デルタの番犬


この世の終わり

「もう車を捨てた可能性もあるから検問はあんまり期待できないね。一応ホワイトハウスには連絡したけど……」

 キーボードをせわしなくタイプしながら直樹は祐未に言った。

「防犯カメラとかに顔映ってたりしねぇかな?」

「今検索してるけどどうかな……顔を隠されたら終わりだからね」

「さすが直樹!」

「意味わかってる? 見つかるかどうかわからないんだよ?」

「そ、そっか……」

「なんにせよ、すぐに軍が関与してくるだろうね。犯人は元陸軍特殊部隊デルタフォースだし、VX-Uはそこらの兵器なんかと危険性が違うから」

 直樹が

「テオが動けないのは痛いな……」

 と苦々しげに呟く。祐未はその横で指示があればすぐに動けるように待機していた。弟に連絡してすぐに追ってもよかったのだが、それでは効率が悪いと直樹に呼び戻されたのだ。
 祐未が所在なげに足をぶらつかせている横で電話が鳴り響き、直樹が受話器を取る。

「はい」

 そう言ったきり彼は黙って向こうの話を聞いていた。最初はパソコンのほうを注視していた少年の顔色がみるみるうちに青ざめ、強ばっていく。

「姉さん!」

「なんだ? 直樹!」

「今すぐアンドルーズ基地に向かって!」

「お、おう! そっちでいいのか!?」

「そこしかないんだよ!」

 祐未が愛用のホルスターにデザートイーグルを差し込みながら首をかしげる。受話器を持ったままの直樹がまるで此の世の終わりでも来たような表情を浮かべて頭を抱えた。

「ホワイトハウスが……テロリストに占拠された……!! 職員はPEOCで人質に取られてる!」
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