御三方の事情 癒し篇
☆いつもと違う御三方の様子。
そんな時名前ちゃんは?
-ロロノア・ゾロの場合
→みんな揃って夕ご飯の時間。
えらく箸の進みが遅いゾロに気付く。
遅いと言っても私と比べればとんでもないスピードだが、いつもの彼らしくない。
ご飯の後、すっかり彼の鍛錬部屋となった展望室にのっそり上がっていくゾロを見て、後を追い静かに覗き込むと部屋の電気もつけずに胡座をかいてダンベルを持ち上げている。
月明かりに照らされる彼は、いつも通りと見せかけて何処か心ここに在らずな表情をしていて。
いつでも真っ直ぐで折れないゾロのそんな姿を見たくなくて、突然現れた私に目を見開くゾロ(そもそも覗き見に気付いていない時点で変)に構わず、思い切り後ろから抱きついた。
「ぅおっ!?おい、危ねえだろ」
そう言いながらもブレずに受け止めてくれて尚且つ手に持っていたダンベルは落とさないゾロ。
ぎゅ、と抱きつき離れない私。
「鍛錬できねぇんだが」
「……」
「名前」
「……」
「…クソコックになんかされたか」
「…されてない」
「じゃあなんだ」
「……」
ゾロはハァ、と分かりやすい嘆息を吐く。
私の様子がおかしいと真っ先にサンジくんを疑う彼(失礼)だが、自分の様子がおかしい事には気がついていないらしい。
「……が、」
「あ?」
「ゾロが変だったから…」
「おれの何処が」
「分かんないけどなんか変だった…」
「……」
少々の沈黙の末にごとり、と私なんかでは1mmも持ち上げられないであろうダンベルを置く音がする。
「どうせなら前に来い」
「……」
「ホラ」
おいで、と言わんばかりに広げられた両手に、戸惑いながらも飛び込んだ。
ゾロに上から押し潰されてしまうのではないかというくらいに強く抱きしめられる。
「わぶ、」
「……ハァー…」
「ゾロ、くるじ、」
「…まだ、もう少し。足りねぇ」
周りきらない腕で背を軽くタッピングするが、緩まる様子はない。
暫くの間の後、緩まった腕から逃れ、今度は胡座の中に膝立ちになってゾロの頭をかき抱いた。
自身の顔のすぐ下にある緑色の頭を優しく撫でれば、私の腰を抱き寄せるゾロの力が強くなる。
「よーしよし」
「ガキ扱いすんな」
「どうかしたの」
「………なんでもねぇ」
これではさっきと逆ではないか。
ふ、と小さく笑いを洩らすも、私の鳩尾に耳を押し付けている彼にはしっかり聴こえていたらしい。
「なんだよ」
「いや、さっきと逆だなって」
「……」
「どうしたのって」
「……疲れてる、だけだ」
きっとそれ以外にも理由はあるだろう。
でもゾロが話したくないのなら無理に聞き出す道理もない。
ゆっくりゆっくり、珍しく甘えてくるゾロの頭を彼が満足するまで撫で続ける。
「……今日は、」
「うん?」
「今日は……親友の命日で」
「うん」
「少し、思い出してた」
「そっか」
彼の親友については聞いたことがある。
世界一の大剣豪になるという夢は、その子…彼女の為に打ち立てたものだと。
「気を悪くしたらごめんね?」
「…何が」
「妬けちゃう」
「くは、」
正直な私の感想に、堪える気もないであろう笑い声が彼の口から洩れる。
「安心しろよ」
「何?」
「おれがこんな風に出来るのは、この世でただ1人お前だけだ、名前」
「そうだね」
別にそういう心配はしてないけど。
そんなかわいくない言葉は今日ばっかりは飲み込んで、しおらしいゾロと抱き合ったまま、まだまだ終わりを迎えそうもない夜の世界に身を委ねることにした。
「腹なってんぞ」
「ご、ご飯食べたから消化してる音だもん」
-トラファルガー・ローの場合
→クルーに捕まり、食堂で何か話し合っていたかと思えばゆらりと立ち上がるロー。
少し歩いてすぐまた他のクルーに捕まっている。
手には新聞やら医学書やら、ここ数日彼が読み、内容を纏めたいと思っているものばかり。
最近昼間は常にこんな調子で、夜になりクルーが寝静まれば漸くそれらに手をつけられる。
強引に1人になって纏めれば良いのかもしれないが、なんだかんだ仲間意識が強くお人好しなローは自分のことよりクルーの相手をすることを優先させがちであった。
そんな彼の後ろ姿を見る名前。
あの様子、歩き方からして多分ローさん今日で4轍目だ。
日光の届きづらい潜水艦での航海だ、多少の体内時計のズレは致し方ないが一海賊船の船長ともあろう男がああなるとそうも言っていられない。
そう感じた名前は、強行手段に出る。
「ローさん」
緩慢な仕草で振り返るロー。
