とあるドMは神を喰らう - deer

穴はいつでも無限大

「本日より貴官を第一部隊に配属する」

「謹んでお受けいたします」

訓練過程を終えた私は主にアラガミとの戦闘を行う部隊である第一部隊への配属が決まった。この支部において唯一の新型は即戦力として使え、ということのようだ。私の実力など皆無に等しいが、アラガミの攻撃を受ければ中々の快楽を得られるはずだと思うと、本当に適性試験を受けてよかったと思った。
これから共にオウガテイルを討伐しに行くという第一部隊の隊長殿を待つためにエントランスのソファーに座っていると、タバコの匂いを纏わせた男がやって来て、竹田オペレーターと二、三言葉を交わした後に私の前に立った。

「雨宮リンドウだ」

「日口エンと申します」

立ち上がり、雨宮隊長に頭を下げればどこか驚いた顔をされ、あまり硬くなるなと言われた。だが、これは私の家族の特徴であり、癖のようなものであるので、到底直せそうになかった。それについて説明すれば、お前面白いやつだな、と笑われたので、恐縮です、と返答して、もう一度頭を下げた。

「ま、とりあえず任務に行くか」

ヘリで移動する道中、オウガテイルの特徴について説明を受け、小型アラガミは隙を突いて一気に攻撃しろとの指示を受けたのでそれを頭に叩き込む。この先は本物の戦場である以上、気を引き締めなくてはならない。
私は痛みや叱責に快楽を感じる性癖を持っているだけで、決して死にたいわけではないのだ。もちろん怪我はしたいし、怪我をしたことを叱責されたい。だが、それを受けるには生きていなければならない。ドMである以上、私は死ぬわけにはいかなかった。

「命令は三つだ」

四つあった気がしたが、とりあえず死ななければ良いとのことなので、深く頷いておく。自分さえ気をつければ死なない程度に痛めつけてもらえる職場なんて、聞いただけで涎が出そうだ。
行くぞ、という雨宮隊長の声に従い地面へ飛び降りる。直ぐに目視出来たオウガテイルを背後から斬りつければ、ギャアアア、と耳障りな声を上げて仰け反った。あまり硬い部分のないオウガテイルはどこを攻撃してもダメージになるようなので、針を飛ばすという尻尾以外を斬っていく。尻尾はダメだ、是非ともあの針を食らってみたい。

「っ、避けろ!」

どうやら私の狙い通り針を飛ばしてくれるらしいオウガテイルにあえて突っ込む。左腕と腿に感じる痛みに熱い息を吐きながらショートブレードを突き刺せば、断末魔を上げたオウガテイルが地に伏せたので、捕食してコアを回収した。

「おい!何で避けなかった!!」

血がダラダラと流れる身体を構うことなく、私の襟元を掴んで睨みつける雨宮隊長に背筋が震える。良い目をしているとは思っていたが、この目は雨宮教官と同じ目だ。そうか、この二人は親類なのか。

「申し訳ございませんでした。初陣のため身体が上手く動かなかったようです」

大量の血が流れる左半身にクラクラしながらそう言えば、苦虫を噛んだような顔をした雨宮隊長にそうか、悪かった、と言われたので、いえ、問題ございません、と返答しておく。むしろありがとうございます、というのが本音なのだが、私の表情も声帯もそんなことを許してはくれなかった。

「とにかく戻るぞ。怪我の手当てしねえとな」

雨宮隊長の言葉に、はい、と短く返し周りを警戒しつつ迎えが来るポイントへ向かう。途中で現れてくれたザイゴートという他のアラガミを呼ぶという小型アラガミにはヴェノムを食らって血反吐を吐いたが、実に気持ちが良かった。是非ともこのまま他のアラガミも呼んで限界まで痛めつけられたいものだが、第一部隊の隊長というのは相当実力があるようで、ザイゴートを数秒で沈めてしまった。
結局、迎えのヘリが来る頃には解毒錠を飲まされ、応急処置をされたため、それ以上の快楽は得られなかった。
アナグラへ帰還すると、私の姿を見た人々の話が止まり、エントランスが静寂に包まれた。おい、あいつ新型の、と抑えられた声が四方八方から聞こえてくるが、どうせならもう少し派手に罵って欲しいものである。

「報告は俺が済ませるからお前は医務室行ってこい」

「承知いたしました。本日はご教授いただき、ありがとうございます」

「そう言うなら次からはもうそんな怪我するなよ」

「精進いたします」

怪我をしたくて嬉々としてゴッドイーターという仕事をしている以上それを承服することは出来ないが、私が強くなればもっと強い快楽をくれるアラガミとも戦わせてもらえるのだろう。それならば、私は強くなるための努力を怠ってはならない。
失礼いたします、と深く頭を下げ、医務室へ向かうためにエレベーターへと乗り込む。何とか血は止まっていたが、ジクジクとした痛みに付き纏われうっとりしてしまいそうだ。
だが、悲しいことに医務室で適切な処置を受ければその痛みはほとんどなくなり、アラガミの偏食因子を体内に取り込んでいる身体の回復力により傷も消えてしまう。なんて無常な世界なのだ、と項垂れたいが、また明日の任務で怪我が出来ると思えば、実に晴れやかな気分になった。
新人区画でエレベーターを降りれば、自動販売機の前のソファーに座っていたコウタがギョッとしたような顔で駆け寄ってきた。

「エン!?大丈夫かよ!?」

「ああ、先程医務室で治療してもらったから問題ない」

「そ、そんなに強い敵だったのか!?」

「オウガテイルの針を食らってしまってな。針を飛ばす前に倒せると思ったが間に合わなかったんだ」

針を食らいたくて突っ込んだんだ。中々良い痛みだった、というのが本音だが、もちろん私の口はそのようには動かない。当たり障りのない、新人らしい言葉を吐いて、心配させてすまない、とコウタに頭を下げた。

「あんまり無茶すんなよ?俺と一緒にミッションに行ってリンクバーストしてくれるって約束したろ?」

「ああ、そうだな。死なないように精進する」

これから任務だというコウタに気をつけて、と声をかけて自室へ戻る。明日はどんな痛みを味わうことが出来るのか楽しみだと思いながら扉を開けるのだった。

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