君はリリーを知っているか?


「ナンデモアリマセン」

「リリアン!」

 パトカーの赤いランプが周囲を照らす中、ドリーがリリアンに抱きついた。

「無事でよかった! ごめんね、晩ご飯の材料足りなくて買い出しに行ってたの……ちゃんと家にいればこんなことには……」

 リリアンは友人の背中に手を回し、何度も首を横に振る。

「違うよ! ドリーが家にいて、ひとりではちあわせてたら大変だった……! なんにもなくてよかったよ!」

 ジャッキー・ボーモントは救急車がきた時点で死亡が確認された。今は身体にブルーシートをかけられ、リビングに横たわっている。彼の横には隆弘が力なく座り込んでいた。腕や腹にジャッキーの吐き出した血がかかっている。
 死因の特定はきちんとすんでいないが、状況からしてミックたちと同じだろうということだ。殴られたくらいであれほど吐血はしない。
 パトカーに乗ってやってきた茶髪の刑事が乱暴に頭を掻く。

「しかし、どうやってこの家のことを知って、どうやって入り込んだのやら。見張りはつけていたはずなんだが……」

 リリアンが俯いた。死んだ犯人が地中を自由に動き回れると言っても信じて貰えないだろう。ヘタをすれば病院送りだ。隆弘もそれが解っているのか、ブルーシートの前に座り込んで沈黙を守っている。疲れた様子でポケットからタバコを取りだし、火を付けていた。
 警官のひとりがリリアンの肩に手を置く。

「すいません、状況を詳しく聞かせて頂いても?」

「あ、はい」

 警官がメモ帳を取り出したので、リリアンは警官の腕を見た。頭上から男の声が降ってくる。

「家についたのが10時20分ころで、リビングで犯人に遭遇したということでいいのかな」

「はい」

「ジャッキー・ボーモントは君たちになにか言ったかい?」

 女は俯いたまま眉を顰めた。

「……私と西野が一緒にいるのが、気にくわないみたいでした」

 座り込んでいた隆弘がタバコの煙を吐き出し、彼女の言葉に付け加える。

「リリアンには手を出すな、だとよ」

 警官は1度頷いて、手帳になにか書き付ける。

「この前は薬のサンプルを持ってくるように言われたそうだが、今回は?」

「持ってこないのだったらもういい、と言われました」

 隆弘が鼻を鳴らした。

「自分に逆らったのが随分気に入らなかったらしいぜ。何様のつもりだか」

 リリアンは警官の手許を見つめながら小さく呟く。

「……西野にだけはいわれたくないとおもう」

「なんかいったかリリアン」

「ナンデモアリマセン」

 巡査が小さくため息をついた。それから少し強めの口調でリリアンに問う。

「『薬のサンプル』には本当に心当たりがないんだね?」

「ありません」

「それじゃあ君は、勘違いで殺されそうになったと?」

 今まで黙って話を聞いていたドリーが眉をひそめた。

「まだリリアンを疑ってるんですか? 今日殺されかけたっていうのに!」

「ここまで執拗に狙われるとなると疑わざるをえないだろう!」

 隆弘がタバコを咥えたまま警官を見ている。リリアンは俯いたまま官憲の言葉を聞いていた。

「ジャッキー・ボーモントが薬物中毒で倒れたときも、本当は薬の取引をする予定だったんじゃないのか? 医学生である君は、小遣い稼ぎにドラッグを作り売りさばいていたんだろう! バルボ教授の事件の第一発見者も君だったじゃないか!」

 教授の名前を出されたリリアンが咄嗟に顔をあげ、相手を睨みつける。

「わっ、私がルーベンを殺したっていうんですか!?」

 隆弘の眉がピクリと跳ね上がった。警官は尚も声を荒げる。

「ドラッグの取引が教授にバレて殺害し、取引の金額かなにかで仲間割れを起こしたと考えれば自然だ! ナイトクラブで初めて会ったという君の発言が正しければ、拳銃まで用意して脅しにくるというのは不自然だし、そもそも病院に緊急搬送されたジャッキー・ボーモントに拳銃を用意する時間的余裕はない!」
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