繋ぐもの
ヴーッ
名前のスマホが通知を知らせる。
1人自宅で食事をしていた名前はロック画面を見やった。
「雅貴…」
今日は仕事だと言っていた恋人からの連絡だった。
"今度の土曜日、空けといてくれ。昼前に家まで迎えに行く"
その短い一文だけで名前は花が咲いたように笑った。
◆
「今日はどこに行くの?」
「秘密。」
当日、雅貴の車に乗り込んだ名前は恋人に行き先を問うた。
どうやら今日は教えてくれない日らしい。
「その服似合ってる。今日も可愛いな」
「あ…ありがとう。雅貴もかっこいいよ」
「そうか?」
恋人がシートベルトをした事を確認した雅貴は、するりと柔らかな頬を撫でた。
それはキスの合図だ。
名前が顔を近づけ目を瞑ると、ちゅっと軽いリップ音をたててすぐに離れていく。
目の前の雅貴が優しく微笑んだ。
「それじゃあ行くか。」
「うん。運転お願いします」
シフトレバーを握った彼はゆっくりと車を発進させる。
車を走らせ着いた先は隣町のショッピング街だった。
適当に大型施設の駐車場に車を停めた雅貴は、館内案内図を前にしながら話しかける。
「指輪、どこのがいい?」
「…え??」
「聞こえなかったか?指輪だよ。ペアリング、名前の好きなものを贈らせてくれ。」
「いいの…?でもなんで急に?」
「別に急じゃない、ずっと考えてた。」
「嬉しい…雅貴、ありがとう」
嬉しくなってほんのり頬を染めながら返す。
ふっと笑った雅貴が名前の手を握る。とりあえず回って気になった所を見ようという提案に名前は頷いた。
「雅貴はどんなのが好き?」
「俺は男だし、特に拘りはないな。」
「そんなもの?」
「ああ、だから名前が選んだものに合わせる」
「責任重大だ…」
色々な店を見て周り、最終的にブルーのジュエリーが差し色に入っているシンプルなものに落ち着いた。
対する雅貴の指輪はデザイン的だが主張の強すぎない細めのものだ。
2人は店を後にすると休憩しようとカフェに入った。
「ねえ、開けてもいい?」
「ああ、勿論。」
笑みが抑えられないと言った様子で先ほど購入したペアリングを大切そうに開ける彼女を見て、指輪を贈って良かったと雅貴は思う。
「貸してくれ。俺に嵌めさせて欲しい」
「うん」
手渡されたジュエリーボックスから指輪を取り出す。
彼女の右手を取り、その薬指にゆっくりと指輪を嵌める。
スラリとした綺麗なその指にシルバーの指輪がよく映えた。
「ありがとう。ふふっ、この指輪とても綺麗」
「ああ、似合ってるよ。」
「雅貴も手、貸して?」
綺麗な細い手が雅貴の大きな手を取り、するりと指輪を薬指に嵌めた。
名前がにこりと微笑む。
「これでお揃いね」
「ああ。」
「雅貴、指輪をくれてありがとう。大切にするね。」
「どういたしまして。気にいるのが贈れて良かったよ。」
「それにしても、突然だからびっくりしちゃった」
「形としても恋人だと証明しておきたかったんだ。誰かにとられそうでな」
「?私は雅貴しか見てないけど?」
「はぁ…それは分かってる。そうじゃなくて、名前は美人だからもう少し周りの男を警戒しろって事。」
「そんな事、初めて言われたわ。」
「だから自覚して欲しいんだよ…」
雅貴は恋人の無防備さにため息をつくと前髪をかきあげた。
「とにかく、仕事の時もその指輪つけて。魔除けだと思ってくれ。」
「うん。」
嬉しそうに指輪を嵌めた右手を見つめる恋人に雅貴は幸せを噛み締めた。