とあるドMは神を喰らう - deer

挟まれる前に消毒はしよう

「フェンリル極東支部へようこそ」

支部長と名乗った人物がそう話すのを聞き流し大人しく機械に腕を預ける。ゴッドイーターの適性試験というのは簡単なパッチテストだと聞いていたが、あれは嘘だったのだろう、と考えている内に腕に激痛が走る。叫び出してしまいたいほどの痛みなのだが悲しいことに私の表情は変わらず、喉の奥から少しばかりの呻き声が溢れた程度だった。痛みの中で感じた背筋の痺れに思わず息を溢す。ああ、中々良い痛みだった。

「極東支部初の新型神機使いだ」

新型、という言葉が気にかかったが、今はそれより痛みの余韻に浸っていたい。死を間近に感じた痛みは、実に私好みなのだ。
引き攣るような痛みに悦を感じながら指示された通りエントランスへ向かえば、自分と同じ年頃の男の子が座っていたので軽く頭を下げて隣に座る。ガムを食べるかと尋ねられたが、どうやら今彼が食べているものが最後だったようだ。

「俺は藤木コウタって言うんだ!」

「日口エンだ」

一瞬でも彼が早く神機使いになったので、彼の方が先輩らしい。それはそうだな、とよろしくお願いいたします藤木先輩、と言えば、敬語は辞めてくれと言われてしまった。先輩なら敬語を使うべきではないのかと思ったのだが、同期だから気にしないでいいそうだ。コウタでいいよ、という言葉に甘えて同期らしく名前で呼び合うことにした。
そんなコウタと歳の話をしていると、教官らしき女性が来たので立ち上がる。コウタは女性に見惚れてしまい早速叱責されていた。こんなことなら私も立たなければ良かった。なんて羨ましい。私も雨宮教官に叱責されたいものである。
メディカルチェックを受けるようにと指示をされたので、コウタと別れアナグラと呼ばれる支部の中を見て回りながら進んでいく。新型神機使い、という肩書きのせいか、チラチラと視線を浴びたが、それはそれで美味しいプレイであるので、ゴッドイーターという仕事は中々私に向いているような気がした。
ペイラー・榊たる人物と支部長殿と幾らかの会話をした後、眠らされている間にメディカルチェックを受けた私は自室らしき部屋で目を覚ました。眠らされていては注射などの痛みに興奮しようがないので、是非とも起きたまま行って欲しかったものである。
メールで指示された通りエントランスで竹田オペレーターから訓練を受注し、神機を受け取った後、訓練場へ向かった。私の神機はショートブレードにブラストという近距離タイプのものだった。雨宮教官の厳しい指導に心の中で口を緩めながらヴァジュラというアラガミを模したダミーアラガミを切り刻む。オラクルリザーブを用いながらブラストも使ってはみたが、銃より剣で戦う方が性に合っているようだった。
結合崩壊を起こしたヴァジュラにショートブレードを突き刺せば、そこまで、という凛々しい声が響き手を止める。この声に逆らえばどんな叱責をしてもらえるのか、と背筋に震えが走ったが、表情といい行動といい、思っているようにはならない現実が悲しい限りである。

「本日はこれまでとする。明日の予定を確認した後自室で休め」

「承知いたしました」

変わらない表情と共に頭を下げてその場を去る。保管庫へ向かい神機を預ければ、楠整備士に装甲も使った方が良いとのアドバイスをもらったので、貴重なご意見ありがとうございます、と再び頭を下げて保管庫を去った。
エントランスにて竹田オペレーターに明日の予定を確認しているとコウタがやって来たので、二人で訓練がどうだったかと報告し合う。

「今日の訓練はさ、動かないヴァジュラだったからまだ上手く弾が当たったけどよー、実際動くとなると難しいよなあ」

「ああ、そうだな。盾を持たない狙撃手はやはり距離を保ちつつ立ち回るしかないのだろう。少なからずあのヴァジュラというアラガミの攻撃を受ければ怪我だけでは済まなさそうだからな」

コウタの意見に頷きながら自分の意見を述べる。なるほど、同期という存在は存外心強いものだ。

「そういやあエンのは剣も使えんのかー、やっぱり便利なもんなの?」

「私はどうも銃が苦手でな。敵の近くで剣を振るう方がやり易かったな」

「それじゃあ新型の意味なくね?」

「いや、案外そうでもないらしい。私が捕喰すればアラガミバレットが手に入る。それは普通に使うのも強力な銃撃として有効だが、仲間に渡せば従来ならブレードタイプの神機使いしかなれなかったバースト状態にコウタたちのような遠距離式の神機を使う人もなれるそうだ」

「じゃあどっちかっつーと剣でガンガン捕喰してそれを俺らに渡してくれた方が効率上がったりすんのかな」

「遠距離式の人と共に戦えばまた違う課題が見えるかもしれないな」

「とりあえず俺と組んだらガンガンアラガミバレット渡してくれよな!バーストってあれだろ?こう、なんかグワッ!となるんだろ?」

「グワッとなるのかは分からないな。まだ捕喰はしたことがない」

「明日の訓練で捕喰したら教えてくれよ!」

「ああ、約束する」

「ってああ!!俺ツバキさんに呼ばれてたんだった!!!」

殺される!と顔を真っ青にして走って行ったコウタを見送り部屋へ戻る。恐らく今頃二度目の叱責を雨宮教官から受けているであろうコウタが羨ましくて仕方がなかった。どうせならあのヒールで踏みつけて欲しいものだ。
拒否権などなく始まったゴッドイーターという世界は、案外悪くないのかもしれない。そんなことを思いながらゆっくりと目を閉じたのだった。

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