って来たろうな」
「あ、…はい」
「どうかしたんか?」
どうかしたのはそっちなのに爆豪先輩は何とも思ってないのか普段と変わらない表情で私の事を見る。私の顔はまだ熱を引いてくれないのが恥ずかしい。
「何でもありません!」
「顔赤いぞ。風邪でも引いたんか?」
「引いてません!」
「ほー」
この間の応酬のようなやり取りをして私達は校門を潜った。どうして校内に入れたかわからないが、爆豪先輩が不正な事はしないだろうから何も心配しなくともいいかと変に納得して先輩の後をついて行く。私の手はあの大きな手に包まれてはいない。
学生の頃は履いていた上履きも今はないから来賓ようのスリッパに履き替えて私達は校舎の中を歩く。見るもの全てが見慣れたものであの時の気持ちが蘇ってきそうだ。
前を歩く爆豪先輩は何も喋らないで目的地に向かってただ歩いている。どこに向かっているのかわかったのは、とある教室の前に着いた時だった。
「図書室…」
「入るぞ」
先輩は扉を開けて中に入って行くから私も後に続いて中に入った。日当たりの問題でこの教室は場所によって取り入れられる採光の量が違う。カウンターの方が明るくて奥まった場所は薄暗くなっている。そんな奥にあるのは私が1年生の時に青い表紙の本にしまっておいた恋心だ。今でも開けないでいるその本を爆豪先輩は手に取り私に差し出した。私はそれを受け取り指の腹で表紙をなぞる。
「俺その本読んだ事があんだよ」
「知ってますよ。それで貴方に手紙を送ろうと思ったんですもん」
「…そうだったな。ある日その本を開いたら変な手紙が挟まっててよ、中開いたら告白みてぇな文章なのに中身は話してみてぇって願望だけで正直笑っちまったぜ。こんな所に挟めても意味ねぇだろ、バカみてぇな女だなって」
…待ってその話、私知ってる。だってその話のバカみたいな女は私の事だ。
なんで?どうして?頭の中には疑問符しか浮かばない。まさか、そんな奇跡みたいなことある訳がない。だってそうでしょう?私は爆豪先輩に手紙を送ろうとして、でも間違ってしまってそこから名前も知らない彼を手紙のやり取りをして…そして…。
爆豪先輩は私に渡した本を持って中を表紙を開く。そして酷く優しい目で愛おしいもの見る目つきで何かを見た。そこに挟めたのは私の恋心でそれ以外には何もない筈だ。震える声で爆豪先輩に話しかけた。
「そのバカ女と何回か手紙のやり取りをしたけど最後の最後、卒業式まで会うことはなく終わった」
「あ、の時の、人ってもしかして爆豪先輩だったんですか…?」
爆豪先輩はいつものように意地悪そうな笑った。
「遅ぇンだよ。バカ女」
そう言われた瞬間私の目からは熱い涙が零れた。止めようとしても自分じゃ止めれそうもなくて俯いて目を擦ろうとすると爆豪先輩が私の手を掴んでそれを止めさせた。そんな事もお構いなしに嗚咽交じりに爆豪先輩に伝えたい気持ちを言葉にした。
「せっぱ、い…ばくご、せん、ぱい、私ずっと貴方のことっ、好きでした」
「今は違うんか?」
耳元で聞こえた爆豪先輩の声に首を横に振って泣きじゃくんで酷い顔をあげた。
「今も!すき、好きで、す!」
「なぁ、お前この本卒業式以降開いたか?」
先輩は掴んでいた私の手を離して頬を伝う涙を拭いて、もう片方の手で持っていた青い表紙の本を私にもう1度差し出した。爆豪先輩に聞かれた質問にまた首を緩く横に振った。すると爆豪先輩は私にこの本を開くように促した。
開いたところで出てくるのは私の爆豪先輩への恋心だけのはずなのに。と思いながらゆっくりと開く普段だったら何も感じないこの表紙の重さが今はとても重たく感じる。
“俺もだわ。バカ女”
「これ…」
「その気持ちは今も変わってねぇ。正確に言うと惚れた女がまたお前だっただけだがな」
あの時の告白の返事、先輩書いてくれてたんだ…。
私の恋心を私はこの本に挟めたと思っていたけど、爆豪先輩の気持ちも挟めていたなんて気がつかなかった。
先輩はあの時どんな気持ちでこの雄英から旅立って行ったんだろうか。
あの時ほんの少しの勇気を出してこの本を開いておけばよかった。
また爆豪先輩を好きになれてよかった。
色んな気持ちが込み上げてきて言葉にならないし涙はまだ流れ続ける。何て言葉にしたらいいの?
「先輩、好き…ずっと好き」
「わーっとるわ。いい加減泣きやめよ」
「だって、もう色々訳わかんなくてもうどんな理由で泣いてるか私にもわからないんですもん」
そう言うや否や、爆豪先輩は私の腕を引き寄せて逞しく鍛えられたその腕を私の背中に回して抱きしめた。ふわりと香る甘い匂いはどこかで嗅いだ匂いと似ている気がする。急な事に流れていた涙も引っ込み耳に爆豪先輩の心音が響く。
「泣きやみそうか?」
「…驚いて引っ込みました」
「単純な奴」
「笑わないでください」
爆豪先輩は私の顎を掬って上に向かせ唇を重ねた。ふわりと触れた唇はすぐに離れていきまた重なった。ゆっくりとお互いの唇を味わうように重なるソレに心臓が爆発しそうになる。
「名前」
「爆豪先輩」
家に帰ったらあの青い表紙の本を開いて読んでみよう。もう大丈夫。
でもその前に貴方と私の2人のこれからについて語ろうよ。