その顔色は悪く、目の下の隈は割増。
そんな様子でも彼独特の鋭いオーラは消えないのだから最早勲章ものである。
むしろ寝不足だからかもしれないが。
「なんだ」
「正直大した用ではないんですが」
「じゃあ後日にしろ」
「いいんですか?」
「は?」
「ローさんを癒してさしあげようかと」
「…は?」
完全に寝不足の人間のそれである。
こちらが何を言っているかくらい聞き取れているだろうに、何度も聞き返すロー。
「今からお部屋にお邪魔してもいいですか?」
「…構わねえが」
「じゃあ行きましょう」
ぼんやりして頭の回っていなさそうなローの腕を取り、名前は船長室へ向かう。
「悪ィが流石にそっちの相手はしてやれねえぞ」
「セクハラです。そうじゃなくて」
靴を脱いでベッドに上がり、正座をして腿を叩いた。
「どうぞ」
「は?」
「膝枕です。ご存じないですか?」
「いや知ってはいるが…」
「じゃあどうぞ。酷い顔されてますよ」
再度ぽんぽん、と腿を叩いて彼を誘う。
正常な判断が出来る状態のローさんであれば追い出されるか、下手を打てば違う癒しに流れていってしまうところだが随分と素直に帽子を脱ぎ、私の膝に頭を置いた。
「お前の気が済んだら止めるぞ」
「ダメです、しっかり寝てください」
「そうゆったりしてられねえんだが」
「睡眠を削ってまでやらなくてはならない仕事なんてものはこの世にはないです」
きっぱり言い放つと、ローさんはやれやれといった顔をした。
初めは少し休ませるだけのつもりだったが、この調子では恐らくタイミングを見てすぐにでも起き出し仕事を始めるだろうと憶測し、彼を寝かせる方向で作戦を進める。
「ローさん、お歌歌ってあげましょうか」
「断る」
「そう邪険にせずに」
彼の返事を待たずに歌を口遊む。
子どもの頃に母親がよく歌ってくれた北の海の子守唄。
雪の降り積もる静かな冬島を想像させるその歌は、北の海出身のローさんにも聞き馴染みがあるようで。
「その歌、」
「幼い頃母がよく歌ってくれたんです。母の、静かに、滔々と流れるように歌う声が好きだった」
「…俺も、母親から聞いた記憶がある」
ローさんはそれだけ言って若干瞼を伏せる。
瞬きも増してきた。
眠気が出てきたのだろう。
再度子守唄を再開し、そうっと彼の蒼黒の髪を撫する。
如何にも子どもをあやすかのような仕草をローさんは嫌がるかと思ったが、何も言わずに受け入れてくれた。
ならばここぞとばかりに無遠慮に撫で回し続ける。
撫でて、梳かして、また撫でて。
そうして徐々にローさんの瞼は下がっていき、遂に彼の寝かしつけに成功した。
よし、と心の中でガッツポーズをして、そろそろと足を抜こうと試みる。
「…、」
ぴくりと寄る眉頭。
ローさんは寝返りをうち、動きを止めた私のお腹にぴったりと顔を寄せて腰に手を回して抱きついた。
これでは身動きが取れない。どうしたものか。
ひとまず腕を外そうと、起こさないように静かに腕に触れれば、
「…ん」
「起こしてしまいましたか」
「名前…?」
「そうですよ」
「いくな名前…ここに、……いろ」
低く掠れた夢見心地な声でそう呟き、更に強い力でかき抱いてまた寝息を立て出すローさん。
彼にそう言われてしまえば離すことなどできない。
幸い自分の仕事も今はないし、自分もなんだか眠たい。
もう少しローさんと一緒に微睡んでいよう。
次に目を覚ました時はローさんは既におらず、私は彼のベッドに布団を掛けて寝かされていた。
それからというもの、3轍を超えると蚊の鳴くような声で名前の名前を呟きながら、ふらふら船内を歩き回り彼女を探すローの姿が目撃されたという。
-スモーカーの場合
→葉巻の量が増えている。
じと、とスモーカーさんの傍にある灰皿をねめつける。
ついでに彼自身も。
そうすると彼は問題ないとでもいうように少しだけ目を眇めた。
「量、」
「あ?」
「増えてますよ。葉巻の量」
「いつもこんなもんだ」
「そんなことないです。倍くらいには増えてます」
名は体を表す、という言葉を圧倒的に体現しているヘビースモーカーなスモーカーさん。
減らせとは言わないが、健康のこともあるのだから出来るだけ気にはしていただきたい所存。
「倍はねえだろ」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ。どう見ても倍だし、違う意味で倍はねえだろです」
そもそも倍、というのも忖度しての発言であり、灰皿の上の吸い殻の山は今にも崩れ落ちてしまうのではないかというレベル。
