男はいったんしゃがみこんでフローリングに拳を叩きつける。鈍い音がした。フローリングが少しヘコむ。 「西野、なにやってんの……?」 「隆弘だ」 ガツンッ、ガツンッと何度か同じ音が響き、床がどんどん傷ついていく。男の手が赤くなっていく。 「ねぇっ、手が腫れてるよ!」 「知ってるよ!」 低いうなり声とともに床へ何度目かの拳が叩きつけられる。鈍い音がしてフローリングが大きく歪み、ヒビが入った。しまいに隆弘が両手を組んで足元へ勢いよく振り下ろす。 バゴンッ、と取り返しのつかない轟音がしてとうとうフローリングに穴が開いた。 リリアンの頬がひきつる。 ――もしかしてこいつ、人間じゃないのかもしれない。 ジャッキーの超常現象よりもはるかにあり得ない力業を見せられてリリアンの身体から血の気が引いた。この男を敵に回したくない。 リリアンが声もなく震えている傍らで、フローリングの足かせから無事脱出した隆弘が女の足元をみやる。彼女の足は両方ともくるぶしまで床に埋まっていた。 「次はテメェの足だな」 リリアンが慌てて首を振る。 「い、いや、いいです!」 「大丈夫だ。修理代請求はあそこのバカにする」 隆弘は多少ズレた回答をした。それから床に転がっていた拳銃を拾いリリアンのすぐ足元に銃口をつける。 「ねえ、どうすんのソレ」 「ここならテメェの足は傷つかねぇだろ」 「やめてよぉ! 怖いよ!」 「大丈夫だって。ちょっと床に座ってろ」 つい先程フローリングに拳のみで大穴をあけた男に命令され、従わないでいられる人間がいるだろうか。リリアンは真っ青な顔のまま大人しく床に腰を下ろした。 風船の割れるような音がしてリリアンは思わず目を瞑る。足の指の間がゾワゾワした。下唇を噛んで足のほうを見ないようにしていると、更に立て続けに2回、火薬の弾ける音がする。 それからガゴンッ、と鈍い音がして、なにかが剥がれる音の直後、足首がフッと軽くなった感覚がした。 「そら、取れたぜ」 隆弘の声とともにリリアンが恐る恐る足元を見る。フローリングが無残にも引き剥がされて、リリアンの足があったあたりに大穴が開いていた。彼女が座ったまま穴から這いずり出ると、隆弘は満足したように立ち上がって拳銃を投げ捨てる。 「思ったより時間がかかっちまった」 それから彼は気絶したジャッキーに歩み寄った。細い腹を蹴って犯人の意識がないことを確認する。それからリリアンに視線を向けて、床に落ちた携帯電話を指刺した。 「昨日アーマンのおっさんにケー番教えてもらったろ。それで直接おっさんに話せ。警察よりそっちのほうが早ぇ」 リリアンは慌てて携帯電話を拾い上げる。 「わ、わかった!」 いつのまにかドリーにかけたはずの通話は切れていた。落としたはずみで終了したのかもしれない。彼女は男の指示通り、震える手で警察の電話番号を押した。 しおりを挟む目次 戻る [しおり一覧] |