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夕陽は半分を残し、海の藻屑になってしまいそうだった。
さようなら。途方に暮れているニルは眩い光が過ぎた後のことは考えていない。
船乗りの男には、その光景が目に余ったので声をかられる。
「ネェちゃんよぉ、大丈夫かい?港の夜は冷えるぞ〜泣きっ面に蜂だぜ」
ヒソカ「や」
船乗りの男の言葉を遮るように、挨拶の声がする。
ニル「ヒソカ……?」
膝を抱えるニルは思わず見上げて、粗相を犯したように空かさず涙塗れの顔を隠す。
ヒソカ「大丈夫。思ってるほど酷くないよ」
ストンとニルの隣に腰を下ろし、真似するように膝を抱える。
ヒソカ「良かった。まだ沈んでなくて」
ニル「なんでここに来たの?」
ヒソカ「ボクは気分転換によくここに来る。キミこそ、どうしたんだい?」
ニル「わたしはもう戻らない。そう伝えて」
ヒソカ「得意なことはタダじゃやらないよ{emj_ip_0836}」
………… 病み上がりにカネをせしめてくるってどうゆう了見なのよ … … …
一人は顔を背け、一人は夕陽を眺めていた。
世界が傍の奇術師の髪色に染まっている。
赤く赤く、燃えている。
ヒソカ「本当に戻る気ないのかい?」
ニル「そういったでしょう。あなたが来てくれてちょうど良かったわ」
鼻水を啜る音と共に、ニルは立ち上がろうとしたが、尻が離れない。すぐにバンジーガムが発動されていると分かった。
ニル「っんの真似よ!」
剣幕を立てて、ヒソカを見やった。しかし、黄昏ている彼には届かなかった。
何を考えてるか、彼が何を見ているか、あの夕陽のことを考えているのか、純粋に夕陽を見ているのか。何も分からなかった。
やがて水平線を眺め、照らされていた横顔が、ゆっくり、ゆっくりと音も立てずに左に向いた。
ニルの目を、まじまじと見つめる。アジトで注がれた視線の中で、一つだけ悪意のない視線を感じていたことを思い出した。
好奇心や猜疑心というものがない、視線を。
彼の顔をこれほど近くで見たことはなかった。いや、誰の顔だってここまで近づいてみることはない。
半分は夕陽の残り火に照らされ、半分は翳る。
ピンクの星、緑の涙、カナリーイエローの透き通る目、温度の失せた青白い肌、どれもが奇妙に美しかった。
白い腕を掴んだ手は、女のように細いのに、とても大きかった。
ヒソカ「ボクは周りが思ってるほど器用じゃない。詭弁一つもまともに出来なくてね。
でも人が何を考えてるかはすぐにわかるんだ。これがボクの特技の一つ」
君には特技はある __?
__ そんなものないわよ
あるだろ?一つぐらい __
__ 私がそうと思ったものは、同じ特技を持ったその誰かよりも ずっとずっと 劣っている
ペシミズム 悲観主義者 厭世観 __
__ え?
君のような人を現すのに、造られた名前。いつも逆の方向に向かって歩いてるらしい __
__ みんなが歩く方向に、私の求めてるものなんてないもの
キミには、真っ二つのあの夕陽がどう見える? ___
__私を
__置き去りにするように見える
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