ある一説には

「ごめんなぁ、付き合うてもらって」
「ううん、私が手伝うって言ったんだから気にしないで」
みかくんと2人、人の賑わうショッピングモールを歩く。
春から一人暮らしをするというみかくんのために生活必需品なんかを買いに来たのだ。
ショッピングモールは新生活セール!みたいなポップがたくさんあって、いやでも年度の切り替わりを意識させられる。
……新年度、かぁ。
「菜々ちゃん?暗い顔してるし、少し休憩でもする?」
「え、大丈夫。ごめんね」
心配そうにみかくんに顔を覗き込まれて、あわてて明るくふるまう。
ダメだなぁ、ちゃんと吹っ切れたと思ってたのに。
みかくんは小さく苦笑して、疲れたらすぐに言うように私に告げた。
その心配の仕方が少し斎宮先輩に似ててくすっとしてしまったのはここだけの話。

「あ、ここじゃない?」
「そやね。いいのがあるとええんやけど」
目当ての店にたどり着き、中に入る。
高校生にも手の出しやすい価格帯の店内は少しポップな雰囲気で、いつものみかくんとはだいぶ印象が違う。
「これとかかわええなぁ」
「みかくんのセンスって独特だよね……斎宮先輩がこれでお茶飲んでる姿とか想像つかないかも」
「確かに、お師さんならこういう綺麗な柄の方が好きそうやんね」
「ほんとだ、斎宮先輩っぽい。対になってるカップも可愛い」
なんて、2人で朗らかに食器やカップを見繕っていると、店員さんに声をかけられた。
「そちらの商品、カップルにとても人気なんですよ〜」
「へ!?お、おれと菜々ちゃんはそんなんじゃ……!」
ぼんっと効果音でも付きそうな勢いで真っ赤になったみかくんが顔の前でぶんぶんと手を振る。
自分以上に動揺しているみかくんを見て、逆に私は冷静になってしまった。
「そうなんですか?とってもお似合いだったのでつい……。何かお探しのものがあれば、声をかけてくださいね」
「あはは……ありがとうございます」
愛想笑いを返すと、店員さんはその場から離れていく。
ちらりとみかくんの方を見れば、真っ赤になった頬はまだ引いていなかった。
「みかくん、大丈夫?」
「へ、あ、うん、大丈夫やで!?」
全然大丈夫じゃなさそうな様子に、とりあえず休憩しようかといったん店を出た。

「なんや、ごめんなぁ」
「いいよいいよ、気にしないで」
モールに入っているカフェで一息つく。
買うものは粗方検討をつけてきたし、きっと問題ないだろう。
「でも、菜々ちゃんは朔間先輩と付き合うてるんやろ、他の男と恋人〜みたいに言われるのはええ気がせんのとちゃう」
「え!?いやいやいや、どうしてそうなったの?」
まさかの発言に思わず慌ててしまう。
朔間先輩が卒業しちゃうのは寂しいなと思ってはいたけど、それだけで。
付き合っているとかでは全くないはずだ。
「付き合うてるんとちゃうのん?」
きょとん、とした表情で尋ねられて苦笑した。
「違うよ?」
「じゃあ、お師さんの勘違いなんかなあ」
「?」
「菜々ちゃんは朔間先輩の彼女だから、下手なことはするなって言われてたんよ」
「え!?」
まさかの発言に目を見開く。
いやいやいやいや、本当にどうしてそうなった?斎宮先輩!?
「でも、朔間先輩の恋人じゃないなら安心やね。おれも菜々ちゃんのこと好きでいてええんや」
「……え」
まって、いま。さらりと爆弾を追加しなかった?
「み、みかくん?今のって、」
「おれ、菜々ちゃんのことずっと好きだったんよ。朔間先輩の恋人なら諦めなあかんって言い聞かせてたけど」
……まじか。突然の好意にどう応えるべきかわからずに視線を逸らすと、その先で見知った姿が目に飛び込んできた。
あれって……朔間先輩?
朔間先輩はまっすぐこちらの方へ近づいてきて、目の前で止まった。
「面白い話をしておるようじゃのう」
「さく、ま、せんぱい」
「くっくっく、そう化け物でも見るような目をするでない……我輩傷ついてしまうぞい?」
朔間先輩は穏やかに笑いながらもみかくんに対して威嚇するような雰囲気が出ていて、思わず怯みそうになる。
「のう、影片くんや。菜々を借りてもよいかのう?」
みかくんが少し怪訝な顔をしながら頷くと、朔間先輩は私の手を取ってカフェを出た。

「あの……朔間先輩」
「ん?なんじゃ」
「どうして、」
どうしてここにいるのか、とか、どうして二人きりに、とか聞きたいことはたくさんあるのに、うまく言葉が出てこない。
なかなか続きを言わない私の頭を朔間先輩がぽんと撫でる。
「余裕がなくてすまぬのう。……菜々と影片くんが仲良さそうじゃったから、嫉妬したんじゃよ」
「……え?」
「我輩の悪い癖じゃな。失ってからでは遅いと理解はしていても、行動に出さねば意味がない」
朔間先輩は意味深に呟くと、まっすぐに私の方を見た。
真剣な雰囲気にごくりと息をのむ。
「我輩は菜々を愛しておる。他とは違う、特別な意味で」
「……朔間先輩、」
目を見開く私に、朔間先輩が優しく微笑みかける。
どくどくと加速する心臓の音が、やけに大きく聞こえていた。

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