とあるドMは神を喰らう - deer

罰金は大体10000円

コウタとアリサを見送った後、精密検査のために薬を投与され眠らされた。起きた頃には終わっていると言っていので、おそらく検査はもう終わったのだろう。
腕に感じる違和感は点滴を受けているということだろう。私の身体への負担を減らすためのものなのだと榊博士が言っていた。
あれから長く眠っていたのか、明かりが消された部屋は真っ暗だったので、何度か瞬きをして目を慣らす。そうしてやっと、私の手を握っている温かい存在に気づいた。

「ソーマ?」

少し掠れた声を出せば、動揺したように手が離れる。そのまま立ち上がって部屋を出ようとするソーマに手を伸ばせば、点滴を吊るしている棒が大きな音を立てて倒れた。
点滴の針が外れてしまわないように移動する。これを元に戻さなければ、きっとまたアリサに殴られてしまう。決して点滴を外そうとしたわけではないが、今の私が何を言っても聞く耳を持ってもらえそうにないのだ。

「何でだよ」

片手でどうにか元に戻そうとしていると、そんな声が降って来た。すまない、点滴を受けていることを失念していた。そう謝って棒を立て直してベッドへ座り直す。

「何で逃げなかった。非戦闘員のお前が何でリンドウの神機で戦った」

「アナグラには私しか動ける神機使いはいなかった。そして、私の神機は使えなかったが、パパの神機はまだロックされていなかった」

「他人の神機使えばどうなるかくらい知ってんだろ」

「...ああ」

「そんなに死にてえのかよ。そんなに俺の傍からいなくなりてえのかよ」

「違う。死にたくなんてないさ」

「なら、何でだよ...」

暗いせいで表情は見えないが、酷く傷ついた顔をしているのだろう。そんな顔をしないでくれ。そう言って伸ばした手を強い力で引かれる。

「どうすれば伝わる?どうすれば分かるんだ?お前まで死んだら、俺はどうやって生きていけばいい?」

死ぬな、頼むから。絞り出すような声でソーマが囁いた。その気持ちはもちろん伝わっている。そう想ってくれるソーマが愛おしくて仕方がない。それでもなお、命を縮め続けることしか出来ないことにすまないと零す。

「私は手の届く限り全てを守りたいんだ。この両手で抱きしめられるものくらい守りたい。そのためなら、自分がどうなろうと構わない」

私はそうすることでしか生きられないのだ。自分の命一つで誰かを救うことができるなら、喜んで差しだそう。例え、それで大切な人たちを悲しませることになっても、この生き方を変えることはできそうになかった。

「俺は、お前が生きてさえいてくれればそれでいい」

「私だけじゃないだろう?大丈夫さ、ソーマは一人じゃない」

「お前がいねえと意味がない」

「...すまない。私は遠くない内に死ぬ」

「そんなこと認めてたまるかよ」

連日の行動が命を削っていることは、他ならぬ私自身が一番強く感じていた。少しずつ身体の中のものがすり減っているような、そんな感覚がしてならなかった。
忘れて欲しい。これ以上ソーマに苦しい思いをさせるくらいなら、離れた方がいいのではないかと思いそう言えば、ふざけるなと怒鳴り声が返ってきた。

「愛してる女を忘れるわけねえだろ。俺はお前のことがどうしようもなく好きな馬鹿だからな」

「...確実に死ぬと分かっている相手を好きでいても仕方ないだろう。ソーマの気持ちは嬉しいが、私は添い遂げることができないんだ」

「それでもいいつってんだろ。今お前を抱きしめられるならそれでいい」

「ソーマは馬鹿だな」

「ああ、どうしようもねえ大馬鹿野郎だ」

優しく抱きしめてくれるソーマは本当に馬鹿だ。こんなことをされては、死にたくなくなってしまう。決して死にたいと願っているわけではないが、何かを守るために飛び出すことを躊躇してしまうかもしれない。
この幸せを感じられなくなることを恐れて、不死鳥として、希望として振るまえなくなるかもしれない。

「愛してる」

「...ああ、私もだ」

先の長くない命の中で、精一杯ソーマを愛そう。二人で重ねた唇に静かに目を閉じながら、そう誓ったのだった。

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