パブロフの兎


信じてる

「そんなにあのガキが心配ならすぐ俺のところに連れてこい。聞きたいことを吐かせれば病院に連れていってもかまわん」

「……は?」

 テオの言葉に祐未は思わず間抜けな声を出してしまった。眉をひそめて自分を睨みつける祐未にテオは派手なため息をついて言葉を続ける。

「病院に行かず、適切な治療もうけず、あのガキは未だ健康体だ。不自然だとは思わないか?」

「だって、お前がほっといて大丈夫っていったんだろ!」

 もしや病気が発症する可能性は祐未が思っているより高かったのだろうか。声を荒げると、テオの視線が彼女に突き刺さる。

「無論、病院に運ばれた時点で傷口の洗浄はしたし暴露後ワクチン接種も行ったが、本来なら六回行わなければならない。あのガキは一度しかワクチン接種を行っていないにも関わらず発病した様子がない。不自然だろう」

 だからなんだというのだろう。
 いっそすぐ近くにある男の腹部を蹴り飛ばしてやろうと思ったが、それをやるのも面倒だった。

「少し痛めつければなにか吐く。その後で病院にでもどこでも連れていけ」

 ああ、なんてバカらしい。

「約束が違うじゃねぇかっ! 普通に暮らせるようにするっていったろ!」

 声を荒げてテオの胸ぐらを掴む。細い体が少し揺れたが、テオは表情一つ代えなかった。

「俺が言ったのは、あのガキをICLOから逃がしてやることと、お前に定期的な情報提供をすること、お前が望む援助を好きなだけさせてやることだ。非常事態になった以上こちらの判断に従ってもらう。第一あのガキは本当にお前のいう普通の生活を望んでいるのか?」

 見下すようにバカにするようにテオが吐き捨てる。運転手は相変わらず会話が聞こえていないかのように微動だにしない。

「真実が知りたいというなら知らせてやればいいだろう。お前にそれができないなら俺がやってやる。大人しくあのガキを連れてこい」

「てめぇっ……このっ……!」

 胸ぐらをつかまれてぎりぎりと締め上げられても、テオの表情は変わらない。ただ見下すようにバカにするように、祐未を見下ろしている。

「それとも他の人間にまかせるか? そのほうが許せないだろう? お前のあずかり知らないところでどうにかされるのが嫌だからお前は俺と取引したんだもんな? 守ってやりたいんだろう? お前が近くにいないと、俺がどれだけあいつを痛めつけようともストップをかける人間はいないぞ」

 祐未を見下すようにテオは笑う。見下してバカにするしかできないクセに、なにを偉そうに。苛んで嬲ること自体が趣味のジュリアンに比べれば、テオの拷問なんて可愛いほうだ。たかが知れている。脅しの材料に使うような代物ではない……

「お前は、ちょっとでもあいつに危害が及ぶのが許せないんだろう?」

 テオが笑った。祐未を試すように。

「なら、すぐ傍にいないと。今までは傍にいてやれなかったんだから」


「それがあいつの姉である、お前の務めなんだろう? 
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