デルタの番犬


反乱その3

「持ち場に戻れ、なにをしている」

 男の1人がスタンレーに銃をつきつけた。

「あんたの指示にはもう従えない。俺たちはとっとと金をもらってトンズラしたいんでね」

 パァン、と乾いた音がしてスタンレーが蹲る。腹に穴が空いたようだ。あふれ出す赤い血を手で押さえているがあまり意味はなさそうに見える。
 様子を茫然と見ていたルーサーが声を荒げた。

「あっ、あんたら何してんだ!」

「こんな悠長なヤツの下になんかつけるか! このままのんびり交渉してるよりミサイルぶちかましたほうが早い! お前も一緒にこい!」

 ルーサーの目線が倒れているスタンレーを見た。駆け寄らないあたり恐らく奴らの側につくのだろうとアレックスは思う。
 ルーサーを撃ったばかりの男がアレックスを見た。

「てめぇも協力するなら殺さないでおいてやるぜ」

 椅子に縛り付けられたままアレックスは笑う。

「冗談だろう?」

 ゆるやかに弧を描く口元とは対照的に、青い目は炎のような怒りに燃えていた。
 ファーディナンドがアレックスに銃をつきつける。

「この状況でよくもまあそんなセリフが吐けるな」

 アレックスは椅子に縛り付けられたまま真っ直ぐに男の目を睨み付けた。2人が数秒にらみ合う。やがてファーディナンドが軽く舌打ちをし、横にいた男を見た。

「ローランド、そっちの足やられた女は邪魔だ。始末しちまえ」

「あ、ああ」

 ローランドと言われた男が祐未に銃を向ける。アレックスが声をあらげた。

「よせ! 彼女に手を出すな!」

「そりゃあ無理な相談だな。肝心なところで邪魔されちゃかなわん」

 アレックスが歯を食いしばる。祐未を助けようと体を動かすが拘束された体はうまく動かない。ガタリと椅子が音を立てただけだった。ローランドの指が銃の引き金に触れる。
 アレックスが吠えた。

「やめろ! 祐未にっ、彼女に危害を加えるな!」

 それで辞めるようなら兵士などやっていないだろう。当然ローランドは戸惑う様子などない。
 バァン、と銃声が響く。アレックスは歯を食いしばったまま目の前の状況を見ていた。
 頭部に銃弾を受けたローランドが、祐未を撃ち殺そうとしていた表情をそのまま前のめりに倒れる。銃の引き金は既に引いていた。体が倒れるにしたがって狙いがずれ、発射された弾丸が祐未の腹部に当たる。
 気絶していた祐未が痛みで仰け反った。体は拘束されたままなので椅子がガタンと大きな音を立てる。

「がっ、あぁあああっ!」

「祐未っ!」

 叫ぶアレックスの顔に祐未の血がかかった。仰け反った拍子に飛び散ったのだろう。

「このやろう! 生きてやがったのかっ!」

 ローランドを撃ち殺した弾丸は、先ほどファーディナンドに撃たれたスタンレーが発射したらしい。ファーディナンドが怒号を上げて銃を撃ち、血みどろで拳銃を構えていたスタンレーの肩口に弾が当たる。
 アレックスから叫び声が飛び出した。

「ブラックストン大佐っ!」

 名前を呼んでも反応がない。ただでさえ危ない状態だったのだ。先ほどの被弾は致命傷だろう。アレックスがファーディナンドを睨み付ける。

「自分でも感情の制御が下手なほうだとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった……!! 残念だが手加減はできそうにないぞ!」

 睨み付けられたファーディナンドは銃を構えたままアレックスを鼻で笑う。

「はっ! 縛られたままなにホザいてやがる」

 ブチン、となにかが切れる音がした。それがなんの音か理解する前にファーディナンドの視界が黒に染まる。首に強烈な衝撃が加わり体が後ろに吹っ飛んだ。地面に叩きつけられたまま周囲をぐるりと見回せば壊れた椅子がすぐ近くに転がっている。足もとでアレックスが仁王立ちしているのが見えた。
 あの音は縄が切れた音だったらしい。だが、普通人間の力で縄が切れるものだろうか? 身体検査はしたはずだ。ナイフなどの武器は持っていなかったはずである。

 ファーディナンドを見下ろす形になったアレックスが冷めきった声で言う。

「だから言ったろう。残念だが、手加減はできそうにない」

 コンバットブーツがファーディナンドの持っていた銃を踏みつけ、そのまま破壊してしまった。
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