語ろうか。


苗字を連れて映画館に行けば苗字は見たかった映画がある!と目を輝かせた。
単純なヤツ。

苗字が選んだ映画はSFもので巨大甲殻類生物が海から地球を侵略してくる。という単純かつ明快な設定なくせに、妙に現実味を帯びていて、もし本当にこうなったら…という想像がしやすい、そんな映画だった。

息をつく暇がない展開に隣に座っている苗字がずっと自分の手を握りしめ、流れる映像に一喜一憂していた。

正直映画よりも苗字見ている方が面白ぇが、この後嬉々として苗字はどこが良かった、だとかあのシーンにはどう思った、とかって感想を俺にぶつけまた求めるんだろう。
雄英ん時にもそんな女とやり取りしたな。あれはマイナーな本故に自分以外の意見を聞きたかったって気持ちが強かったんだろう。
確かアレはバカ女が手紙をあの青い表紙の本に挟んじまったのを俺が見つけた所からやり取りが始まったんだっけか。

あぁ、俺はなんてメンドくせェ女に捕まるんだ。

が、それが嫌だと思わねぇあたり俺はコイツらに絆されている。
死んでも口にださねぇがな。

映画が終わるとともに館内が明るくなり、隣に座っている苗字は生き生きとした目で俺を見つめていた。最後の方は話に集中して全く苗字の方を見ていなかったが、まさかそんな目で俺を見てるとは思わなかったから思わず視線を逸らした。

「先輩!私、私我慢できません!」
「黙ってろ!…どっか行くか?」
「はい!」

溜息を吐きながら提案すると苗字は大きく首を縦に振って立ち上がった。
お前はどんだけ待てねぇんだよ。犬かよ。
と半ば貶し気味に言ったがそれよりも今は1秒でも早く感想を言い合いたいのか歩きながらあの映画について語っている。

「あの子供たちはきっと恐怖から逃げたかっんですよね。でも目の前にいる大人は信用出来ないからあぁいう態度をしたんでしょうね」
「あのガキどもにはムカついたな」
「私だったらおろおろしちゃって余計に不安を煽らせちゃうかも…爆豪先輩だったらあの場でどんな行動をしましたか?」
「1番生意気なあのガキを吊るす」
「……虐待、ですか?」
「立派な躾だろ」

適当に入った店でも苗字は映画の事を語るだけ語って、最後に懐かしそうな表情で俺を見た。

アイスティー挿さっているストローでぐるぐると中をかき混ぜながら、酷く懐かしそうな顔つきで穏やかに笑った。

「私が高1の時に爆豪さんにお手紙を書いたことがあるんです。色々あって出さなかったんですけど」
「…そーかよ」

あの時俺が此奴から手紙を貰っていたらどうだっただろうか。今の様な関係になっていただろうか。答えは1つだ。
ならない。
これしかないだろうな。ヒーローとして活躍してるからあの電車の中で俺はアイツを助けた。学生の頃だったら見向きもしねぇだろうな。
敵を倒し、オールマイトを超える。それしか興味がなかったからな。

「でもそのお陰で出会いもあったんです。会ったことはないんですけど、本を通して不思議なやり取りをしてたんです」
「お前!それ…っ!!」
「爆豪先輩?どうかしました?」

寸前まででかかった声を無理やり押し込め、これまた無理やり飲み込んだ。
それだけの行為だったのにありとあらゆる体力を使い果たしたみてぇに息が切れる。

なんだその話。身に覚えしかねぇしそんな体験をしているのも俺とお前くれぇだ。
お前が、苗字があの時のバカ女だったのか。

そんな偶然があるのか?なんかの間違いじゃねぇのか?いや、こんな体験どう考えても俺たちしかしてねぇだろ!

あの時雄英の図書室の隅の棚にある青い表紙のハードタイプの本に挟めたまんま開けないでいた何かが塞き止めるものがなくなったかのように流れ出てくる。

ドッと心臓が動き出し血液が熱を上げて体を巡る。

「爆豪先輩、顔赤いですけど熱ありますか?」
「ねーわバカ」
「バカって…もー、口悪いですよ」
「うるせェバカ」

またバカって言う。とバカ女もとい苗字が困ったように笑う。あの時もこの女はバカ女って言われる度にこんな風に笑ったんだろうか。

「苗字」
「なんですか?馬鹿じゃないですよ」
「お前次の休み…」

テーブルの上に置いた俺のスマホが鳴った。その着信音は初期設定の音ではあるが事務所からの連絡で流れる唯一の曲だ。

「チッ」
「舌打ち良くないですよ。どうぞ出てください」
「分かっとるわ」

素早くそれを耳に当てると簡潔に要件を伝えられた。敵が暴れているから急行せよ、との事で俺はそれに返事をした。

「用事ができた」
「わかりました。今日は解散ですね」

少しだけ切ない表情をする苗字の頭を撫でてなんて声をかけるか言葉を探すが、何も思い浮かばねぇ。

「爆豪先輩、いってらっしゃい」
「…おう」

俺は店を飛び出し事務所に向かった。戦闘服に着替えて現場に向かうと見知った顔がいくつかあり、そこでも舌打ちをした。

多少ややこしくもあったが、俺にかかれば雑魚と同じレベルで事態はすぐに収まった。が、収まらねぇのは見知った顔の方だ。

「爆豪ー聞いたぜー!彼女出来たんだってな!」
「マジかよ爆豪!なんで教えてくれねぇんだよ!俺とお前の仲だろ?!」
「うるせェ!!黙ってろモブども!!」

密接に過ごした3年間の所為か俺が怒鳴った所でコイツらはなんとも思わねぇし、ビクつきもしねぇ。
それどころかどうなんだよ。と肩に腕を回してくる始末だ。

クソ腹が立つ!!

「いいよなぁカノジョ。俺も欲しいぜ」
「でも爆豪ってあんま長続きしねぇよな」
「黙ってろ」

長続きしねぇんじゃねーわ。そもそも付き合ってねぇわ。
んなことコイツらに言ったところでなんの価値も見い出せねぇから言わねぇが、そうだな。

ただ1つ言えるのは、俺は狙った獲物は逃がさねェ。ってことだけだ。


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