デルタの番犬


反乱その2

 頭に鈍い痛みを感じてアレックスが目を開ける。体は椅子に座った状態で背もたれの部分に手首を縛り付けられていた。ゆるりと視線を横に移す。自分と同じような状態で祐未が座っていた。ただしアレックスと違い意識は戻っていない。緊急手当ては受けたようだが気絶しているようだ。

「祐未っ……!!」

 身動きした拍子にガタン、と椅子が動いた。祐未の返事はない。アレックスの体もそれ以上動かなかった。

「気がついたようだね。ラドフォード大尉」

 聞き覚えのある声が聞こえてアレックスは前を向いた。目の前にスタンレーが立っていて、その横にはルーサーが銃を持って立っている。
 捕らえられて早々"ラスボス"にお目見えできるとは思っていなかったアレックスは一瞬目を見開いてスタンレーを見るも、すぐ元上官を睨み付ける。
 スタンレーはそんなアレックスの対応を気にしていないようで近くにあった椅子を引き寄せ、背もたれに腕を置く形でまたがるように腰かけた。
 祐未は相変わらず目覚める気配がない。

「……2年前のゲリラ殲滅戦、覚えているか?」

 アレックスは身じろぎして拘束から逃げ出せないものかと試してみたがそうそう甘くはない。スタンレーの質問には答えず、無言で男を睨み付けた。
 元上官はアレックスの目をまっすぐに見据える。彼はどこか懐かしむような口調で言葉を紡いだ。

「あの時の君と……祐未君といったかな? 彼女の活躍には感謝しているんだ。被害を最小限に抑えられた。指揮官だった私はどこまでも無能で、君たちがいなければもっと沢山の部下を無意味に死なせてしまうところだったよ」

 アレックスはスタンレーを睨み付けたままゆっくりと口を開いた。

「貴方は……有能な指揮官でした。2年前、貴方の下で働けたことを、私は誇りに思っていた」

「ありがとう、アレックス」

 スタンレーが椅子から立ち上がりアレックスに歩み寄る。なにをするのかと警戒していた彼の前にしゃがむ形でスタンレーが目線を会わせてくる。

「君も仲間を失って悔しいだろう。このままでは、私達の命はただの消耗品となり果てる。共にこの国を変えよう、アレックス」

 言われた言葉を数秒かけて咀嚼した男は、差し出された手とスタンレーを交互にみた。
 祐未はまだ気絶している。

「……私は確かに貴方を尊敬していました……貴方の元で働けたことを誇りに思っていた……」

「ならばもう一度私の元で……いや、私と共に働いてみないか」

「ご冗談を。ブラックストン大佐」

 スタンレーはまるでアレックスの言葉を予想していたかのように眉ひとつ動かさない。むしろ銃を持って後ろに立っているルーサーのほうが動揺しているようだった。
 アレックスが敵を睨み付けて吠える。

「今となっては貴方は国家の敵でしかない! 私は|勇気と真実と正義の守護者《デルタの番犬》だ! 尻尾など振ってなるものか!」

 彼の叫びに反応したのは目の前にいるスタンレーではなくルーサーだ。

「アレックス! お前いい加減にしろ! 状況がわかってんのか!」

「わかっていないのは君だルーサー! 我々は|特殊任務兵《デルタフォース》! 自由の女神の忠実な僕であるべきだ! |合衆国《ステイツ》と世界の平和を乱す者に鉄槌を下すべき我々が、|合衆国《ステイツ》に刃をむけてどうする!」

「まだそんな事言ってんのか! 捨て駒にされて終わりだ!」

「覚悟の上だ! すべてを捧げる決心はすでにできている!」

「このっ……!!」

 ルーサーがアレックスに銃を向ける。スタンレーは彼のほうを向かず、軽く手をあげただけでそれを制した。

「やめておけエイトケン中尉。……ラドフォード大尉、君の言いたいことはわかった。残念だよ」

 ルーサーが俯く中、アレックスは彼から視線を逸らさずハッキリと告げる。

「私も残念ですブラックストン大佐」

 ルーサーが苦々しげに眉をひそめる。
 目の前の敵を睨み付けるアレックスが廊下をバタバタと走る音を聞いた。
 ルーサーとスタンレーの耳にも届いたようで、3人とも一様にドアへ視線を向ける。
 荒々しい音を立てて扉が開き、男が2人入ってくる。スタンレーの仲間だろう。銃を持ち、いかにも物々しい雰囲気だ。
 先ほどまでしゃがんでいたスタンレーが立ち上がり男たちを睨み付ける。
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