「あぁああああああああああああぁあああああああああぁあっ!」 祐未の口から溢れた声に周りの敵のみでなくアレックスやルーサーも何事かと身がまえた。銃を構えた男たちが祐未に標準をあわせるも、彼女の動きは彼らが引き金を引くよりも早い。まず自分に銃をつきつけていた背後の敵を1人回し蹴りで吹き飛ばし、となりの男に頭突きを喰らわせる。銃を構え直した男の顎に下から掌を叩きつけて銃を奪うと通路の反対側に勢いよく投げつけた。 「祐未……?」 アレックスが震える声で呟く。 祐未は声を頼りにアレックスを見たが、彼がどんな表情をしているのか彼女には見えていなかった。こうなると瞳孔が激しく左右に揺れるので周りの景色を影でしか捉えられなくなってしまう。アレックスがいる方向くらいは声と気配でわかるのだが、どんな様子なのかはわからなかった。でもきっと化け物を見るような目をしているのだろう。 突然咆吼をあげ、髪と肌が色を無くす。そのかわりに黒い瞳は血のような赤色に染まり、運動能力は普通の人間をはるかに凌ぐ。 これが化け物でなくてなんだというのか。B級ホラーにでてくるクリーチャーのようではないか。 一瞬だけアレックスを見た祐未は、そのあとすぐ周りを取り囲む敵に視線を戻した。蹴り飛ばしたのが東通用ゲート側の前列2人、鉄の塊が腹に直撃してぐったりしているのがイーストウイングの前列2人。祐未はまず自分から近い東通用ゲート側の敵を倒そうと決めた。敵が銃を構え直し、アレックスとルーサーがタイムラグを利用して柱の影へ隠れたようだ。轟音が響いて敵が銃を撃つ。祐未は弾丸の嵐を潜り抜け、2人の兵士に急接近した。途中いくつかの弾丸が身体をかすり、血が噴き出す。祐未においていかれた血液は空中に彼女の軌跡を残し、すぐに霧散した。赤い軌跡を描きながら祐未の足が敵の銃を蹴り飛ばし、掌が1人の顎を正確に打ち抜く。昏倒した兵士を横目に今度は隣の兵士を蹴りつける。腹に吸い込まれた足はそのまま男の身体を吹き飛ばし、祐未はイーストウイング側の3人と指揮官に向かって走り出した。 アレックスが銃を構えたのが気配でわかる。柱の影に隠れて銃撃戦を繰り広げているようだ。 「退却だ! 退却しろ!」 確かピンターと言っただろうか、指揮官が銃を構えた3人に向かって叫ぶ。後退する敵をなおも追う祐未に向かってアレックスが叫んだ。 「祐未! やめろ、危険だ!」 飛んでくる弾丸で祐未の身体が更に傷つく。赤い軌跡は空中のみならず落ち着いた色合いの床や壁に飛び散り、シミを作った。身体のあげる悲鳴を無視して祐未はさらに弾丸の間を潜り抜ける。目測を誤って肩の肉が少し深めに削られてしまった。鋭い痛みに眉をひそめる。 敵との距離を縮めようとした祐未の腕をアレックスが掴んだ。 「祐未っ!」 傷から流れ出した血がアレックスの手も汚す。強い力で引っ張られた祐未の身体はバランスを崩してアレックスの腕に倒れ込む。 他人に力づくで動きを規制されるなど運動能力が向上した状態の祐未には初めての経験だった。意識の外へ追いやっていたとはいえ、普通の人間に不意を突かれるようなことは今までなかった。 テオは確か、ウイルスの酵素で向上した祐未の能力は普通の人間の5倍だと言っていなかったか。 それをこの男は腕ずくで止めたのだ。 祐未が驚いたままアレックスの顔を見つめていると彼はニコリと笑ってみせた。 今まで彼女が暴れ回ったあとでこんな風に笑いかけてきた人間はいない。大抵は化け物をみるような目で脅えるし、事情を知るテオはバカにしたような笑みを浮かべて様子を観察するだけだ。 この男はなぜこんな風に笑えるのだろう。 「深追いは危険だ。潜入がバレた以上、こちらも体勢を立て直す必要がある。いいかい?」 「あ……ああ……」 目を見開いたまま少女が返事をするとアレックスは満足そうに笑みを深める。 驚いて硬直した祐未の身体がすっと冷えていく。今まで敵に集中していた意識がふわりと霧散した。目が見えるようになったので、きっと元に戻ってしまったのだろう。祐未には原理が理解できないが彼女の身体能力向上は興奮することで起こるらしい。『 今は無理やり引き留められたこととアレックスが予想外の行動をしたせいで冷静になってしまったのだろうと思われた。 黒に戻った髪を祐未が確認している最中、銃を構えたまま硬直していたルーサーが声を荒げる。 しおりを挟む目次 戻る [しおり一覧] |