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"8月10日 雅貴 誕生日!"
カレンダーをめくり、書き込んだ文字を見て名前はそろそろ準備をせねばと思う。
夫婦になってから初めて迎える夫の誕生日だ。
誕生日と翌日の予定はちゃんと空けている。
当日の夕方まで雅貴は仕事だから、家で彼の好きな食べ物を目一杯振る舞おうと計画していた。
ケーキは奮発して美味しいものを用意して、それからプレゼントは何が良いだろうか。
特にこだわりのなさそうな雅貴の顔を思い浮かべ顎に手を当てたまま考え込む。
「ネクタイ…は普段使ってないし、アクセサリーは神主だからってあんまり付けないし…うぅん」
いっそ彼と一緒に出掛けて欲しいものを贈った方が良いのではないかとも思うが、何だかそれも少し違う気がした。
先日さりげなく雅貴に何か欲しいものは無いのかと聞いてみたが、うーんと悩ましげに唸りながらもう手に入れたから何も無いと答えた。
「欲しいのは名前の心だったからなぁ、今はもう満たされてるよ」
普段と変わらない口調でそう付け加えた彼の言葉を思い出し顔が熱くなってしまう。
家で1人考え込んでいても仕方がない。
店に出向いて良さそうなものに決めようと思い立つと、愛車のキーを取りショッピング街へ繰り出した。
◆
誕生日当日の夕方、雅貴と名前は自宅の食卓を囲んでいた。
「雅貴、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、名前」
腕を振るって作った食事をダイニングテーブルいっぱいに並べる。
「凄いな、こんなに」
「結婚してから初めて迎える誕生日だから、張り切っちゃった」
「嬉しいよ、名前の手料理がこんなに食べられるなんてな」
「ケーキも買ってあるからね」
「フルコースじゃないか」
「えへへ、どうぞ召し上がれ」
「ありがとう。いただきます」
雅貴が食べ始めたのを見て名前も箸をすすめる。
どの料理も美味しいと言いながら食べてくれる夫の姿に笑みが浮かんだ。
こんなに喜んでくれるなら作った甲斐があるというものだ。
ケーキまで食べ終えるタイミングで用意していたプレゼントをクローゼットから引っ張りだした。
「雅貴、これ誕生日プレゼント。何が良いか分からなくて悩んだんだけど…気に入ってくれたらいいな」
「料理を作ってくれただけでも嬉しいのにプレゼントまで貰っていいのか?」
「いつもお世話になってるお礼だと思って?」
「俺も世話になってるけどな。ありがとう。開けて良いか?」
「もちろんよ」
紙袋から取り出した箱を雅貴が開ける。
そこには、名前が悩みに悩んで購入したスクエア型の腕時計が入っている。
それなりに名の知れたブランド物だ。
雅貴が持っている腕時計にスクエア型は無かったし、何より自分がこの腕時計に一目惚れしてしまった。
これを着ける雅貴はきっととても格好がいいだろうと想像して購入したのだった。
「腕時計か」
「色々悩んだんだけど、これが1番しっくりきたの。どう…?」
「おしゃれだな、俺好みだ。丁度新しいものを新調するか悩んでいたから、見透かされてるのかと思ったよ」
「本当?それなら良かった」
「この時計が似合う男にならなきゃいけないな」
「もう似合うわよ。ねぇ、試しに着けてくれない?」
「ああ」
微笑みを浮かべながら大切そうに箱から時計を取り出した雅貴がバンドを締めると、その時計は彼の手首によく映えた。
文字盤のサイズ感もぴったりで名前はほっと息を吐く。
「よかった、ぴったりね」
「大切に使うよ、ありがとう。名前がくれるものは何だって嬉しいが…時計を送る意味も分かっているんだろ?」
真っ直ぐにこちらを見つめる青色に微笑んで返す。
「あなたと同じ時を刻む…その意味を込めて贈るわ。雅貴、あなたがこの世に生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう。この先も一緒の時を過ごさせて欲しいの」
「はは、やっぱり名前には敵わないな。俺をどれだけ惚れさせたら気が済むんだ」
雅貴が嬉しそうに目を細めた。
大きな手が名前の手を包み込む。その体温は温かくて優しい。
愛おしそうに名前の指に嵌められた結婚指輪を撫でながら雅貴は言う。
「最愛の名前にこんな風に祝ってもらえるなんて、最高の誕生日になったよ。ありがとう、愛してる」
「…っん」
優しく手の甲にキスを落とされて思わず声が出てしまった。その様子に雅貴はくすりと笑う。
「可愛いな」
「あの、まだ、プレゼントがあって」
「まだあるのか?」
「その………私、なんだけど」
理解が追いついていないらしい雅貴が瞬きをしているが、そのまま続ける。
「…っ、えっちな、下着…で、寝室で待ってるから…っ」
熱い、顔がとんでもなく熱い。
我ながら馬鹿なことをして墓穴を掘っていると思う。
腕時計と食事だけでは心許なくて、確実に喜んでくれるであろう夜の営みをプランに組み込んでしまった自分が恨めしい。
夫を直視できず赤い顔を隠すように俯いた。
「名前、そりゃ反則だ。可愛すぎる」
「…っぅ…恥ずかしい」
「それじゃあ、ありがたくえっちな名前を頂こうかな」
「お手柔らかに…お願いします」
「すまないが、それは約束はできないぞ」
席を立った雅貴が名前の頭を優しく撫でる。
「とりあえず風呂に入ってくるよ」
「うん…」
脱衣所に消えた夫を見て、名前は後片付けを済ますと寝室に向かった。