絶対に吸い過ぎだ。
今までは自宅でここまで吸いまくっていることはなかった。
おそらくながら今現在ですら手にしている書類たち。
勿論持ち帰っても問題のない物たちのみなのだろうが、それですらものすごい量で。
これらがスモーカーさんの重荷になってしまっているんだろう。
「ストレスですか」
「まァ、そうだろうな」
他人事のようにいうスモーカーさんに、こちらも溜息だ。
「もうおじさんなんだからダメですよちゃんと体を労っていただかないと」
「じゃあおじさんがおじさんらしく気を抜けるように上層部に言ってやってくれや」
煙を長く吐き出しながら顳顬を揉むスモーカーさん。
そんなことは出来ないけどさ。
私に出来ることといえば…
「スモーカーさん、ちょっと葉巻も書類も置いてソファに行きませんか?」
「何でだ」
「名前ちゃんのマッサージ店開店です」
訳がわからん、という顔をしながらも灰皿に葉巻を押し付けて付いてきてくれる彼はなんだかんだで優しい。
2人掛けのソファにむこう向きで座らせて、私はその背中に向いて膝立ちをした。
「まさか肩揉みでもしてくれんのか」
「ネタバレやめてください」
そのまさかである。
スモーカーさんの広い広い背中の頂点、肩に手を置いた。
「あれ待って」
「あ?」
「肩揉みで煙になったりしないですよね」
「お前どんな馬鹿力で揉むつもりだ」
「ナメてますね?今は昔、地元ではどんな凝りでもほぐす肩揉みの名前ちゃんとしておじいちゃんおばあちゃんたちにありがたがられてたんですよ」
「そりゃあ期待大だな」
小馬鹿にしたように鼻で笑っているスモーカーさん。
その口きけぬようにしてくれるわ。
そっと指に力を込める。
「………かっっっった」
「お前こそおれの肩凝りをナメてんじゃねえのか」
「何のこれしきっ…!」
負けてたまるか。
全く指が沈んでいかない事に若干心が折れつつも、肩叩きに変更したり肘でぐりぐりしてみたりと手を替え品を替え立ち向かう。
結構ぐいぐい行っているが痛くないだろうか。
ちらりと様子を確認するが、何も言わないから大丈夫ということにする。
時間をかけて格闘しているとだいぶほぐれてきた。
勝った、と内心ほくそ笑む。
やはり私にほぐせない肩凝りなどこの世にはないのだ。
不意にスモーカーさんが振り返る。
「もういいぞ」
「え、でもまだこれからですよ」
「いや、もうかなり楽になった。ありがとうな」
立ち上がってぐるぐる肩を回すスモーカーさん。
「なら良かったです」
「お前も揉んでやろうか」
「え」
考えてもいなかったまさかの見返りに驚く。
「いや、いいですよ私凝ってないので」
「そんな人間いねェ」
立膝のままの私をくるりと反転させて正座させると、背後にどっかりとスモーカーさんが座ったのがソファの撓みで伝わる。
「え、あの本当大丈夫です」
「変な遠慮すんな。久しぶりに肩が軽くて気分がいい」
後ろを振り返っても強制的に前を向かされる。
何なのこのサービス精神の良さ。
いやダメだ、何でダメかって私は極度のくすぐったがりで肩揉みに弱いのだ。
美容院でのマッサージすら断っているレベル。
やばい、どうにかしなくては。
1人で焦っていると、唐突にスモーカーさんの手が肩に置かれた。
「!!」
びくりと身が揺れる。
背筋が変に硬直して動けなくなった私を訝っている様子が背後から伝わってきた。
「…?おい」
「はいっ!?なんでも、ないですよ!?」
とんでもなく声が裏返り、どう足掻いても様子がおかしくなってしまった。
あ、待って。
今背後の誰かさんが楽しそうに口角を上げた予感がー…
「ぅひゃあ!」
肩を包み込んだ大きな手が動き出す。
ちょうど親指が当たるあたり、いちばんくすぐったいところに適度な力で指が沈み込み、図らずも変な声が出た。
慌てて手で口を押さえるももう遅い。
何せこういう時のスモーカーさんは生粋のいじめっ子なのだ。
「ち、ちょっとスモーカーさ、ひゃあ!」
「何を変な声出してやがんだお前」
「ちょ、ま、ひい!わぁ!」
何を言っても、どんなに背を反らせ身を捩ってもスモーカーさんからは逃げられない。
そうして散々私をいじめぬいて漸く気が済んだらしい手が離れていった。
息を荒げて倒れ込む私。
このおっさん本当に…!
「いい息抜きになった」
「息抜きになったんじゃなくていじめて楽しかっただけでしょ…!?」
違いねェ、と意地の悪い顔で笑う彼を盗み見て、今後は金を積まれても肩揉みなんかしてやんない、と心に誓うのだった。