悔い改めるは日頃の行い

アサシンには守らなければならない三信条というものがある。
「罪のない者を傷つけない」
「目立ってはいけない」
「仲間に危害を及ぼしてはならない」
の三つだ。

そう教え込まれて私は育てられた。
生きていくための術を教えてくれと私が縋りついた男はそこそこ名の通ったアサシンだったらしい。

「ガキの相手などする暇がねぇんだけどなぁ……」

男はそう言いながらも私を鍛え続けた。最初は山の動物を相手取り、幾度も死にかけた。それでも必死に、我武者羅に生にしがみついた。狩りに慣れてきた頃に男の仕事を手伝うことになった。
椅子に縛り付けられている見たことのない男。近くにあるテーブルには道具が並べられ、男は一言


「殺すな」


殺さず情報を吐かせろと言うことだった。
どうすれば情報を吐くか。どの程度の痛みで情報を吐くか。

どの程度で死ぬか

そうして多くの事を男から教えられ、私は生き残る術を身に付けていった。





「なんて、フィクションじみた話なんですけど……」
「でも事実だろう?」

頬杖をつきながら拗ねたような表情を浮かべて話しているエルに対し、スティーブンは楽しそうな表情で話しを聞く。
今まで誰にも話したことの無かった自分の過去。なんとなくお互い暗黙の了解で言ってこなかった。
何故エルがそんな話をするに至ったかというと「シスターじゃありませんよ」というエルの発言がスティーブンにはひっかかっていたらしい。

「今朝はどうも、スティーブン」
「私設部隊のことかとヒヤヒヤしたぞ」

エルの安易な発言に施設部隊の拷問担当だとでも言うのかと思って焦ったスティーブン。事実は全く異なり、エルは自分はシスターではなく、シスターの真似事をしているだけということに関して言っていたのだ。

「趣味が拷問なシスターなのかと思っていたが……そうか君は暗殺者か」
「……私はただ何をしてでも生きたかっただけです。拷問は情報を売ればその分報酬が貰えますし、現にあなたから報酬を貰っていますし、そういうことですよ。私の趣味じゃありません」
「この間パトリックが『“鉄の処女”を入荷したと知らせたらシスターがスキップしながら来た』って話してたんだが……」
「私よりパトリックの口をどうにかした方が良くありません?」

いくらなんでも他人に個人情報を流すのは頂けない。とエルが言うとスティーブンは確かにと頷いた。

「そもそもパトリックは何で君の事を知っていたんだい?」
「それはまあ……スティーブンに会うより前からお世話になっていたというか、先程の話に出てきた私の育ての親の知り合いみたいな感じでして……私設部隊以外のことは知っていると思います」
「なるほどね」

スティーブンが頷くと、エルはツンとそっぽを向いたまま角砂糖をカップに一つ、二つ、三つ……数を数えるだけでも胸焼けしそうなほど入れ、スプーンでぐるぐるかき回していた。

「それ、入れすぎじゃないか?」
「……腹立たしさを甘さで殺す」
「仮にもシスターが物騒だな……」

呆れるスティーブンを他所にカップに口をつけたエル。
案の定険しい顔をしながら紅茶を継ぎ足し、また口をつけては険しい顔をした。
そんなエルの様子に流石にスティーブンも笑いをこらえ切れずに身体を震わせながら声を漏らす。
エルもつられて吹き出し、最終的に二人して暫く笑っていた。


「これからも余計なことは言わないよう気を付けてくれ。私設部隊のことはバレたくないんでね」
「肝に命じときますとも」

そしてエルは再びカップに口をつけ、険しい顔をした。

「嫌なら飲まなければいいんじゃないのか?」
「自分のしたことの責任はきちんと取りたいと常々思っています。例えそれが怒りに任せて激甘にしてしまった紅茶でも、です」
「難儀な性格だな」